1. Z 世代が買い集める BlindBox(盲盒)とは?
中国では、1995 年以降に生まれた世代と 2000 年以降に生まれた世代をそれぞれ「95 後」、「00 後」と言い、彼らをまとめて「Z 世代」と呼ぶ。Z 世代の人口はおよそ 1 億 4,900 万人に上るが、彼らの購買力は中国全体の 40%をも占めると言われる。消費意欲 旺盛な Z 世代の間でこの 1~2 年盛り上がりを見せているのが、「BlindBox(盲盒、ブラインドボックス)」だ。
BlindBox とは、5cm×5cm×10cm 程度の箱にフィギ ュアが入っているもので、1 シリーズに 10 種類前後の フィギュアがある。シリーズの中のどのフィギュアが入 っているかはわからない状態で販売されており、レアフ ィギュアもかなり低い確率で含まれている。価格は 1 つ 60 元(約 910 円)前後で、専用の販売機や雑貨店で販売さ れているほか、地下鉄構内などにある飲料の自動販売機 で一緒に売られていることもある。今、この BlindBox の フィギュアをコレクションすることが、Z 世代の間で一種のブームとなっている。
百度によると、BlindBox の起源は日本だというが真偽は特定できていない。中に何が入っているかわからない箱という意味で、「BlindBox(盲盒)」という名称なのだから、いわゆる日本の「ガチャガチャ」のことを指している可能性もある。BlindBoxは、Art Toy(芸術玩具)」や「Designer Toy(設計師玩具)」と呼ばれることもあるが、筆者の周りにいる現地の友人には BlindBox という名前が一番通じやすいように思う。
販売場所の 1 つとして専用の販売機を紹介したが、上海では 1~2 年前から地下鉄の 構内やショッピングモールで必ずと言っていいほど BlindBox の販売機を見かけるようになった。さらには、地下鉄のコンコースやホームにある飲み物の自動販売機にも、新型コロナウイルス対策用の使い捨てマスクと並んで BlindBox が販売されているのが面白いところだ。
2. 市場をけん引するのは POP MART(泡泡瑪特)
今やあちこちで見かけるようになったBlindBox だが、そのブームをけん引するのが「POP MART(泡泡瑪特)」だ。
POP MART は創業からまだ 10 年程度のいわゆるキャラ クターグッズを扱う企業だ。キャラクターを創作するアーティストの発掘から IP(知的財産)の育成、そして BlindBox の普及まで、短期間で驚異的な成果をあげてきた。ディズ ニーのミッキーやハローキティといった海外の人気キャ ラクターも扱うが、自社 IP のオリジナルキャラクターや独占権を持つ IP キャラクターを強みにしている。
POP MART は 2019 年末時点で、全国 33 都市に実店舗を 114 店舗展開しているほか、「ロボット商店」と名付けた自動販売機を全国 57 都市に 825 台設置している。すでにグローバル展開も進めており、韓国、日本、シンガポール、アメリカをはじめとする世界 21 の国と地域に進出している。
POP MART の創業者である王寧 CEO(最高経営責任者)は、「我々は『大きな子供』の 市場を作りたいと思っている」と語っている。王 CEO のいう「大きな子供」とは 15 歳 以上の若者を指しており、彼らが喜び、好むおもちゃを「潮玩(潮流玩具)」と定義して いる。
「大きな子供」と表現される 90 後、00 後は、他の世代とは全く違う時代背景を持ち、 昔とは全く違った環境で育っている。彼らは子供の頃から、スラムダンク、アベンジャ ーズ、トイストーリーなどを見て育ち、アニメや映画キャラクターのおもちゃはごく身 近なものだった。BlindBox は人間の持つ「収集したい欲」をうまく刺激していると感じ るが、Z 世代が BlindBox のフィギュアを買い集めたくなるのは、ごく自然なことだと 言えるだろう。
3. BlindBox のコラボ商品にガンダムも登場
先日 BILIBILI 動画で、ガンダムの中国展開に 関する発表会「ガンダム G 会 2020(高達 G 会 2020)」がライブ配信され、2021 年に実物大の フリーダムガンダム像が、上海の三井ショッピ ングパークららぽーと上海金橋の前に設置さ れることが発表された。
実は発表会に先立ち、6 月下旬から 1 週間限定でオープンしていた POP MART のポップア ップストアに、ガンダムとのコラボ商品が展示されていた。発表会では POP MART と ガンダムのコラボが正式に発表され、近くコラボ商品が発売される見通しだ。
ガンダムに限らず、街中ではよく POP MART とのコラボレーションをみかけるよう になった。POP MART と組めば、90 後や 00 後をターゲットとするブランドは大きく認知度を上げることができる。今回のガンダムと POP MART の MOLLY のコラボも、今までとは違うファン層を囲い込む狙いがあるのだろう。
4. 実際に販売機で購入してみた
実際に POP MART の販売機でBlindBox を買ってみた。ここは中国なので、もちろん キャッシュレス対応だ。Alipay(支付宝)と WechatPay(微信支付)が使用でき、新規会員登録で 5 元引きとなる。
販売機の左側は商品が見えるようになっており、販売されているフィギュアが並んで いる。日本でも見かけるパンや紙パック飲料を売る自動販売機のようなイメージだ。右側にある液晶パネルの指示に従って欲しい商品を選び、表示される QR コードを Alipay か WeChatPay で読み込んで支払いをすると、商品が出てくる。筆者は「トイストーリー4」のシリーズを買ってみたが、出てきたのは狙っていたウッディではなく、本作ヒロインのボーだった。
今回購入した販売機の場所には、他にも何台か違う会社の販売機が設置されていた。 ここは少し前に UFO キャッチャーや 1 人カラオケボックスが置かれていた場所だ。中国ではあっという間にブームが去ってしまう。BlindBox の販売機もいつまでここにある かはわからない。
一方、BlindBox を実店舗で購入する人たちを見てみると、箱を振り、中身を確認して いた。それが正確であるかは開けてみるまでわからない。
いろいろな BlindBox の販売機がある事からもわかるように、POP MART 以外にも多 くの BlindBox メーカーがあり、雑貨屋、スーパー、おもちゃ売り場などにたくさんの商品が並んでいるのをよく見かける。筆者の体感的には、BlindBox を扱う店は非常に増 えており、ショッピングモールには必ず BlindBox の販売店が入っているし、販売機も数台置かれていることが一般的だ。知人に聞いてみたところ、店頭でも購入するが、最近はネットで買うことが多いと話していた。ちなみにオフィスでは、かなりの数のスタッフがデスクに BlindBox のフィギュアを並べているという。
実際に買ってみて、個人的には 1 個 59 元(約 895 円)という価格は正直高いように感じる。日本では同じような商品が 1 つ 300 円くらいから売っている。2019 年の上海の平均給与が9,580 元/月(14 万 5,000 円)であることを考えると、ガチャガチャや UFO キ ャッチャーと比べても高いのではないか。BlindBox の 1 シリーズは 10 種類前後だが、 何が入っているかはわからないのでコンプリートしようと思えば、それなりの金額にな るだろう。しかし、買ってみると収集欲求が刺激され、中毒性があるのも確かだ。95 後 や 00 後の消費パワーは、自分の収入と親の強力な支援から成るというが、小さなフィ ギュアから Z 世代のすさまじい消費パワーの一端が垣間見えた。