政府も積極的に支援する中国の e スポーツ市場

目次

1. 中国の e スポーツ市場概況

2018 年のアジア大会ではデモンストレーション競技として採用された「e スポーツ」。国内外で人気の 6 タイトルで個人種目とチーム種目が実施され、日本チームは「ウイニングイレブン 2018」で金メダルを獲得している。

一方の中国は「英雄聯盟 (League of Legends)」と「王者栄耀 (Arena of Valor)」で金メダル、「皇室戦争(Clash Royale)」で銀メダルをそれぞれ獲得しており、メダル獲得数は出場 9 カ国中最多だった。

中国政府はモバイルゲームを含むオンラインゲームに対して厳しい態度をとっているが、意外にも e スポーツについてはかねてより積極的な支援を行っている。国家体育総局は、今から 15 年も前の 2003 年に e スポーツを第 99 番目のスポーツ種目として正式に認定しており、翌 2004 年には同局が主導する形で初の全国大会が開催されている。

直近では、文化部の十三五(第 13 次 5 カ年計画、2016-20 年)に e スポーツ産業の発展目標が盛り込まれた。また 2018 年 12 月には国家体育総局が主催する e スポーツの全国大会(NESO)が成都で開かれ、現在は地方予選が進められている。アジア大会での実力が示す通り、中国は e スポーツの選手層が厚く、アジアでは韓国と並ぶ e スポーツ強国だ。

中国の IT 調査会社、易観(Analysys)によれば、2018 年の中国の e スポーツ市場規模は1,000 億元を越え、前年比 23%増の 1,121 億元に達する見通しとなっている。2019 年も右肩上がりの傾向は続き、同 16%増の 1,300 億元になると予測する。

これにはゲームに由来する収入、大会の収入、関連グッズ等の収入が含まれているが、全体の 80%以上がゲームに由来する収入で占められている。市場を支えるのは騰訊(テンセント)や網易(NetEase)といった巨大ゲーム会社だが、これらを支えるのはゲームと共に育った若い世代だ。

高額な賞金を得るプロゲーマーは子供たちの憧れの存在となっており、プロチームの“ホームアリーナ”に足繁く通って試合を観戦する熱狂的なファンは増えている。さらに試合やゲーム実況をインターネットの動画配信で楽しむライトなファン層のすそ野は広い。

e スポーツ産業のベースとなるオンラインゲーム市場ももちろん好調だ。今春から新規タイトルの審査が凍結されているものの、2018 年の市場規模はついに 2,500 億元を突破して 2529.7 億元に達し、ユーザー数も 6 億人を越える見通しとなっている。

2. 中国 e スポーツの産業体系

e スポーツにまつわる産業チェーンはまだ発展の初期段階にあるとされ、ビジネスモデルの模索が続いている。現時点ではおおむね次の図のように、ゲーム自体を開発する川上、大会を運営しエンターテインメントとしてのコンテンツを製作する川中、そのコンテンツを配信する川下の 3 つに大きく分けることができる。

このうちゲーム開発会社やパブリッシャーは大手数社の力が強く、新規参入も難しい状況で、当局の管理もしっかりと行われている。他方、コンテンツ製作とコンテンツ配信の領域はビジネスモデルが固まっておらず、特に配信領域では競争が激しくなっている。単純な動画配信にとどまらず、有料会員専用サービスの提供や EC との連携を模索する動きもでているが、その人気につられて他社のコンテンツを無断で配信する海賊サイトも登場している状況だ。

なお各分野の主な顔触れは次のようになっている。

3. 主な e スポーツのゲームタイトル

e スポーツ大会と聞くと、いわゆるプロゲーマーたちが難易度の高いゲームを戦っているようなイメージがあるが、実際には中国で幅広いユーザーに人気のあるゲームが中心となっている。

例えば、数年前から大ヒットしている騰訊のモバイルゲーム「王者栄耀」や 2013 年のリリース以来ファンの多いモバイルゲーム「天天酷跑」は子供にも人気のタイトルだ。近年、国内で行われた e スポーツ大会で採用されたタイトルには次のようなものがある。

ちなみに今年の国家体育総局主催の全国大会(NESO)では、「英雄聯盟(League ofLegends)」(5 対 5)、「絶地求生(PUBG) 」(デモンストレーション試合)、「星際争覇 2」(1対 1)、「炉石伝説」(1 対 1)の 4 タイトルが選ばれている。

4. ゲームの動画配信サービス

動画配信サービスでは、e スポーツ大会のライブ配信のほか、「網紅(ワンホン)」と呼ばれるネット上の有名人によるゲーム実況動画や一般ユーザーのプレイ動画、ゲームに関するオリジナル番組等が配信されている。その市場規模は年々拡大しており、2018 年は 60 億元に迫ると予想される。

また e スポーツ大会を含むゲームのライブ配信サービスのユーザー数も増加の一途をたどっており、2014 年に 0.5 億人だったところ 2018 年は 3 億人を突破すると見込まれている。

ただし市場規模の伸びはユーザー数の伸びに比べて小さくなるとみられ、市場規模が2019 年に前年比 6.12%増、2020 年に同 4.17%増とされるのに対し、ユーザー数は 2019年が 10%増、2020 年が 9.09%増と予想されている。

動画配信サービス市場では、2015 年頃から始まった急成長期に法令が整備され、トッププレイヤーも固定された感がある。ゲームのライブ配信に限ると、虎牙直播と斗魚直播が一軍の二大サービスで、二軍が熊猫直播、戦旗直播、全民直播、企鵝電競、その下に龍珠直播、触手直播などが迫っており、ユーザーの平均視聴時間にもこの構図が表れている。

5. 中国のプロチーム

国内には多くのプロチームがあり、特定のゲームの大会にのみ参加するプロチームもあれば、複数のゲームの大会に出るためゲームごとに選手グループを抱える比較的規模の大きなチームもある。

上海に拠点を置く「WE 電子競技倶楽部」は 2005年に設立された中国初のプロチームだ。PC ゲーム「魔獣争覇」、「星際争覇」、「英雄聯盟」等の大会に参加しており、国際的な e スポーツ大会で数多く優勝している。このほか国内には Invictus Gaming、EDward Gaming、LGD、皇族、QG、OMG、AG、VG、EHOME 等のチームがあり、EHOME には女子選手だけのグループも所属している。

モバイルゲームのプロチームは、ほとんどが PCゲームのプロチーム内のグループとして誕生しているが、AS 仙閣のようにモバイルゲーム「王者栄耀」の大会に参加する目的で設立されたプロチームもある。

AS 仙閣も過去に優勝経験がある「王者栄耀」の 2018 年春季リーグ(KPL)には国内の 12 チーム(AG 超玩会、GK、Hero 久競、JC、XQ、YTG、BA 黒鳳梨、EDG.M、eStarPro、QGhappy、RNG.M、WF.D)が参加した。ちなみに賞金総額は 1,200 万元(約 2 億円)で、優勝は 500万元(約 8,200 万円)、準優勝は 300 万元(約 5,000 万円)となっており、賞金総額は高額化する傾向にある。

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