ICPライセンスの外資規制緩和について

目次

はじめに

ICPとは「Internet Content Provider」のことで、中国でWebサイトの開設やインターネットサービスを始める際には「ICP登録」や「ICPライセンス」が必要となる。

まずICP登録とは、中国国内のサーバから発信するすべてのWebサイトに課せられている登録手続き(義務)である。一方のICPライセンスは、中国国内でECサイトや通信サービスといったインターネット上でビジネスを行う際に必要な許可で、正式には「電信業務経営許可証」という。許可届出制のICP登録は外資企業でも申請可能だが、許可制のICPライセンスは実務上ほぼ中国内資企業しか取得できなかった。

2022年3月29日、国務院は「一部の行政法規の改正及び廃止に関する決定」(中華人民共和国国務院令第752号)を公表し、「外商投資電信企業管理規定」の改正を行った。

本稿では、外国投資者(外国の自然人、企業及びその他の組織)に係る電信業務への投資規定を紹介しながら、「外商投資電信企業管理規定」の主な変更点を解説し、この改正をきっかけにICPライセンスが外資にも開放されたのか、やはり今でも中国内資企業にしか許可されないのかについて考察する。

1. 中国における電信業務分類

中国において電信業務は、基礎電信業務と増値電信業務に分けられる。

「電信条例」(2016年改正) 

第7条  国は、電信業務経営について電信業務分類に従い許可制度を実行する。 電信業務の経営については、必ずこの条例の規定により国務院の情報産業主管部門又は省、自治区若しくは直轄市の電信管理機構の発行する電信業務経営許可証を取得しなければならない。 電信業務経営許可証を取得していない場合には、いかなる組織及び個人も、電信業務経営活動に従事してはならない。 

第8条  電信業務は、これを基礎電信業務及び増値電信業務に分ける。「基礎電信業務」とは、公共ネットワークインフラストラクチャー、公共データ伝送及び基本音声通信サービスを提供する業務をいう。「増値電信業務」とは、公共ネットワークインフラストラクチャーを利用して提供される電信及び情報サービスの業務をいう。 電信業務分類の具体的な区分は、この条例に添付する「電信業務分類目録」の中にこれを列挙する。国務院の情報産業主管部門は、実情に基づき、目録に列挙する電信業務分類項目について局部的な調整をし、新たに公表することができる。

 

*参考:表1 電信業務分類目録(2015年版)に基づく作成

2. ICPライセンスとは

中国では、経営性電信業務の経営に対して許可制をとっている。「ネットワーク情報サービス管理弁法」(互联网信息服务管理办法)、「電信条例」の定めにより、電信条例の「電信業務分類目録」にある電信業務を行うには、主管部門からICPライセンス(電信業務経営許可証)を取得する必要がある。 

しかし外国投資者による経営性電信業務への参入には、「外商投資電信企業管理規定」が条件を付けており、基礎電信業務の経営にはそもそも参入できず、増値電信業務のICPライセンスの取得は法律要件を満たしていても困難であった。

.「外商投資電信企業管理規定」の改正

2022年3月29日、国務院は「一部の行政法規の改正及び廃止に関する国務院の決定」(以下、「国令第752号」という)を公布し、「外商投資電信企業管理規定」の改正を行った。改正された「外商投資電信企業管理規定」は2022年5月1日より施行されている。

以下では、ICPライセンスに関する2つの重要な変更点について解説する。

(1)外商投資者の出資比率制限の緩和

「外商投資電信企業管理規定」第6条では、基礎電信業務及び増値電信業務を経営する外国投資者に対して出資比率制限を定めていたが、「国令第752号」では、例外の追加及び厳しい条件の削除を通じて外国投資者の出資比率制限が緩和された。

 1)例外規定の追加

「外商投資電信企業管理規定」第6条の出資比率制限は変更されなかったが、「国家が特に規則を設けた場合を除く」(“国家另有规定的除外”)という例外規定が追加された。

「外商投資電信企業管理規定」(修正後)

