ニューリテールで変わる北京のスーパー

目次

1. ローカル系老舗スーパー「物美」の取り組み

意外にも中国では、全国展開しているスーパーは少ない。そのため、各地域や省市にそれぞれ代表されるスーパーがあり、北京にはローカル系スーパーの「物美(WUMART)」 が非常に多い。物美の店舗の 7 割ほどが北京にあるという。

物美は M&A を繰り返すことで、中国のスーパー業界で勢力を伸ばしてきた。これま でに、韓国系ディスカウントストアのロッテマート、重慶市を中心にデパートやスーパーを展開する重慶百貨(CBEST)、住宅建材・内装品を扱う百安居(B&Q)に出資や買収を行 い、さらにコンビニの隣家(LIN)が運営する約 80 店舗、国有企業系スーパーの華潤万家 (Vanguard)が北京市内に展開する店舗を引き継ぐなどしている。

しかしオンライン販売に弱かったことから、2019 年 10 月に物美はドイツ系スーパー「メトロ(METRO)」の株式の 80%を取得。さらにオム二チャネルを得意とする食品オンライン販売プラットフォーム「多点(DMALL)」がメトロの技術パートナーとなったことで、物美は実質的に多点のオンライン販売・配送サービスのノウハウを手に入れることに成功した。これをきっかけに、物美ではアプリを使ったネット注文サービスをスタ ートし、店舗では多点の決済サービスに対応したセルフレジが導入された。現在、物美の看板には、多点のロゴも併せて表示されている。

新たに始まったネット注文では、アプリに配送先の自宅住所などを入力すると、最寄りの物美(スーパーまたはコンビニ)と多点の店舗で購入可能な商品を注文することができる。注文した商品は配送もしてくれるが、店頭での受け取り予約も可能だ。

また物美の店舗では、従来からある有人レジとは別に多点のサービスに対応したセルフレジが導入された。これまでのセルフレジといえば、アリペイ(支付宝、Alipay)用、 WeChat Pay(微信支付)用というように決済サービスごとに専用のレジが設置されてい ることが多かった。それゆえ、利用したい決済サービスのレジが設置されていなかったり、他のレジは空いているのに利用したい決済サービスのレジばかりが混んでいたりするという問題が生じていた。

新たに導入された多点対応のセルフレジは、事前にスマートフォンに多点のアプリをダウンロードしておく必要がある。しかしアプリ自体がアリペイ、Wechat Pay、銀行口座からの即時引落しといった複数のキャッシュレス決済に対応しているため、1 台のレジで様々な決済方法が利用できるようになり、買い物客は非常に便利になった。

このほか、物美の一部店舗では後述する阿里巴巴(アリババ)系のニューリテールスー パー「盒馬鮮生(Hema Fresh、フーマー・フレッシュ)」を意識した取り組みも見られる。 例えば、売り場内に飲食店があったり、野菜などを量り売りではなく個包装にして販売 したり、商品棚と商品棚の間隔を広くとっていたりする。とはいえ、これまで通りの伝統的な店内レイアウトを維持している店舗もいまだに多く、もちろん現金で支払う客も見受けられる。客のニーズに合わせて、残すものは残し、便利になる部分はいち早く取り入れて旧来の手法と融合させている様子が伺える。

2. 大手外資系スーパー「カルフール」の取り組み

北京でよく見かける外資系スーパーといえば、フランスの「カルフール」だ。カルフールは、2019 年 9 月に大手家電量販店の「蘇寧(SUNING)」に買収されたことをきっかけに、会員システムの導入、セルフレジやキャッシュレス決済の導入、店舗の業務効率 化などに取り組み、蘇寧の EC サイト「蘇寧易購(Suning.com)」内にカルフールストア を開設して、オンライン注文に乗り出している。

買収後に初めて迎えた 2019 年 10 月の国慶節の大型連休には、全国の複数のカルフールに蘇寧の特設コーナーが設けられ、10 月 1 日の当日だけで総来店客数が 300 万人を超える盛況となった。連休中の 10 月 1 日~7 日までの売上は、スマートエアコンが前年同期比 120%増、空気清浄機が同 548%増となり、ダイソンのドライヤーは 3000台以上が売れるなど、大変な好調であった。

