2021年8月24日、国務院は「市場主体登記管理条例」を公布した。2022年3月1日の施行に伴い、登記にまつわる既存の法令5本が廃止されている。
本条例の施行以前は、市場主体の種類別に登記制度が定められていたが、これを一本化したほか、休業制度や抹消登記の簡易手続き制度が新たに導入された。
本稿では、本条例の重要なポイントを整理し、最後に日系企業への影響についてまとめている。
対象となる市場主体の範囲
本条例でいう「市場主体」とは、中国国内において営利目的で経営活動を行う次の自然人、法人、非法人組織を指す。(2条)
- 会社、非会社企業法人及びその分支機構
- 個人独資企業、パートナーシップ企業及びその分支機構
- 農民専業合作社(聯合社)及びその分支機構
- 個体工商户
- 外国企業の分支機構
- 法律、行政法規が規定するその他の市場主体
登記手続き
市場主体は本条例に照らして登記を行わなければならない。法律、行政法規で登記が必要ないと規定されている場合を除き、登記を行わず市場主体の名義で経営活動を行ってはならない。市場主体の登記には、設立登記、変更登記及び抹消登記を含む。(3条)
市場主体の一般登記事項には次のものが含まれる。(8条)
- 名称
- 主体の類型
- 経営範囲
- 住所または主要な経営場所
- 登録資本または出資額
- 法定代表人、事業執行パートナー、または責任者の氏名
市場主体は次の事項について登記機関に届出登録を行わなければならない。(9条)
- 定款またはパートナーシップ契約書
- 経営期限またはパートナーシップ期限
- 有限責任会社の出資者又は株式会社の発起人が引き受けた出資金の額、パートナー企業のパートナーが引き受けたか又は実際に払い込んだ出資金の額と支払期限、出資方法
- 会社の董事、監査役、上級管理職
- 農民専業合作社(聯合社)のメンバー
- 個体工商戸の経営に参加する家族の姓名
- 市場主体の登記の連絡先、外商投資企業の法的文書の送付先
- 会社やパートナーシップ等の市場主体の受益者に関する情報
- 法律や行政法規で定められたその他の事項
市場主体が登記できる名称は1つに限られ、登記された名称は法律の保護を受ける。(10条)
市場主体が登記できる住所あるいは主要経営場所は1カ所に限られる。電子商取引プラットフォームに出店する自然人の経営者は、当該ECサイトを経営場所としてよい。(11条)
市場主体の登記手続きには次の資料を提出しなければならない。(16条)
- 申請書
- 申請者の資格を証明する書類、自然人の身分証明書
- 住所または主要な経営場所に関する資料
- 会社、非会社企業法人、農民専業合作社(聯合社)の定款またはパートナーシップ契約書
- 法律、行政法規、国務院市場監督管理部門が規定するその他の資料
申請者は他の自然人または仲介機構に、市場主体の登記手続きを委託してもよい。(18条)
登記機関は申請資料に対し形式審査を実施する。申請資料に不備がなく形式上の法定要件を満たしている場合、その場で登記を行う。その場で登記ができない場合、3 営業日内に登記を完了しなければならない。情状が複雑な場合、登記機関の責任者の承認を得て、更に 3 営業日延長することができる。(19条)
登記機関は市場主体の登記を行った上で、営業ライセンスを発行する。ライセンスの発行日は市場主体の設立日とする。(21条)
市場主体は、登記事項の変更が生じた場合、30日以内に変更登記を行わなければならない。9条で規定する届出登録事項に変更が生じた場合、30日以内に届出登録を行わなければならない。(24条、29条)
自然災害、事故、公共衛生事件、社会安全事件などによって経営が困難に陥った場合、市場主体は自主的に一定期間休業することができる。市場主体は休業前に労働関係などの扱いについて従業員と協議しなければならない。市場主体は休業前に登記機関に届出登録を行わなければならない。休業期間は最長3年間とする。(30条)
