中国 電動スクーター(電動キックボード)のシェアリング事情

目次

1. 米国でブーム到来、新しい乗り物シェアリング

「スクーター(Scooter)」といっても原付バイクではない。日本では「キックボード」とか「キックスケーター」といったほうが馴染みがあるだろうか。前後にタイヤが付いたボードに長めのハンドルがついていて、ハンドルを掴んで乗り、片足で地面を蹴って進む。70 年代には子供用の遊具としてちょっとしたブームになったというから、そのイメージがある人もいるだろう。

英語では一般的に「スクーター」ということから、ここでも「スクーター」と呼ぶ。ちなみにキックボードもキックスケーターも欧米メーカーの商品名だ。

このスクーターに電動モーターを搭載した「電動スクーター」が、米国でシェアリングサービスとして登場した。近距離移動ならば自転車よりも手軽だといい 2018 年に入って本格的なブームが到来した。シェアサイクルと同様にスマートフォンのアプリでロックを解除して利用し、乗り捨ても自由だ。料金は基本料金が 1 ドル、後は 1 分ごとに15 セントかかる。最高時速は 15 マイル(約 24 キロ)で、1km なら 10 分ほどで移動できる。電動スクーターの三大スタートアップと呼ばれるのが、 Lime、BIRD、SPIN の 3 社だ。

● Lime  https://www.li.me

・ 創業は 2017 年、シリコンバレーに拠点を置く。

・ 創業から 1 年余りで全米 78 都市とパリなど欧州 6 都市でサービスを展開中。

・ イメージカラーはグリーン。

・ 2018 年 7 月 9 日に 3 億 3,500 万ドル(約 373 億円)を調達。これまでの累計調達額は 4 億 6,700 万ドル。今回は米 GV(旧グーグルベンチャーズ)や Uber テクノロジーズ等が出資しており、同時に Uber との提携も発表。

・ 1 台あたりの利用回数は 1 日 8~12 回で、1 回の平均利用時間は 15~20 分。

・ 車両の充電や保管をするパートナープログラムに参加すれば、1 時間あたり 30ドル、1 晩 100 ドルの報酬が得られる。サポートを行うファンは「LimeJuicer」と呼ばれる。

● BIRD  https://www.bird.co

・ 創業は 2017 年、ロサンゼルス近郊に拠点を置く。

・ 全米 29 都市と仏パリでサービスを展開中。2018 年中に 50 都市に拡大を計画。

・ イメージカラーはブラック。 すでに 4 億 1,500 万ドルの資金を調達。

・ 充電パートナープログラムに参加すれば、ユーザーはバッテリー切れの車両を1 晩に 3 台まで持ち帰って自宅で充電することができ、1 台につき 5 ドルの報酬を受け取ることができる。

・ 申し込めばヘルメットが無料でもらえる。

● SPIN  https://www.spin.pm

・ 創業は 2016 年、サンフランシスコに拠点を置く。

・ 全米 19 都市でサービスを展開中。

・ イメージカラーはオレンジ。

・ 2018 年 7 月に、セキュリティ・トークン・オファリング(STO)で 1.25 億ドル(約 138 億円)を調達見込みとの報道あり。

急成長する電動スクーターシェアリングだが、すでに普及しているシェアサイクルと同様に、利用が広がるにつれてトラブルも増えている。放置された車両が歩道をふさいでいる、駐車場などの適当でない場所に停められているといった苦情はもちろん多い。都市によっては、日本と同様に歩道を含めた道路の走行が禁止されていたり、運転免許が必要であったり、あるいはヘルメット着用が義務付けられていたりするが、いずれも守られておらず、混雑した道で歩行者にぶつかる事故も多発している。新しい移動手段であるため、どの都市でも法整備が追い付いておらず、営業許可証や許認可のルールの隙をついて営業しているケースも見受けられる。

これらの問題から、サンフランシスコ市では今年 4 月に市内でサービスを行っているLime、BIRD、SPIN の 3 社に州法に違反しているとして業務停止を通告。サンタモニカ市では営業許可証がないことを理由にBIRD に 30 万ドルの罰金を科しており、BIRD 側は支払ったという。

一方で、投入する台数に上限を設けた上で営業を許可する都市や、交通が不便なエリアでの営業に対して助成金を出す試みをする都市もでている。

なお日本では、電動スクーターは原動機付自転車に該当するとされるため、道路運送車両の保安基準に適合し(要するにライトや方向指示機等が必要)、ナンバープレートを付け、自賠責保険に加入しており、軽自動車税を納付していて、さらに運転免許証を持ち、ヘルメットをきちんとかぶって……と条件を満たさなければ道路を走行することはできない。

2. 中国の電動スクーターシェアリングは?

