ビザ政策から垣間見える日中間の関係

日本は2023年5月、G7をきっかけにコロナウイルスへの対応は大きく進んでいる。5類へ引き下げ、毎年流行しているインフルエンザと同じ扱いとした。コロナ感染者数は増えているものの、概ねコロナ前の生活に戻ってきていると言える。

中国においても同様で、かつての世界一厳格な管理を一晩でやめ、数億人単位の大規模感染を引き起こした以外は、日本と同様、コロナ前の生活に戻ってきている。上海など大都市であってもマスクをつけていない人がだんだんと増えてきているそうだ。

本稿では日中間の関係についてビザの観点から考察を行う。

目次

アウトバウンド(日本から中国へ)概況

もともと日本人が中国に短期滞在する場合においては、15日間の滞在であればビザが不要であった。2023年6月現在このノービザ政策は停止されたままだ。つまり、中国に渡航する人はどんなに短期間であろうと必ずビザを取得しなければならない。

厳密に言えば、北京や上海などの大都市では144時間有効のトランジットビザが発行され、中国にノービザで行くことはできる。ただし、復路は中国から第三国(日本以外の国)へ向かわなければならないのが従来のノービザと大きく異なる。(e.g.日本→中国→香港→日本)

◆北京市人民政府:144時間トランジットビザ免除

ノービザ政策、正式には「日本国民に対する中国短期滞在(15日以内)のビザ免除措置」というのだが、中国がノービザで入国を認めているのは日本を含めて、たったの3カ国しかないのをご存知だろうか。

  • ブルネイ

短期滞在については相互でビザを必要としていない(正確にはアライバルビザ取得)

  • シンガポール

シンガポール人が中国に滞在する場合は15日のノービザ協定が結ばれていたが、現在は中国入国時にビザが必要となっている。2023年5月ロイターの記事によると、中国とシンガポールで相互ビザなし渡航が大詰めとなっている模様で、近いうちシンガポール→中国へのノービザが復活するのと同時に、中国→シンガポールへのノービザも実施される模様。

◆TBS NEWS:中国短期滞在での「ビザ免除措置」再開を 中国進出の日系企業団体「中国日本商会」が中国政府に要請方針

インバウンド(中国から日本へ)概況

これまで実施されていたノービザ政策、大きく関連しそうなのが、逆向きのインバウンド観光客の動きである。

コロナ前の2019年時点でおそらくピークだったと思われる中国人インバウンド観光客は実に857万人(大阪府全域の人口に匹敵)。これだけの中国人観光客は今ほどんど見かけることはない。中国から日本に向かう観光客は、必ずビザが必要となっている。

いわゆる観光ビザについては以下5種である。

(1)「団体観光」査証

(2)「個人観光一次」査証

(3)「沖縄・東北六県訪問数次」査証

(4)「十分な経済力を有する者に対する個人観光数次」査証

(5)「相当な高所得者に対する数次」査証

◆在中国日本大使館:中国国民訪日「団体」・「個人」観光査証

コロナ前であれば(1)のいわゆるツアーによる爆買い観光客が一般的であった。現在旅行ビザの発給を停止していることもあり、2023年6月時点で訪日客が持っているビザは、コロナ前に取得したと思われる(4)ないし(5)の数次ビザであろう。 現状インバウンドの中核をなす中国人観光客が全く戻ってきていないと感じられるのは、単純にボリュームゾーンである(1)、(2)の観光客へのビザ発給が行われていないためである。観光ビザの発行に際しては、大都市の指定旅行社経由でないと受け付けてもらえないこともあり、個人が自分で旅行計画を立て、日本へ観光することは事実上できない。

一足先に中国人観光客への積極的なビザ開放を行った韓国では、2022年同期比で約10倍の観光客が押し寄せている。韓国は2017年に米軍ミサイル(THAAD)の韓国基地配備によって韓中関係が悪化、韓国行きの中国人観光客が激減した苦い経験もしている。

中国人インバウンド観光客が向かう先というのは、政府によってある程度コントロールが可能であるということだ。今後日本にも多くのインバウンド観光客が訪れると思われるが、前項で示したようにこれまでの日本→中国のアウトバウンド方向だけのノービザ方式にはならないし、国際情勢次第ではインバウンド観光客を今のようにほぼゼロのままにしておくこともできてしまうのである。

ノービザ再開なるか?

結論:2023年度中のノービザ再開は望めないと見ている。

中国にとってはシンガポール同様、ノービザは”相互”待遇を臨んでおり、日中間の実務者協議も始まっていない。また、日本人ノービザ制度の始まった2011年からすると、日本と中国の国力・パワーバランスも大きく変化し、当時双方が望んでいた制度的な役目は終えたと考える。

◆朝日新聞デジタル:コロナ禍前のビザ免除再開、中国側「対等な措置を」 日本側に求める

本件については2023年3月に新しく着任した呉江浩駐日中国大使がコメントしている。

停止されている日本人のビザ免除措置(15日間)については本国と協議中としつつ、「中国人観光客にもノービザで日本への渡航ができるようにしてはどうか」

◆日本記者クラブ:呉江浩・駐日中国大使 会見

まとめ

現状日本→中国へのアウトバウンドについてはおそらくこのままであろう。中国→日本へのインバウンドについては日本のホテルをはじめ、空港の出入境管理のマンパワー不足は否めず、コロナ前の水準には戻っていない。すなわち日中相互でノービザが開始されても日本の受け入れ対応が間に合わないと思われる。ただ資源のない日本にとって”インバウンド観光”は今後の経済成長において重要な原動力であることも事実である。受け入れ態勢がもし整うようであれば、アウトバウンドのノービザ問題は大きく前進するだろう。今後も注視したい。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

全国通訳案内士(中国語)日本大学大学院経済学研究科修了、経済学修士。大学在学中に対外経済貿易大学(北京)に留学。日本大学大学院を卒業後、上海にて日系企業向けに中国進出・会計コンサルタント業務に従事。

主に産業用ロボット、FA業界の中国進出、観光事業戦略策定など幅広い業界での経験を持つ。現在は地方創生プロジェクト他、海外インバウンド施策を含めコンサルティング実績多数。

目次