またカルフールでは、インターネット上で人気がある商品の販売にも積極的に取り組んでいる。SNS などで話題となっていたサイダーは、北京市内の 19 店舗で試験販売したところ 1 カ月で 200 万本以上が売れたといい、同様の成功例はすでに 2,000 例以上に上っている。

なお、カルフールのセルフレジでは、アリペイや Wechat pay の他に蘇寧グループの決済サービス「易付宝(Yifubao)」での支払いもできる。

3. 日系スーパー「イオン」の取り組み

イオンは 2008 年に中国に進出した。外資系スーパーのメトロやカルフールが中国企業に買収されるなど苦戦する中でも、イオンは近年、中国で店舗数を増やし続けている。

中国では外資・内資を問わずスーパーでの生鮮食品の配送サービスは常識となっているが、イオンが北京エリアで配送サービスを導入したのは 2020 年 5 月とつい最近のことだ。大手 EC サイト「京東(JD)」が提供する配送サービスプラットフォーム「京東到家(JDdaojia)」を利用しており、北京の場合は購入商品が 5 ㎏以内かつ 58 元未満の場合、配送料として 10 元かかる。ちなみに京東到家の配送プラットフォームは、前述のカフールのほか、華潤万家やウォルマートなど全国 200 以上のスーパーやコンビニが食品配送サービスで利用している。

イオンの店内は日本のスーパーのようなレイアウトで、通路が広めにとってあり、清潔感がある。スーパーにドラックストアを併設しているのは珍しく、日本からの輸入品も多く揃っている。日本のイオンと同じように会計が 5%オフになるお客様感謝デーやポイント 2 倍デーがあるのも、ローカル系スーパーにはない特徴だろう。

レジは有人レジに加えて、セルフレジが用意されており、アリペイや Wechat pay が利用可能だ。さらに、自分のスマートフォンで商品のバーコードをスキャンして支払いまで済ませる、いわゆるスマホレジにも対応しており、筆者が訪れた店舗ではスマホレジでの支払い完了を確認するための端末が 2 台設置されていた。

北京のイオンは、配送サービスの導入で大きく後れをとったものの、「日本小売ナンバーワン」を前面に打ち出した店舗運営から受けるイメージは良好で、北京には多くの固定ファンがいるというのもうなずける。

4. ニューリテールの代表「盒馬鮮生」の取り組み

EC 大手のアリババ(阿里巴巴)グループが運営するニューリテールスーパーが「盒馬鮮生(Hema Fresh、フーマー・フレッシュ)」だ。一般的なスーパーと同じ店頭販売のほか、ネット注文、配送サービス、レストラン、野菜や鮮魚の調理加工などを融合した新しい消費体験を提供している。

ネット注文では、店舗の周囲 3km 以内は 30 分以内での配送を実施しており、店舗での受け取りも可能だ。店舗では、注文が入ると各売り場のスタッフが商品をピッキングする。商品は専用バッグに入れられ、店内の天井を走るラインでバックヤードへと送られた後、注文ごとに梱包され、配送となる。筆者が店頭で見た限りでは、スタッフはほぼ休むことなく複数のバッグを持って商品をピッキングしており、天井のラインも常にバッグをバックヤードへと運んでいた。

フーマー・フレッシュは、新鮮な食材を販売することに力を入れており、産地直送の野菜や果物、生け簀での鮮魚の販売が行われている。売り場のそばにはレストランがあり、食材をその場で調理してもらい、そのままイートインスペースで食べることもできる。支払いはアリペイ又は現金を使ったセルフレジだ。アリペイで支払う場合、事前にフーマー・フレッシュのアプリをダウンロードして、アリペイと紐づけておく必要がある。

またフーマー・フレッシュでは、店内に設置された生放送ブースで、定期的に動画のライブ配信を行っている。このライブ配信はフーマー・フレッシュのアプリや同じアリババグループの EC サイト「淘宝網(Taobao、タオバオ)」のアプリから視聴することができ、ライブ配信で紹介されている商品をその場で購入することもできる。スーパーにライブ配信、ネット注文、30 分以内での配送を組み合わせたニューリテールならではの取り組みと言えるだろう。

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この記事を書いた人

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