シェアリングエコノミーが盛況な中国だが、意外なことに電動スクーターシェアリングは基本的に禁止されている。日本と同様に「道路交通安全法」でスクーター(中国語では「滑板車」という)の道路での使用が禁止されているためだ。

ただし公園や学校のキャンパス内、マンションの敷地内などで乗ることはできるため、2017 年 3 月という早い段階で、浙江省杭州市拱墅区の産業パーク内に「uma(雲馬)」という電動スクーターシェアリングサービスが登場している。

利用方法はシェアサイクルと同様で、専用アプリで車体の QR コードを読み取って解錠し、目的地に着いたら車体の電源を切れば利用終了となる。利用料金は 30 分あたり 0.5 元で、最初にデポジットとして 290 元を預ける。

管理のため常に GPS で位置情報を取得しており、道路に出れば警告音が鳴り、自動的にロックされて走行不能になるという。当初は試験運用の形で二十数台の電動スクーターを投入したというが、盗難に遭ったり、バッテリー交換等のメンテナンスに手間がかかったりと運営はあまり順調にはいかなかったようだ。

しかし翌月の 4 月には、イタリアのパルマをはじめとする欧州進出の試みが伝えられたほか、シンガポールの電動スクータースタートアップ「Telepod」との提携を発表。現地で Telepod 名義での試験運用を開始した。

料金は 10 分ごとに 1 シンガポールドル、デポジットが 49 シンガポールドルで、まずはマリーナ地区のサンテックシティモール付近に 10 台が投入された。シンガポールでは電動スクーターの利用を一律禁止してはいないが、走行できるのは歩道や自転車用道路のみで、車道を走れば 2,000 シンガポールドルの罰金が科される。

その後、シンガポールにも電動スクーターシェアリングの波が訪れ、Neuron Mobilityが電動スクーター2 万台を投入するなど活気づいている。現在 Telepod は、シンガポール全土に 90 カ所を越えるステーションを設置しており、通常の 1 分単位での利用プランのほか、1 日プラン(デポジットなし、30 シンガポールドル)や 1 カ月乗り放題の月額プラン(デポジットなし、150 シンガポールドル)も用意している。

3. 電動スクーターの主流は中国製

海外で勢いが増す電動スクーターシェアリングだが、その車両を供給しているのは中国のメーカーだ。その上中国国内でも需要が増加しており、道路での走行が禁止されているにもかかわらず、主に通勤の足として電動スクーターの人気が高まっている。

中国の電動スクーター生産台数は、2012 年にはわずか 10 万台足らずだったが、2014年には 100 万台を越え、2015 年には 150 万台を突破した。メーカーも全国に 500 社以上あるといわれるが、大手とされるのは主に次の 5 社だ。

● 小米 (Xiaomi)  https://www.mi.com

小米はスマートフォンメーカーとして 2010 年に北京で創業。今ではライフスタイル・ブランドとして、家電製品からアパレル、生活雑貨まで様々な商品を手掛けている。

中国国内では電動スクーター「M365」の 1 モデルを販売。ブラックとホワイトの 2色で、定価は 1,999 元。一度の充電で約 30km 走行でき、専用アプリでスピードや充電残量等を確認することもできる。

米国の電動スクーターシェアリング市場にとって最大のサプライヤーで、BIRD とSPIN にオリジナルモデルを供給している。特に BIRD は 2018 年 5 月に数千万ドル分の調達契約を結んだばかりだ。残る Lime には次で紹介する納恩博(Segway-Ninebot)が車両を供給しているが、同社は小米グループの企業である。

● 納恩博(天津)科技有限公司(Segway-Ninebot)  http://www.ninebot.cn

2012 年に創業した小米グループの輸送ロボットメーカーで、2015 年に電動立ち乗り二輪車の「セグウェイ」のメーカーを買収している。

中国国内では電動スクーター「9 号電動滑板車」の 1 モデルを販売。ブラックの1色のみで定価は 1,799 元。スピードは時速 20km、一度の充電で約 25km の走行が可能で、オプションを付ければ時速 25km、航続距離 45km まで増やすこともできる。小米の「M365」よりも軽量で、コンパクトに二つ折りでき、こちらも専用アプリでスピードや充電残量等を確認することができる。

すでに述べたとおり、Lime にオリジナルモデルを供給している。

● 浙江楽歩電動車有限公司  http://www.joyor.com.cn

2014 年に杭州で創業した電動車メーカーで、「九悦 JOYOR」のブランド名で電動スクーターを製造、販売している。パリとアムステルダムにデザインセンターがある。国内向けには 5 つのモデルがあり、サドル付きのものや自転車に近いデザインのものもある。それぞれ希望する航続距離に応じたバッテリーのサイズを選ぶことができ、最も安いモデルで 1,299 元、高いモデルは 3,299 元。