市場主体が抹消登記を行う際に、債務がなく、従業員の賃金、社会保険料、法定補償金、納付すべき税金(滞納金、罰金を含む)などを全て支払った上で、全ての投資家が書面で当該事項の真偽について法的責任を負うことを約束している場合、簡易手続きにより抹消登記を行うことができる。市場主体は承諾書と抹消登記申請を公示システムを通じて20日間公示しなければならない。公示期間内に異議申し立てが無ければ、公示期間の終了から20日以内に抹消登記を行うことができる。ただし、抹消登記に法に基づく承認が必要な場合、あるいは営業許可の取り消しや閉鎖、撤退が命令された場合、経営異常リストに収載された場合は、簡易手続きによる抹消登記は適用されない。(33条)
監督管理
市場主体は国家の関連規定に従い年度報告及び登記関連情報を公示しなければならない。(35条)
市場主体は営業ライセンスを住所または主要な経営場所の目立つ位置に掲示しなければならない。電子商取引の経営に従事する市場主体は、トップページの目立つ位置に継続して営業ライセンス情報または当該情報のリンクを表示しなければならない。(36条)
登記機関は市場主体の信用リスクの状況に応じて分級分類監督管理を実施する。(38条)
法的責任
設立登記をせずに経営活動を行った場合、登記機関は是正を命じて違法所得を没収する。是正を拒否した場合、1万元以上10万元以下の過料に処する。情状が重大な場合、業務停止を命じ、10万元以上50万元以下の過料に処する。(43条)
設立登記の申請に、虚偽の資料を提出したり、その他の不正な手段を用いたりした場合、登記機関は是正を命じ、不法所得を没収し、5万元以上20万元以下の過料に処する。情状が深刻な場合、20万元以上100万元以下の過料に処し、営業ライセンスを取り消す。(44条)
市場主体が本条例に基づく変更登記を怠った場合、登記機関は是正を命じる。是正を拒否した場合、1万元以上10万元以下の過料に処する。情状が重大な場合は営業ライセンスを取り消す。(46条)
市場主体が本条例に基づく届出登録を怠った場合、登記機関は是正を命じる。是正を拒否した場合、5万元以下の過料に処する。(47条)
市場主体が本条例に基づいて営業ライセンスを住所地または主な経営場所の目立つ位置に掲示しない場合、登記機関は是正を命じる。是正を拒否した場合、3万元以下の過料に処する。電子商取引を行う市場主体が、トップページの目立つ位置に営業ライセンス情報または当該情報のリンクを継続的に表示しない場合、登記機関は電子商務法に基づいて処罰する。(48条)
本条例に対する見解
2022年3月1日に施行された「市場主体登記管理条例」は、それまで有限責任会社や外資企業といった市場主体ごとに定められていた登記にまつわる規則を整理し、一本化したものである。
本条例の施行にあわせて廃止されたのは、公司登記管理条例、企業法人登記管理条例、パートナー企業登記管理弁法、農民専業合作社登記管理条例、企業法人法定代表者登記管理規定の5本となっている。
本条例では、コロナ禍で休業せざるをえなくなった事業者が続出したことを鑑み、新たに休業制度を合法化している。これまでは休業せざるをえない状況になっても、当局が休業を認めなかったり、場合によっては取り締まりの対象となったりすることがあった。本条例では法的根拠を持たせることで休業を合法化し、さらに草案の時点で2年間としていた休業期間を3年に延長している。
さらに廃業などに際して必要となる抹消登記についても簡易手続き制度を設け、条件を満たせば市場主体の種別を問わず制度を利用できることを明文化した。これは近年中国政府が積極的に進めている行政手続きの簡素化とそれに伴う事業者の負担軽減の流れに沿うものと考えられる。
今後新たに現地法人の設立を予定している日本企業においては、本条例に加えて2022年3月1日に施行された実施細則の詳細をよく把握した上で、設立の準備を進める必要がある。
またすでに現地法人を有する企業においては、当局による検査が行われる可能性があり、罰金を含む罰則も定められていることから、変更登記や届出登録はすみやかに行うよう注意したい。
公式リンク(中国語) http://www.gov.cn/zhengce/content/2021-08/24/content_5632964.htm