1. 北京で人気の四大コーヒーチェーン
現在、北京市で人気のある四大コーヒーチェーンと言えば、米スターバックス (Starbucks、中国名:星巴克)、英コスタコーヒー(COSTA COFFEE、中国名:咖世家)、 香港発のパシフィックコーヒー(Pacific Coffee、中国名:太平洋咖啡)、そして北京生ま れのラッキンコーヒー(Luckin Coffee、中国名:瑞幸咖啡)だろう。
これまで中国でカフェといえば、知名度と購買率ともに王者であったスターバックス一強の状態であった。スターバックスは 1999 年に中国に進出し、2020 年第 1 四半期 (1-3 月)時点で中国国内に 4,292 店舗を展開している。大手口コミサイトの「大衆点評 (dianping.com)」によると、執筆時点で北京市内には 397 店舗ある。
そんなスターバックスの背中を追うのが、2006 年に中国に進出した英大手コーヒー チェーンのコスタコーヒーだ。北京には 2008 年に進出した。コスタコーヒーは、中国のカフェ市場で 3 分の 1 のシェアを獲得するという目標を掲げ、2018 年には全国で 2,500 店を展開していたが、目標を達成できないうちに新型コロナウイルスの影響を受けてしまい、全国に展開する店舗の10%ほどが閉店した。北京は全国で最も店舗数が多かったが、コロナ禍で20 店以上が閉店してしまい、現在は 114 店舗となっている。
パシフィックコーヒーは 1992 年に香港で誕生し、2010 年 6 月に中国政府系複合企業の華潤創業による買収を経て、翌 2011 年に中国大陸に本格進出を果たした。中国最大のコーヒーチェーンの座を目指して、2018 年時点で国内に300 店舗以上を展開していたが、いまだ知名度や店舗数はスターバックスに及ばない。現在北京には 47 店舗を展開している。
しかし 2017 年に北京で誕生したラッキンコーヒーが、ついにスターバックス一強の中国コーヒー業界に一石を投じた。2018 年 1 月、北京に 1 号店を出店したのを皮切りに急成長を続け、一時は粉飾決算問題に揺れたものの、コロナ禍においても新規出店を継続した。2020 年 5 月にはスターバックスを超える 6,912 店舗を展開するまでになり、現在北京には 452 店舗ある。
ラッキンコーヒーの最大の特徴は、注文を専用アプリからのみに限定していることだ。 路面店の店頭であってもデリバリー専門の店舗であっても、注文や支払いはアプリからしかできない。しかしコーヒーの価格は 20~30 元(約 300 円~450 円)と他のコーヒー チェーンに比べて低めに設定されている。初回購入割引や決済方法に応じた割引といった中国のドリンク系ショップでは常識となっているマーケティング手法も同店の急成 長を後押ししたようだ。
ラッキンコーヒーの登場は、他のコーヒーチェーンのオンライン化にも影響を与えた。 例えばスターバックスは、2018 年 8 月にアリババ(阿里巴巴)傘下のフードデリバリーサービス「餓了么(ウーラマ)」と提携し、同年 10 月にはアリババ傘下のニューリテールスーパー「盒馬生鮮(Hema Fresh、フーマーフレッシュ)」と共同でデリバリー事業を開始した。さらに 2020 年 8 月にはコーヒーのオンライン共同購入サービスを始めている。 このサービスでは、注文は各自で行い、配送をオフィス単位などでまとめることで配送料が割り勘できるというものだ。
こうして近年盛り上がりを見せる中国コーヒーチェーン業界だが、北京でこれらのコ ーヒーチェーン店やカフェが多くあるのは若者や外国人が多く集まる繁華街だ。なかでも大使館や観光スポットの多い朝陽区に特に多く出店している。
2. 北京のデートスポットに多い猫カフェ
カフェといえば、北京では様々なタイプの体験型カフェが登場している。なかでも一定の人気を保ち、少しずつ店舗を増やしているのが、犬や猫などの動物と触れ合うこと のできるいわゆる“動物カフェ”だ。
