高齢化が進む中国の介護用品市場

目次

1. 中国の高齢者人口

国家統計局の発表によれば、中国の人口は 2014 年末時点で 13 億 6782 万人で、このうち 60 歳以上の高齢者は 2 億 1242 万人、65 歳以上は 1 億 3755 万人となっている。 労働力人口(15-64 歳)100 人あたり 13.7 人の高齢者(65 歳以上)を支えているが、2035 年 には65 歳以上の人口が4 億人を超えるという予測もある。平均寿命は男性が72.38歳、 女性が 77.37 歳となっている(2010 年)。なお世界的には 65 歳以上を高齢者としているが、中国では「老年人権益保障法」などで 60 歳以上と定めている。

省・直轄市別で最も高齢者が多いのは重慶市で、60 歳以上の人口が全体の 17%を占める。2 位以下は四川省、江蘇省、遼寧省、安徽省、上海市、山東省、湖南省、浙江省、 広西チワン族自治区と続く。6 位の上海市は、同市の戸籍を持つ 60 歳以上の人口が 2011 年末時点で 347.76 万人おり、全体の 24.5%に達する。

2. 高齢者福祉サービス施設の状況

日本では介助の度合いを、「自立、見守り、一部介助、全介助」の 4 段階とすること が多いが、中国では「老年人社会福利機構基本規範」において、日常生活を自立して行 うことができる「自理老人」、日常生活において軽度から中度の介助が必要で、多くの場合は手すりや杖、車いす、昇降機を必要とする「介助老人」、生活全般にわたって常 時全面的な介護が必要な「介護老人」の 3 段階と定めている。また政府の統計調査によっては、「健康」、「基本的に健康」、「健康ではないが自活できる」、「自活できない」の 4 段階としている場合もある。

民生部のまとめでは、2014 年時点で全国にある宿泊設備を備えた各種高齢者福祉施 設は 94,110 カ所で、このうち公的な養老サービス機構(老年社会福利院、養老院、老人 院、護老院、護養院、敬老院)が 33,043 カ所、社区養老サービス施設(託老所)が 18,927 カ所、互助型養老施設が 40,357 カ所、軍人・離退職幹部休養所が 1783 カ所となって いる。

各種施設の合計ベッド数は 577.8 万床で、2014 年末時点で入所する高齢者は前年比 4.2%増の 318.4 万人となっている。

一方で宿泊設備を伴わないものとして、老齢事業機関・企業が 2,558 社、老年法律援 助センターが 2.1 万カ所、老齢維権協調組織が 8 万カ所、老年学校が 5.4 万カ所(在学人数 733.1 万人)、各種老年活動室が 34.9 万カ所ある。

中国老齢科学研究センターが発表した「中国養老機構発展研究報告」によれば、全国の老人福祉施設(いわゆる老人ホーム)のベッド数は 2000 年に 120 万床だったが、2014 年には 550 万床を突破。しかし老人福祉施設 257 カ所を調査したところ、空きベッド率は 48%に達しており、損失が出ていると答えた施設は全体の 32.5%に上っている(利益ありは 19.4%、収支均衡は 48.1%)。

政府は高齢者産業の発展を声高に叫んでいるが、実際には需要と供給のバランスが取れておらず、特に民間の老人福祉施設は供給過剰だという。その理由として、施設の立地や設備水準、利用料金がニーズに合っていないこと、そもそも金銭を支払って高齢者サービスを受けるという習慣がないこと、サービスが高齢者の嗜好や習慣、健康状態に合っていないこと、さらには国として取り組むべき高齢者事業と市場が生み出す高齢者産業を混同して政府が過剰な投資を呼び込んでいること、高齢者をターゲットにした詐欺や犯罪が多いことから高齢者サービス全体の信用が失われていることなどが挙げられている。

3. 高齢者用品に特化したネットショップ

中国では高齢者は家庭で面倒をみるものという伝統的な観念が強く、また費用等の理由もあって施設に入所せず、代わりに家政婦を雇って老親の身の回りの世話をしてもらう家庭も多い。しかし日本のように介護用品や高齢者向け商品が充実しておらず、店頭で手に入りやすいのは医療用の本格的なものか、あるいは健康保健食品と呼ばれる栄養補助食品のようなものばかりだ。

日本の高齢者向け商品は 4 万種類とも 5 万種類とも いわれるが、中国ではわずか 2,000 種類ほどしかないとのデータもあり、ベビー用品と 同様に家族がインターネットで購入する動きも増えているものの選択肢は限られている状況だ。 ただでさえ取扱いの少ない高齢者用品だが、天猫や京東といった総合 EC モールよりも専門 EC サイトの方が充実している傾向がある。代表的な EC サイトを紹介しよう。