第6条 基礎電信業務(無線呼出業務を除く)を経営する外商投資電信企業の外国側投資家の、企業における出資比率は、最終的に49%を超えてはならない。ただし、国家が特に規則を設けた場合を除く。 増値電信業務(基礎電信業務における無線呼出業務を含む)を経営する外商投資電信企業の外国側投資家の、企業における出資比率は、最終的に50%を超えてはならない。ただし、国家が特に規則を設けた場合を除く。

 2)「国家が特に規則を設けた場合」の例

「国家が特に規則を設けた場合を除く」とは、ただの空言ではない。例えば、国令第752号による「外商投資電信企業管理規定」の改正前であるが、特定の分野や自由貿易試験区等の特定の地区に限って外国投資者が増値電信業務に参入する場合の出資比率制限を緩和したケースがある。

 <参考1> 

外商投資参入許可特別管理措置(ネガティブリスト)(2021年版) 、2022年1月1日施行
(外商投资准入特别管理措施(负面清单)(2021年版))

*原文(一部抜粋)

電信会社:中国がWTO加盟時に開放を承諾した電信業務に限り、増値電信業務の外資の持分比率は50%を超えず(電子商取引、国内マルチ通信サービス、データ保存転送類及びコールセンターを除く)、基礎電信業務は、中国側が持分支配しなければならない。

 <参考2>

自由貿易試験区外商投資参入許可特別管理措置(ネガティブリスト)(2021年版) 、2022年1月1日施行
(自由贸易试验区外商投资准入特别管理措施(负面清单)(2021年版))

*原文(一部抜粋)

電信会社:中国がWTO加盟時に開放を承諾した電信業務に限り、増値電信業務の外資の持分比率は50%を超えず(電子商取引、国内マルチ通信サービス、データ保存転送類及びコールセンターを除く)、基礎電信業務は、必ず中国側が持分支配しなければならない(かつ、経営者は、必ず法により設立された、基礎電信業務に専門的に従事する会社でなければならない)。上海自由貿易試験区の既存区域(28.8平方キロメートル)の試行政策をすべての自由貿易試験区に普及させて執行する。

(2)外国投資者に対する業績及び運営経験に関する条件が削除された

「外商投資電信企業管理規定」第9条、第10条では、外国投資者に対して良好な業績と業務の運営経験を有することを条件として挙げていたが、今回の改正でこの文言が削除された。このような要求は、外国企投資者にとって投資可能性を根本的に妨げる条件になると思われる。

ただ、基礎電信業務を経営する外商投資電信企業の外国側の主たる投資者は、登録された国又は地域において基礎電信業務経営許可証を取得しなければならないという条件は、改正後も変更されていない(第9条の2)。

「外商投資電信企業管理規定」第9条、第10条(改正前)

基礎電信業務を経営する外商投資電信企業の外国側の主たる投資家は、基礎電信業務への従事にかかる良好な業績及び運営経験を有すること。増価電信業務を経営する外商投資電信企業の外国側の主たる投資家は、増価電信業務経営にかかる良好な業績及び運営経験を有しなければならない。

4.弊社の見解

以上述べたように、この度の「外商投資電信企業管理規定」の改正によって、外商投資企業によるICPライセンスの取得は、法律上ほぼ不可能だったものが可能となった。ICPライセンスについて「これまでよりも外資に開放された」又は「外資に次第に開放する方針」と認識しても良いと考える。

よって法規制という側面からすれば、出資比率などの条件を満たす外資企業であれば、ICPライセンスを申請し、取得できる可能性が高いと思われる。

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この記事を書いた人

中国華南理工大学 法学部卒業。
中国広東、広西の法律事務所にて金融機関、不動産業、ハイテク産業向けに訴訟、契約合規、債務処理等々の民商事法律業務に3年以上従事した後、専任弁護士を経て、クララ入社。家庭用ロボット、リモートサービスの中国進出、製造業のDX化、情報セキュリティ法規制を中心にアセスメントを実施。中国企業との調整、日中間の法務手続き、法律調査業務に強みを持つ。

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