● 深セン瑞能徳電子有限公司  https://www.szrnd.net

深センで 2010 年に創業した電動車メーカーで、現在は電動スクーターの製造販売に特化。「RND」のブランド名で複数モデルを展開しており、いずれも LG の輸入バッテリーを使用していることをウリにしている。価格は1,299~1,799元で、主力商品の「M1」は航続距離 20km(バッテリー拡張モデルは 30km)。

● 佛山市正歩科技有限公司  http://zbebike.com

2013 年に広東省佛山市で創業した電動自転車メーカーで、年間輸出額は 1,000 万ドルを越える。一般的な電動スクーターのほか、自転車タイプや三輪車タイプ、変わり種ではスーツケース型や親子で乗れる二人乗りモデルも展開しており、この中では最も中国らしいメーカーといえる。主力の「G1」の価格は、航続距離によって 1,888~2,688元。最も航続距離が長いモデルでは 70km の走行が可能。

4. 品質検査の合格率 0%、製品基準の取りまとめ急務

このほど国家市場監督管理総局が発表した電動スクーターのサンプリングテスト結果で、合格率が 0%だったことが大きな話題となった。

電動スクーターには国家標準規格がないため、同局は「電動自転車通用技術条件」、「携帯式電子製品用リチウムイオン電池およびバッテリーパック安全要求」等の国家標準規格を参考に試験を実施。対象となったのは実店舗で購入した 2 台とネットショップから購入した 38 台の合計 40 台で、いずれもスピードが出過ぎる、ブレーキの利きが悪い、ハンドルや車体の強度が不十分などの問題がみつかり、40 台全てが不合格だった。とりわけバッテリーに関する検査では、試験途中で 8 台のバッテリーが爆発したほか、充電中に過電流になったものが 3 台、耐衝撃性が不十分なものが 4台あった。

さらに制動距離の検査では、一般的な電動自転車の制動距離が 3.7m であるところ、 4m 以内に停止できたのはわずか2 台で、全体の平均は 8.7m だった。最も悪いものは 18.2mで、ブレーキが利かないも同然の状態にもかかわらず、電動自転車の制限速度である時速 20km が出るのは当たり前で、最高で時速 32km に達したものもあった。

同局は、長年に渡って様々な製品の品質検査を行ってきたが、これまでで最も粗悪な製品だとコメントしており、その理由としてメーカーの参入ハードルが低く、電動スクーターの標準規格や製品基準が定められていないため粗悪な製品が市場に出回りやすいことを挙げている。

また 2018 年 7 月 29 日には北京市で、室内で充電中の電動スクーターのバッテリーから煙が立ち上り、わずか十数秒後に大爆発した。この様子をとらえた動画がインターネット上で出回り、つい先日には日本のメディアでも報じられたところだ。

5. 中国でサービス化の可能性は?

仮に中国で電動キックボードの道路走行が許可されたとしても、シェアリングサービスとして成功する可能性は低いと判断する向きが多い。その大きな理由の一つが、同様のビジネスモデルで先行するシェアサイクルに成功例がまだ無いことだ。

利益度外視の莫大な先行投資で、国内のシェアサイクル市場では二大巨頭の地位を築いた ofo と mobike だが、資金繰りに関する不穏なニュースが度々流れており、海外市場へと活路を見出そうとしているが撤退や身売りのうわさも絶えない。2017 年秋に札幌に進出した mobike も今春ひっそりと撤退してしまったし、つい数日前には ofo が韓国進出から 1 年足らずで撤退を決めたと報じられた。ならば国内では安定したサービスが提供されているのかといえば、近頃は車両のメンテナンスが追い付いておらず、故障していたり、部品が無くなっていたりして乗れない自転車ばかりが並んでいると聞く。

現地メディアの報道によると、上海の電動スクーターメーカーの関係者の話として、シェアサイクル用の自転車は卸値が 1 台 700~800 元のところ、電動スクーターは最も航続距離が短い 10km のもので 1,200 元前後、50km のものならば 3,000 元を越えるという。単純に車両の購入コストだけを比較してみても 4 倍の差があり、サービス化しても車両コストの回収すら難しいとの見方が強い。

とはいえ、もし正式に行政の許可が出れば、チャンスを求めて数多くの事業者が参入することは想像に難くない。米国ではバッテリーの充電をユーザーに任せる試みも行われており、安定した収益を上げられる新しいビジネスモデルの誕生が期待される。

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この記事を書いた人

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