● 嘉年乐(JIANIANLE) http://www.jianianle.com

2011 年 8 月に高齢者用品の専門 EC サイトとし てサービスを開始し、2014 年 11 月にリニューア ル。主要な銀行 13 行と提携しており分割払いにも対応している。体温計や血圧計といった小型電子機器、病院にあるような大型の物療機器や人工呼吸器といったものは品揃えが豊富だが、食事や入浴といった日常生活の介助用品はカテゴリーごとに数個しかなく、そのほとんどは日本の幸和製作所のブランド「TacaoF(テイコ ブ)」の商品となっている。

● 太上福品 http://www.zanbama365.com

高齢者用品のネットショッピング以外に、オフ ラインでの各種養老サービスや保健サービスを提供している。小型電子機器や栄養補助食品は種類が豊富だが、介護用品の取り扱いはごくわずかで、 生活介助のカテゴリーには手すり 2 点と浴室用イ ス 1 点、おむつ 1 点しかなくあまりにもお粗末だ。

● 可靠福祉(COCO ELDERCARE) http://www.coco1mall.com

介護用品メーカーのネットショップとして 2015 年 6 月にサービス開始。自社ブランドのおむつや業務用洗剤の取り扱いは多いが、食事や入 浴といった日常生活の介助用品は日本ブランドの商品ばかりだ。多くの商品に株式会社ケアマックスコーポレーションが運営する法人向け介護用品販売サイトのロゴが貼られており、日本のおよそ 2 倍の値段が付けられているが正規商品なのかは不明。

● 夕乐购商城 http://www.seiloogo.com

2009 年7 月に設立された高齢者用品販売会社のネットショップで、北京市内にある実店舗での受け取りや店舗からの直送にも対応している。食事介助用品の取り扱いはなく、杖や歩行器、紙おむつ類の種類が豊富。紙おむつ「ライフリー」の中国版は10 枚入り 1 パックが 33 元。

● 幸福 9 号 http://www.xf9.com

2014 年 3 月にサービス開始。ネットショップと実店舗を組み合わせた O2O モデルを採用している。 上海、南京、武漢など全国 10 カ所で「老年人楽園」 という 2,000 平米を超える広さのカルチャーセンターを運営しており、ダンス、将棋、書画などを楽しむスペースのほか、高齢者向け商品をそろえたショッピングエリア、レストランが備 わっている。

● 大慈商城 http://www.daci.com

2012 年に家庭用医療機器や高齢者用品の BtoC サイトとしてスタート。本社は瀋陽にある。電動車いすとシニアカーの販売が中心で、電動ベッドや歩行訓練用機器も少量扱っている。天猫(Tmall) の店舗ではシニアカーのみを販売しているが、購入者のコメントも少なく売れ行きは思わしくないようだ。

● 南北巣 http://www.nbcyl.com

2014 年 10 月にサービスを開始し、2015 年 7 月にはモバイルアプリ版をリリース。高齢者向けの衣類やかばん、靴、化粧品、宝石、家電な どが充実しており、介護用品はごくわずか。ほかにも高齢者をターゲットにした旅行ツアー商品、老人ホームや高齢者向けマンション等の不動産商品、養老保険や投資商品を扱っている。

● 蜜爸妈 http://www.mebama.cn

2014 年 10 月にサービススタート。ヘルスケ ア商品、保健食品、マッサージ用品、携帯電話、 ツアー商品を中心に扱っており、介護用品の取 り扱いはほぼない。父親向け、母親向けの特設ページがあり、全般的に“老親への贈り物”を 扱うサイトといった趣だ。

4. 日本の介護用品 EC に商機あり?

現状では健康な高齢者をターゲットにしたネットショップが多く、いわゆる介護用品の販売はわずかだ。しかも車椅子や介護ベッド、杖の取り扱いは多いが、日本のようにやわらかさで選べる介護食や身体の状態で選べるおむつ、かつら、使いやすさに配慮した食器や脱ぎ着しやすい衣類といったものは無いに等しい。介護する側の負担を軽くするための商品や衛生用品といったものの取り扱いも無い。

中国で介護用品を販売するにあたっては、今までなじみのない商品である分ネットショップだけでなく実店舗やショールームを設けて、商品の使い方や利便性を丁寧に説明する必要があるだろう。また生活習慣の違いにも注意が必要だ。例えば中国では日本ほど頻繁に入浴する習慣がなく、 特に高齢者は体を冷やす等の理由から清拭程度で済ますことも多いため、入浴介助商品への関心は薄いと予想される。

各地に保税区が整備され越境 EC のハードルは下がっているが、進出にあたっては通常以上にしっかりと現地調査を行い、“介護用品を利用す るという習慣”を作り上げるくらいの覚悟が必要となりそうだ。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

中国ビジネスをワンストップでご支援しています。クララは20年以上にわたり日本と中国の間のビジネスを牽引している会社で、日中両国の実務経験と中国弁護士資格を有するコンサルタントの視点・知見・ネットワーク・実行力を生かして、お客様の課題解決と企業成長を強力に支援しています。

Webサイトはこちら
>>日本企業の「中国事業支援」で実績20年以上 | クララ

目次