中国のフィットネスクラブの歴史と従来型フィットネスクラブの問題点
中国のフィットネスクラブ市場の歴史はまだ浅く20年程度である。デロイト中国がまとめた「2019-2020中国フィットネスクラブ白書」によれば、中国で健康に対する意識が芽生え始めたのは2000年から2003年頃で、2004年から2010年にかけて一気にフィットネスクラブが乱立した。その後、2011年から2015年にかけてフィットネスクラブの淘汰が始まり、2016年から現在にかけて24時間オープン型、都度払いのスタジオレッスン特化型など新しい運営形態や仕組みを取り入れた新型フィットネスクラブが店舗数を伸ばしている。
従来型のフィットネスクラブは、日本のように月額料金を支払うのではなく、一度に1年分の利用料金をまとめて支払う“年払い”が一般的だ。しかも2年や3年の長期契約を選んだ場合、最初の入会時に全額を一括で払わなくてはならない。利用料金を明示していないフィットネスクラブも多く、この場合は見学に行った際に料金を確認して、交渉することになる。ちなみに、日本のように平日会員や週末会員などと細かく分かれてはおらず、一度会員になれば時間も曜日も無制限で利用することができる。
上海市内にある従来型のフィットネスクラブの利用料金は、1年で3,000元(約5万円)前後なのだが、店側は2年なら4,000元、3年なら4,500元というように割引を提示して、当たり前のように長期契約を売り込んでくる。ちなみに上海の平均給与は2020年時点で約6,500元となっている。
さらに、実際にフィットネスクラブに通い始めると、今度はトレーナーから直接パーソナルトレーニングの売り込みをされることになる。フィットネスクラブで働いているトレーナーは、パーソナルトレーナーとしての収入を別で得なければ成り立たないのだ。マンツーマンのパーソナルトレーニングは、トレーナーや回数によってバラつきはあるものの、相場は1回あたり1時間程度で300元から500元だ。もちろんこれも、10回分や20回分を一度に購入するよう売り込まれる。
入会時に煩わしく、実際に通い始めても煩わしい目に遭うのだが、さらにプラスしてフィットネスクラブの倒産や夜逃げは多い。前払いした料金がきちんと返金されるとは限らず、ある日突然閉店して、一切返金されないケースも少なくない。
新型フィットネスクラブ「超級猩猩(SUPERMONKEY)」とは
こうした従来型のフィットネスクラブに対抗し、都度払い、月額制、また売込みをしませんと宣言する新しいタイプのフィットネスクラブが、ここ数年で店舗数を伸ばしている。
新型フィットネスクラブの1つである「超級猩猩(SUPERMONKEY、スーパーモンキー)」は、現在、上海、杭州、南京、武漢、北京、杭州、深セン、成都に200店舗以上展開している。ランニングマシンや筋トレ用の器具などが利用できるスポーツクラブのような形態ではなく、スタジオレッスンのみに特化したフィットネスクラブだ。オンラインでレッスンを予約して、料金もオンラインでレッスンの度に支払うので、従来のフィットネスクラブのように売り込みされることもなく、入会手続きもシンプルで、好きな時に好きなレッスンに参加できる気軽さが人気の理由だ。
超級猩猩のスタジオ(筆者撮影)
展開している都市
スタジオレッスンは、ズンバやボクササイズのような有酸素運動はもちろん、スピニング、ヨガ、ダンス、ダンベルを使ったトレーニングクラスまで様々だ。利用料金はレッスンによって異なり、69元、89元、129元、159元となっている。特に道具などを使わない一般的なクラスは69元で、専用のトレーニング器具等を使用するクラスは89元以上であることが多い。
豊富なレッスンの種類
利用料金は1回ごとの都度払いだが、事前に500元をチャージしておけば1レッスンあたりの料金が5%引きになる。更に2,000元チャージすれば、100元がプラスされ2,100元分使うことができる。レッスンのキャンセル待ちをするには事前にチャージしておく必要があるため、1~2回レッスンに参加してみて続けようと思ったら、とりあえず500元分チャージしておく人が多い。
中国なのでもちろん“紹介クーポン”があり、すでに超級猩猩に通っている友人の紹介があれば、初回レッスンは30元引きで参加できる。また友達が初回レッスンを終えると、紹介した側にもレッスン料金の割引クーポンが付与される。
超級猩猩はレッスンの予約と同時に決済も完了
超級猩猩のスタジオレッスンの予約は、微信(wechat)のミニプログラムから行う。ミニプログラムを開いたら、希望するレッスンを選んで、そのままオンラインで決済を行うだけだ。支払いはチャージ残高があれば自動的にチャージ残高から差し引かれ、チャージをしていない場合はWeChat Payからの支払いになる。予約が完了するとwechatで予約確認のメッセージが届き、レッスン当日にもレッスン時間のお知らせが届くようになっている。
