タダで果物がもらえるゲーム「多多果園」とは

目次

1. 中国でブームが続く果物育成ゲーム

中国で 2 年ほど前から徐々に人気を集めているのが、果物を育てるゲーム「多多果園」だ。果園とは果樹園のことを指す。運営しているのはゲーム会社ではなく、共同購入型 EC サイトの「拼多多(ピンドゥオドゥオ)」で、ゲームは拼多多のアプリの中に入っている。

「多多果園」はいわゆる農作物育成ゲームのように、苗木を植えて、毎日水をやり、時には肥料をあげ、徐々に果物が育っていく様子を楽しむゲームだ。似たようなゲームは数多くあるが、「多多果園」が人気となった最大の理由は、果物が無事に実ると実際にその果物が手元に届くというサプライズにある。しかも、果物の代金は無料で、送料すらもかからない。

「タダより高いものはない」と言うが、このゲームで遊ぶと、いったいどこから、なぜ、果物が無料でもらえるのだろうか。

2. 「多多果園」とは

拼多多が「多多果園」をリリースしたのは 2018 年 5 月で、すでに 2 年以上の運営実績がある。直近のデータは明らかにされていないが、リリースから約 1 年が過ぎた 2019年 3 月の時点で、1 日あたりのアクティブユーザー数(DAU)が 5,000 万人を超え、毎日500 トンの果物を発送している。ピーク時にはゲームの中で毎日 200 万本の苗木が植えられたというから、新規ユーザーもリピーターも相当多い様子が伺える。

ゲーム自体は拼多多のアプリのマイページ(个人中心)の中にある。ゲームを始めたら最初にどの果物を植えるかを選ぶ。リンゴ、洋ナシ、ミカン、マンゴー、レモン、ザクロ、パパイヤ、キウイ、ナツメ、クルミなどの中から 3~6 種類が提示されるので、実際に果物が自宅に届くことを念頭にどれでも好きなものを選べばよい。届く量は、リンゴが 1.5 ㎏、洋ナシが 2.5 ㎏、マンゴーが 1.5 ㎏などとそれぞれ決まっている。

あとは日々、水をやり、肥料を与えて育てていく。水は無料で毎日もらえるが、まだゲームをやっていない友達を招待したり、指定された拼多多の商品のページを見たり、拼多多で買い物をしたりすると余分にもらうことができる。特定の時間にだけもらえる。

特定の時間にだけもらえる水の福袋もあるし、ゲーム内で友達とつながっていれば、友達から少しずつ水を盗んでくることもできる。また不定期で開催される様々なイベントでも水や肥料、特別なアイテムを手に入れることができるので、できるだけ欠かさず参加しよう。

ちなみに、育てている木の状態は「健康ポイント」のページで確認することができる。ポイントが高いほど木はすくすくと育ち、水やりを忘れていたり、しばらく肥料をあげていなかったりすると、健康ポイントが下がる仕組みになっている。

毎日せっせと水をやって育て、果物が収穫できたらゲームはいったん終了だ。最後に果物の送り先を指定すると、すぐに産地から発送される。果物の代金も送料もどちらも無料で、収穫して数日でとれたての果物が味わえる。

果物が収穫できるまでの日数は一概には言えないが、毎日毎日もらえる水は必ずもらい、上限回数まで友達を招待して、拼多多で商品を見て回り、買い物をして、イベントには必ず参加し、友達から水を奪い、できる事を全部やっていれば最速で 1 週間あれば収穫できるそうだ。一般的には、水やりだけで苗木から若木になるまで 2~3 日、花が咲くまでに 3~4 日、実がなるまでに 10 日ほどかかり、最後に実が熟すまで肥料を与えながら 2 週間くらいかかるので、ゲームを始めて果物が届くまで 1 カ月はかかることになる。

もちろん果物は何回でももらうことができるので、果物を収穫し終わったら、また新しい苗木を植えて育てればよい。友達とつながっている場合、「友達の XX はすでに〇〇回収穫した」というランキングが表示され、競争心をあおる仕掛けになっている。

3. 無料の果物は貧困支援に

木を育てていると、水や肥料を手に入れるためにどうしても拼多多で買い物をしなければならなくなる。端的に言えば、それが果物を無料でもらえる仕組みだ。


毎日何度も拼多多のアプリを開き、拼多多で買い物をして、友達を新規ユーザーとして紹介しているうちに、拼多多は相応の利益を得ているのかもしれない。あるいは、拼多多は収入に匹敵する規模のマーケティング費用を使っていることで知られているから、「多多果園」を通じて 1 人でも多くの人に拼多多の魅力を知ってもらい、利用の習慣づけをすることが最優先であれば、利益度外視ということも十分ありうる。

拼多多の創業者である黄崢は Google のエンジニア出身で、ゲーム会社を創業した経験を持つ。当時はオンライン RPG の開発を手掛けていたというから、「多多果園」のゲームとしての面白さにも納得がいく。ゲームというバーチャルと実際に果物が届くというリアルを融合した新しい体験が、自然とユーザーに買い物を促し、同時に新規ユーザー獲得キャンペーンにもなっている。しかも無料でもらえる果物は、四川省涼山イ族自治県や新疆ウイグル自治区南部地域をはじめとする全国の貧しい農村地域からの産地直送品だ。ユーザーが果物をもらえばもらうほど、貧困地域の生産者に利益が還元される仕組みができている。

拼多多はかねてから新鮮な農産物をより適正な価格で販売し、産地から直送する「多多農園」という農村の貧困扶助プロジェクトを各地で展開している。「多多果園」で届けられる果物のほとんどは、全国の多多農園で収穫したものだ。このプロジェクトがスタートしたことで、生産者は市価に応じた適正な価格で農作物を販売できるために収入が増え、消費者である都市部の住民は、近くのスーパーよりも安い値段で新鮮な野菜や果物が購入できるようになった。拼多多はといえば、社会貢献になっているのはもちろんのこと、「新鮮な野菜・果物が安い」という新しいブランドイメージの確立につなげている。

拼多多での農産物の売上額は増加の一途をたどっており、「多多果園」がスタートした初年度(2018 年)には、前年から 233%増の 653 億元となった。国家が認定する貧困県の農民が拼多多に出店した産直ショップは 14 万店を超え、収穫、加工、物流などで新規雇用者が 30 万人以上も生まれている。さらに拼多多のおかげで農業である程度の収入が見込めるようになったことから、都市部に働きに出ていた 6 万 2,000 人を超える若者が農村に戻り農業に従事しているという。このほか、都会から戻ってきた若者がリーダーとなって地域の貧困農民を取りまとめ、「多多農園合作社」という形で共同で産直ショップを始めるケースも出てきている。

拼多多の「多多農園」プロジェクトは全国に広がり、雲南省のコーヒー農園をはじめ、茶葉やキノコ類といった果物以外の農産品にも拡大している。「多多果園」も果物の種類を増やすことを検討中だと伝えられており、遠くない将来にはゲームの中で森の動物になって、キノコを育てたりする日が来るのかもしれない。案の定、「多多果園」に類似するゲームが次々と出ており、EC 大手の京東(JD)が運営する「京東果園」や O2O の美団による「小美果園」、天猫(Tmall)の「天猫農場」といったゲームでも、同じように無料で果物をもらうことができる。

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この記事を書いた人

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