全国人民代表大会常務委員会は 2020年10月17日に「輸出管理法」を可決し、公布した。2020年12月1日より施行されている。本稿では、輸出管理法の重要なポイントを整理し、最後に日系企業への影響についてまとめている。
1.適用対象(管理品目)と定義
両用(転用可能)物質、軍用品、核、およびその他の国家の安全と利益の保護、拡散防止等の国際義務の履行に関連する貨物、技術、サービスなどの品目(以下「管理品目」という)の輸出規制に本法を適用する。この管理品目には、品目に関する技術資料等のデータが含まれる。(2条)
本法でいう輸出管理とは、中国の域内から域外への管理品目の移転、および中国公民、法人、非法人組織が外国組織、個人へ管理品目を提供することについて、国家が禁止あるいは制限措置を取ることをいう。(2条)
本法でいう両用物質とは、民用と軍用のいずれの用途も有するか、あるいは軍事的な潜在力の向上に資するもので、特に大量破壊兵器およびその運搬手段の設計、開発、生産、使用に利用することが可能な貨物、技術、サービスを指す。(2条)
管理品目の国境通過、中継輸送、通し輸送、再輸出または保税区・輸出加工区等の税関特別監督管理区域および輸出監督管理倉庫、保税物流センター等の保税監督管理区域から域外への輸出についても本法の関連規定を適用する。(45 条)
2.管理方法
国家が管理品目リストの作成、輸出許可制度の実施などの方式を通じて管理する。(4条)
国務院、中央軍事委員会などにおいて輸出管理を担う部門(以下、「国家輸出管制管理部門」という)は、管理品目の輸出先の国・地域を評価し、リスクレベルを確定して、相応の規制措置を取る。(8条)
国家輸出管制管理部門が輸出管理品目リストを制定、調整し、公布する。輸出管理品目リスト以外の貨物、技術、サービスについても、2年を超えない期間において臨時管理を実施することができる。(9条)
国家輸出管制管理部門は、次のいずれかの状況に該当する輸入業者および最終顧客について、禁輸企業リストを作成し、管理品目の取引の禁止・制限、輸出中止命令など必要な措置をとることができる。(18条)
・最終顧客又は最終用途の管理要求に違反している
・国家の安全と利益に危害を及ぼす恐れがある
・テロ目的に管理品目を使用する
3. 輸出許可制度
国家は管理品目の輸出について許可制を実施する。輸出事業者は国家輸出管制管理部門に許可を申請しなければならない。(12条)
輸出事業者からの管理品目の輸出許可申請では、以下の要素を総合的に考慮して審査を行う。(13条)
・国家の安全と利益
・国際的義務と対外公約
・輸出の類型
・管理品目のセンシティブ度
・輸出先の国または地域
・最終顧客と最終用途
・輸出事業者の信用記録
・法律、行政法規が定めたその他の要素
輸出事業者は、国家輸出管制管理部門に、管理品目の最終顧客および最終用途に関する証明書類を提出しなければならない。この証明書類は最終顧客または最終顧客が所在する国・地域の政府機関が発行したものとする。(15条)
4. 監督管理・法的責任
国家輸出管制管理部門は、本法に違反する疑いのある行為について、事業所や関連場所への立入検査、調査対象者や利害関係者などへの聴取、関連する証憑・協議・会計帳簿・業務に関連する書類や資料の閲覧およびコピー、輸出に用いる輸送手段の検査と積み込みの阻止、関連品目の差し押さえ・留置、銀行口座の照会を行うことができる。(28条)
輸出事業者が、次のいずれかの行為を行った場合、違法行為の停止を命令し、違法所得を没収した上で、違法経営額に応じた罰金を科す。(34条)
・許可なく管理品目を輸出する
・許可範囲を超えて管理品目を輸出する
・輸出禁止管理品目を輸出する
輸出事業者が違法な輸出管理行為に従事していると知っていながら、代理、貨物輸送、発送、通関、ECプラットフォーム、金融などのサービスを提供した場合、当該サービスの提供事業者に警告を与えた上で、違法行為の停止を命令し、違法所得を没収、罰金を科す。(36条)
輸出事業者が禁輸企業リストに掲載された輸入業者や最終顧客と取引を行った場合、警告を与えた上で、違法行為の停止を命令し、違法所得を没収、罰金を科す。(37条)
5.域外適用・対抗措置
中国の領域外の組織や個人が本法に違反し、中国の国家の安全と利益に危害を及ぼし、拡散防止等の国際的義務の履行を妨害した場合、法的責任を追及する。(44 条)。
いかなる国あるいは地域が、輸出管理措置を濫用し、中国の国家の安全と利益に危害を及ぼした場合、中国は当該国・地域に対し対等の措置を講じる。(48 条)
見解とポイント
本法は、国家の安全と利益、武器の拡散防止等を理由として、特定の製品、技術、サービスの輸出や海外移転、海外の企業や個人への提供を制限または禁止する輸出管理制度を定めるものである。2020年12月1日から施行されている。
これまで中国政府は、安全保障輸出管理を目的に「両用物質・技術の輸出入許可証管理弁法」、「化学品監視制御管理条例」、「核輸出管理条例」などの法令を施行しているが、本法はこれらをまとめる上位法として位置づけられるものである。
本法については、2017年6月に最初の草案が公表されて以降、日米欧の主要産業団体が連名で意見を提出してきた。特に再輸出規制(45条)については、あいまいな解釈ができることから明確化するよう求めてきたが、結局見直しは行われず草案の表現のままとなっている。また中国企業に所属する外国人に対し、事業に関わる情報の共有や提供を行うことが管理品目の提供に該当する可能性についても規定の明確化を求めていたが、こちらも見直しが行われないままとなっている。
最初の草案は米国再輸出規制(EAR)を参考にしていたことから、仮にEAR同様の取り扱いがされるのであれば、中国で生産した部品を用いて日本で組み立て、完成品を外国へと輸出するようなケースにおいても中国政府の許可が必要となり、外資企業では外国人社員との技術情報の共有に当局の許可が必要となる可能性が指摘されていたことからも、実際にどのような運用がなされるのか、関連法令の発表と併せて注意する必要がある。
本法にはあいまいで不明確な条項も多く含まれており、仮に恣意的な運用がなされれば中国の貿易環境、ひいては外商投資環境に大きな影響を与えることが懸念される。
公式リンク(中国語) http://www.npc.gov.cn/npc/c30834/202010/cf4e0455f6424a38b5aecf8001712c43.shtml
【無料ダウンロード】中国輸出禁止・制限技術目録の日本語訳
本レポートはクララが発行する「中国法令アラート 2020 年 11 月号」の内容を一部抜粋、編集したものです。「中国法令アラート」では、最新の法令・制度変更に関する詳細および予想される日系企業への影響、実務で得た動向変化に関する情報等を毎月 PDF でお届けしています。