超級猩猩の予約は少々変則的で、毎週金曜日の22時30分に翌週月~水曜日のレッスン枠が開放され、木~日曜日のレッスン枠は毎週土曜日から毎晩順に開放される。人気のクラスは金曜夜の枠開放ですぐに埋まってしまうこともあるので、定期的に通っている人は早めに予約をしている。レッスン開始の6時間前までであれば無料で予約の取り消しができるため、とりあえず予約を入れておき、当日の昼くらいまでに参加するかどうか決めるという人も多い。
なお、レッスンの種類やスタジオにもよるが、1クラスの人数は20~30名となっている。
土曜日の夜中1時過ぎですでに水曜の夜のクラスが満員でキャンセル待ちとなっている
レッスンを選んだら予約(預約)のボタンを押す
日時などを確認したら、一番下の「超猩支付」を押して決済へ
「支付成功(決済完了)」の表示が出たら予約が完了する
予約完了と同時にWeChatにも確認メッセージが届く
レッスン当日はスマホを忘れずに
ほとんどの超級猩猩はショッピングモールの一角に入居しているのだが、レッスンスタジオには受付もなく、スタッフもいない。いるのは、レッスンごとにフロアや器具の掃除をしてくれる人だけだ。
先ほどとは別の店舗の入り口(筆者撮影)
基本的に無人のスタジオなので、入口は常時ロックされている。レッスン開始時間の15分前になると、スマートフォンに入口のパスワードが送られてくるので、その番号を使って入口ドアを開錠してスタジオに入る仕組みになっている。
レッスンの15分前になると入り口ドアのパスワードが届く
スタジオ入口のオートロック(筆者撮影)
スタジオは非常にシンプルな設計で、更衣室も男女兼用で試着室のような個室になっており、シャワールームはない。ロッカーも鍵のない簡単なつくりで、鍵が必要な人は別途購入して施錠する。鍵のほか、レッスン中に飲むための水もスタジオで購入でき、もちろんWeChatPayでQRコードをスキャンして支払いをする。レッスンで使用するヨガマットやダンベルなどは用意されているが、レッスンウエアやタオルは自分で用意する必要がある。ちなみに、最近はフィットネスクラブに通う人も多く、またどこの会社でも出勤時の服装は自由であることが多いため、退勤後のレッスンのためかスウェットにスパッツというスタイルで出勤している人もよく見かける。
上:スタジオ内の様子 下:更衣室(いずれも超級猩猩のミニプログラムより引用)
さて、スタジオに入ったら自分のスマートフォンのWeChatで、インストラクターのスマートフォンに表示されるQRコードを読込んで出席確認を行う。インストラクターもこれで出席者を把握しており、自分のレッスンに初めて参加した人もわかるようだ。インストラクターによってはWeChatに表示される名前を呼んで、参加者の顔と当日の状態を確認してくれることもある。参加者はレッスンにより異なるが、運動初心者が比較的多く、若い女性の割合が高い。
インストラクターのスマートフォンに表示されるQRコードをスキャンする参加者(筆者撮影)
レッスン開始前には、ほとんどのインストラクターが、初めて参加する人のために注意事項を説明してくれる。インストラクターはLesMillsなどの海外でも認められている資格を持っているか、超級猩猩のインストラクター養成プログラムを完了している。どのインストラクターも面倒見がよく、明るく接しやすい人が多い印象で、運動初心者でも安心して参加できるだろう。
インストラクター紹介には、LesMillsやヨガの国際資格を持っていることが書かれている
レッスン終了後は、インストラクターと参加者全員で一緒に記念撮影をする。写真はミニプログラムで確認できるのだが、多くの参加者が写真をWeChatのモーメンツにあげている。日本でいうと、充実した生活をインスタグラムで自慢するのに近いだろうか?
また、レッスンに対するフィードバックを求めるメッセージが届くので、スタジオ、インストラクター、レッスン内容に対する感想や要望などを送ることができる。その他にも、レッスン参加時間を元にした全国ランキングの通知も届く。ミニプログラムからは今までのすべての期間、年ごと、月ごとで、自分のランキング順位や総レッスン時間が確認でき、当然のことながらWeChatへのシェアボタンがついている。
全国ランキングの画面
レッスン終了後に届くフィードバックの案内とランキング・総参加時間を知らせるメッセージ
従来のフィットネスクラブに比べて、超級猩猩は料金体系が明確で迷惑な押し売りもなく、予約からレッスン終了後まで非常にスマートな仕組みを採用している。新型なのはシステムだけではなく、ユーザー体験も全く新しい。しっかりとしたインストラクターとレッスン内容が用意されているのはもちろん、SNS用の写真撮影や競争心を煽る全国ランキングの通知といったターゲットである若い世代が喜ぶ体験が、超級猩猩の人気の理由だろう。