アリババの会員制倉庫型店「フーマーX メンバーストア」

目次

1. 新しくオープンした会員制倉庫型店舗、フーマーX とは?

アリババ(阿里巴巴)グループが、「ニューリテール」を体現するスーパーとして「盒馬鮮生(フーマーフレッシュ)」を最初に出店したのは 2016 年のことだ。以来、フーマーフレッシュを全国展開する傍ら、消費者のニーズに合わせて超小型スーパーの「フーマーmini」、青果に特化した「フーマー菜市」といった様々な形態のニューリテールスーパーを展開してきた。

中国人の消費習慣を大きく変えてきたアリババが今回新たに挑戦するのが、会員制倉庫型スーパーの「盒馬 X 会員店(フーマーX メンバーストア)」だ。中国企業が運営する国内初の会員制倉庫型スーパーとなる。

国慶節の大型連休の初日にあたる 2020 年 10 月1日、上海市浦東新区にフーマーX の 1 号店がオープンした。地下鉄 6 号線洲海路駅そばにあるショッピングモール「森蘭商都(SunLand Mall)」の地下 1 階にあり、広さは 1.8 万平米と既存のフーマーフレッシュの店舗よりも広めだ。買い物をするには会員になる必要があり、年会費が 258 元(約 4,100 円)かかるが、フーマーX だけでなくフーマーフレッシュの店舗でも割引や優待が受けられる。営業時間は朝 9 時から夜 22 時となっている。

フーマーX も既存のフーマーフレッシュと同じく、オンラインとオフラインの一体型店舗になっており、フーマーX で販売されている商品はオンラインでも購入できる。もちろん配送に対応しており、フーマーフレッシュよりも配送エリアは広い。現在は浦東新区では店舗から 20 ㎞の範囲、楊浦区は店舗から 15 ㎞の範囲に対応する。ただしフーマーフレッシュが注文から 30 分で配送するのに対し、フーマーX は最速で半日以内となっており、確認したところでは翌日やそれ以降の配送も多いようだ。

なお、上海の会員制倉庫型スーパーとしては、2019 年に中国初進出の地として上海を選んだコストコ(Costco、開市客)、米ウォルマートグループで上海には 2 店舗を構え
るサムズクラブ(Sam’s CLUB、山姆会員店)、そして 1996 年から中国に進出しており、上海に 8 店舗を展開する独メトロ(METRO、麦徳龍)がある。

会費や店舗面積に目立った差はないが、フーマーX は SKU(Stock Keeping Unit)数が少なく、プライベートブランド(PB)商品が多いという特徴がある。さらにコストコやサムズクラブの店舗の多くは地下鉄駅から離れており、車が無いと行きにくい場所にあるが、フーマーX は最寄り駅の真ん前にあり、徒歩 270m と圧倒的にアクセスが良い。とはいえ、市の中心部からは地下鉄で 1 時間以上もかかる場所にある。

2. フーマーX に行ってみた!

フーマーX があるショッピングモールの入り口には、フーマーのキャラクターである青いカバがお出迎えをしている。地下にある店舗に向かうエスカレーターは天井がキレイな電飾になっており、派手な装飾がなんだか中国らしい。

スーパーの入り口では、コストコのように会員カードを見せる必要はなく、会員でなくても入店できるようになっている。ただし、会計のタイミングで会員証の QR コードを提示する必要がある。

店内では倉庫用ラックを商品棚として使っており、ショッピングカートがコストコよりも小さいためか売り場の通路が広く感じた。既存のフーマーフレッシュは野菜や魚の鮮度の良さをアピールしているが、フーマーX に特にそういった雰囲気はなく、生鮮食品売り場も特段広くはなかった。またフーマーフレッシュでは、野菜や魚をその場で調理してもらって食べることができるレストランさながらなイートインサービスが好評だが、フーマーX では調理サービスを行っていないことも意外だった。

一方で、倉庫型ということもあってか冷凍食品や加工食品の売り場は充実しており、特に食品は「MAX」マークの付いた PB 商品ばかりが並んでいた。PB 商品は国内メーカーが製造するもので、米などの穀物類も一部の商品を除いて全て PB 商品、中国の食卓には欠かせない食用油も PB 商品、ナツメや白きくらげなどの乾物も PB 商品で統一されており、非常に興味深かった。

逆に PB 商品ではないものでは、輸入品の食品や酒類、トイレタリー製品が目立つ。日本メーカーの製品では、森永のホットケーキミックス、ダイショーの焼き肉のたれ、神州一味噌の味噌、DHC のリップクリーム、資生堂のトリートメントなどを見かけた。メディアの報道によると、フーマーX は外高橋自由貿易区から 3km という地の利を活かして、海外から直接仕入れをして中間コストを省いているのだという。