中国初の猫カフェとしてオープンした「猫小院(マオシャオユエン)」は、北京の猫好きにはとても人気がある。北京の観光スポットであり、若者に人気のデートスポットでもある南鑼鼓巷(ナンルオクーシャン)や後海にある店舗では、平日の 1 日あたりの来客 数が 300~400 人、週末には 600~800 人あるという。
料金設定は店舗によって異なり、ショッピングモールの朝陽大悦城(JoyCity)内にある店舗では、入場チケットの購入が必要だ。親子連れの中には、入場チケットだけを買ってフードやドリンクは注文せず、もっぱら猫と触れ合いに来ている人たちもいる。
ちなみに現在、猫小院は北京に 6 店舗あるが、北京には猫カフェだけで約 80 店舗あ るといわれる。他にも柴犬と触れ合える柴犬カフェや、体験型カフェの変わり種として中国語の繁体字をテーマにしたカフェも登場しているが、大規模にチェーン展開する体験型カフェは現時点ではまだない。
3. 北京の老舗漢方ブランドもコーヒー市場に進出
中国人の養生思想の低年齢化を背景に、北京の老舗漢方薬局である同仁堂は 2020 年 7 月に漢方入りコーヒーの専門店をオープンした。タ ーゲットは若い消費者層で、カフェを併設した同仁堂が 1 店舗あるほか、市内 6 カ所の専門 店で飲むことができる。
一般的なアメリカンやカフェラテの他、クコや陳皮、ターメリックなどを使用したコーヒーがあり、価格はアメリカンやカフェラテ の 1.5 倍~2 倍と少し割高だ。味はというと、シンプルに漢方とコーヒーの両方の主張を同時に感じとれる、非常に強力な味わいであった。この独特な味わいが SNS 上でも 話題となり、オープンから 2 カ月以上が経過した現在でも漢方コーヒーのレビュー動画 やつぶやきを投稿する若者は多い。店頭でコーヒーを注文した際にスタッフに話を伺ったところ、一番売れ行きが良いのはクコラテだという。
今後はさらに出店の勢いを加速し、1 年以内にオフィスビル、ショッピングモール、住宅エリアのそれぞれに 100 店舗ずつ、合計 300 店舗の新規オープンを目標に掲げている。同仁堂のように若い消費者に関心を持ってもらう手段として、コーヒー業界に参入するという企業は、 これからもっと出てくるかもしれない。 なお大手漢方飲料メーカーの王老吉(ワンラオジー)は 同仁堂に先駆けて 2016 年末から漢方を使ったフルーツ ティーやミルクティーの専門店「1828 王老吉」を展開 しており、執筆時点で全国に約 50 店舗がある。
4. 京都発のおしゃれカフェは SNS の口コミで人気に
そして今一番 SNS で注目を集めているのが「%ARABICA(アラビカ)」だ。京都・東山 からスタートしたカフェで、2020 年 7 月時点で中国には 20 店舗を展開する。北京には 2019 年に進出し、1 号店は外国人や若者の多く集まる三里屯エリアにある。
%ARABICA の店舗はいずれも白を基調としており、非常にシンプルで清潔感がある。注文と支払いは、 ラッキンコーヒーのように主にス マートフォンで行うのだが、なんとコーヒーを濃いめの B とソフトな S の 2 種類から選ぶことができる。
筆者の感覚では、B がちょうどよい 濃さで S は少し薄く感じた。中国 のコーヒーは日本人からすれば薄く感じるというが、逆に言えば中国人にとって日本のコーヒーは味が濃すぎることから、2 種類が用意されているのかもしれない。
%ARABICA は中国の SNS 上でクチコミが広がり、一躍人 気となったカフェだ。%ARABICA のコーヒーへのこだわりや 店舗の美しさ、中国でも知名度の高い京都で大人気なカフェ であることが SNS で拡散されると、流行に敏感な Z 世代が 店を訪れ、コーヒーを楽しみ、その体験を SNS に投稿すると、 またそれを見た Z 世代が%ARABICA を訪れる、というクチコ ミの好ループが続いている。いわゆる「インスタ映えスポッ ト」であるためか、他のカフェチェーンに比べて店内で長居 する若者はあまりいないようであった。