この他、試食コーナーは大人気でどこも人だかりができていた。試食の量も大盤振る舞いで、調理が必要なものは出来上がるとすぐになくなってしまうという状況だった。

中国のローカルスーパーでは、食料品と一緒に家電、文房具、衣類、自転車などが売られていることが多いが、フーマーX では炊飯器やミキサーといった小型調理家電と季節商品であるオイルヒーターが少々並んでいる程度で、冷蔵庫やテレビどころか、文房具や衣類すらも見当たらなかった。

ちなみにフーマーX もオンライン注文に対応しているが、フーマーフレッシュのようにピックアップした注文商品を流すレールは天井に設置されていない。

会計では、フーマーフレッシュと同じタイプのセルフレジと、有人レジが設置されていた。一般的なスーパーと比べて買い物の量が多くなるためか有人レジの台数が多く、セルフレジは一応あるという程度だった。上海では他のローカル系スーパーでもセルフレジがメインとなってきているため、逆に有人レジが珍しく感じる。

有人レジでは、最初にフーマーX 会員証の QR コードの提示が求められ、商品のスキャンが終わるとフーマーのアプリに紐づけてあるアリペイ(Alipay)の口座から自動的に支払いが行われて、会計が完了する。支払いのために QR コードをかざすなどのアクションが必要なく、ユーザー体験はとても快適だった。

セルフレジでも会計してみたが、こちらは最初に会員証の QR コードを読み取り、商品のスキャンを終えたら、支払いのためにアリペイの QR コードをかざすという流れになっており、有人レジのように自動的に支払いは行われない。ちなみに、会員でないとレジ打ちができないため、客はその場でアプリを使って入会するよう促されるようだ。

レジの先には、30 席ほどのこぢんまりとしたイートインスペースが用意されている。ここにはピザやフライドチキン、ドリンク類を販売する店があり、注文は店頭にあるセルフレジの小型版といった見た目のタブレットかスマートフォンのアプリから行うようになっていた。

イートインスペースでは、店内で売られているものをその場で開けて食べている客も多く、常ににぎわっていた。1 個 2 元のソフトクリームが人気なようで、1人1個と言っていいほど多くの人が食べていた。

3. 中途半端な位置づけ、早々に軌道修正の可能性も

オープン当初は国慶節の連休中であったこともあり、かなりににぎわっていたようだが、筆者の訪れた 10 月末の週末はそこまで混雑してはいなかった。来店していたのはカップルや夫婦、子供連れのファミリー、若者のグループなどが中心で、ざっと見た感じでは客層に大きな偏りはないように感じた。

倉庫型店舗というイメージから、車で来て大容量品を大型カートでまとめ買いするような客が多いのかと思っていたが、実際にはそのような客をあまり見かけることはなく、一般的なスーパーのような使い方がされていたのも予想外であった。マイカーで来店する人の割合は定かではないが、地下駐車場に降りていく客は 3 分の 1 もいないようである。

商品ラインナップも先に述べた SKU 数からもわかる通り特に多くは無く、またその半数近くが MAX マークの付いた PB 商品となっている。PB 商品は極めて中国的なものが多く、ローカルの消費者をターゲットとしていることがわかる。倉庫型といってもコストコのように“アメリカンスタイル”を前面に押し出した非日常的な購買体験が楽しめるわけではなく、かといって、フーマーフレッシュの調理サービスのような目新しいサービスがあるわけでもなく、消費者から見ると非常に中途半端な位置付けの店舗という印象を受けた。

筆者と一緒にフーマーX を訪れた友人も「牛肉は質が良く価格もお得だが、他の商品は正直わざわざここまで来て、会費を払って買うまでも無い」と話していた。フーマーX の近くに住む友人にも聞いてみたが、食品の買い物は同居する義理の両親が担当しており、いつも必要な物を必要な分だけ近所の市場などで買っているため、フーマーX を利用する機会はないと言い切っていた。

アリババは様々なスタイルの店舗に挑戦しているが、2018 年頃に話題となったロボットレストランに店舗が増えたというニュースは聞かれず、市場スタイルを取り入れたスーパーはいつの間にか通常のフーマーフレッシュの店舗に変わっていたりして、必ずしもうまくいっている業態ばかりではない。フーマーX が今のままの形態で長く続けていけるのかは疑問に思うが、決断の早い中国企業らしく、すぐに軌道修正が行われるのではないかと強く感じた。

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この記事を書いた人

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