中国IT業界をけん引する三大巨頭とは

目次

1. 中国 IT 業界の黎明期を支えた BAT

2000 年代後半から中国の IT 業界の成長をけん引してきた三大企業「BAT」。B は検索 エンジンサービスの百度(Baidu)、A は EC サービスの阿里巴巴(Alibaba)、T は SNS やオ ンラインゲームの騰訊(Tencent)を指しており、いずれも今や中国の人々に欠かせない IT サービスとなっている。

B の百度は、2000 年に北京の中関村で創業し、2005 年にナスダックに上場している。中国では圧倒的なシェ アを誇る検索エンジン「百度(Baidu)」の運営を行うほか、 地図サービスの「百度地図」、生活サービス総合プラッ トフォームの「百度糯米」、オンラインゲームの「百度遊戯」等、数多くのサービスを 手掛けている。近年は AI への投資を積極的に行っており、AI に関する特許申請数は中 国国内トップの 2,368 件に上っている。2018 年には売上高が 1,000 億元(約 1.6 兆円)を 突破した。

A の阿里巴巴は、1999 年に杭州で設立された EC 企業で、創業者は馬雲(ジャック・マー)。B2B プラ ットフォームの「Alibaba.com」を立ち上げた後、 2003 年に C2C プラットフォームの「淘宝網 (Taobao)」、2008 年に B2C プラットフォームの「天 猫(Tmall)」がスタートしている。中国の EC 産業の 中心的企業として、決済や物流領域にもサービスを 広げている。グループ全体の年間売上高は、前年比 51%増の 3768.44 億元(約 6.41 兆 円、2018.4~2019.3 月)に達している。

C の騰訊は深センに拠点を置いており、1998 年に創業。翌年リリースしたインスタントメッセ ンジャーサービス「QQ」のヒットで知名度を上げ た。その後にリリースしたマイクロブログの「微 博(Weibo)」、メッセージアプリ「微信(WeChat)」、 微信から派生した決済サービス「微信支付 (WeChatPay)」は、若者から中高年まで幅広い世代 に浸透している。また近年はオンラインゲームの二大巨頭のひとつとしても知られる。 2004 年に香港市場に上場、2018 年の売上高は前年比 32%増の 3126.94 億元(約 4.9 兆 円)だった。

2. BAT にも入れ替え時期が到来

阿里巴巴のジャック・マー会長は、今から 4 年 ほど前に「BAT は ATM に代わる」と予言してい た。百度に代わり、総合家電メーカーの小米 (シャ オミー、ロゴは Mi)が台頭するというのだ。予言通 り 2018 年には北京の民間企業トップ 100 で初め て小米が百度を抜いて 5 位にランクインしてい る。

小米は 2010 年に創業し、当初は直販スマートフォンメーカーとして人気を集めた。 現在はおしゃれな総合家電メーカーとして白物家電やアパレル等も手掛けている。売上 高は 1,146 億元(約 1.8 兆円)で、2018 年に香港市場に上場したばかりだ。

一方で、「新 BAT」という呼称も見かけるようになった。こちらもやはり B が入れ替 わり、新たに字節跳動(ByteDance)が選ばれている。

Bytedance は 2012 年の創業で、北京に拠点を置 いている。ショートビデオ共有アプリ「TikTok」の 運営会社といえばわかるだろうか。中国ではニュ ースアプリ「今日頭条」の運営で知られている。売 上高は公表されていないが、投資関係者によると 2018 年の売上は 500~550 億元(約 7,800~8,600 億 円)程度で、2019 年中に上場するとの噂もある。

3. BAT に代わって次世代を担う「TMD」

BAT が台頭して 10 年あまりが経ったこともあり、もはや単なる入れ替わりではなく、 新たな三大巨頭の時代を迎えるとの見方もある。2018 年頃から中国のネットニュース でよく見かけるようになったのが「TMD」だ。

TMD はいずれもサービス名の頭文字で、T はニュースアプリ今日頭条の略称である 頭条(toutiao)、M は生活サービス・共同購入サービスの美団(Meituan)、D は配車サービ スの滴滴出行(DiDi)を指している。TMD は BAT に比べてより短期間で巨大サービスへと 成長しているのが特徴だ。それぞれの運営会社を見ていこう。

T:今日頭条 …… 北京字節跳動科技有限公司(ByteDance)

・創業:2012 年 3 月

・所在地:北京

・従業員数:約 4 万人 (半数が広告営業と投稿確認担当、エンジニアは約 5,000 人)  主要事業:AI を使った情報共有サービス、動画共有サービスの開発・運営

・売上高:非公開 (2018 年は 500~550 億元と伝えられる)

・上場:未 (2019 年中との噂あり)

「新 BAT」にも選ばれている字節跳動は、次世代 IT 業界のホープといったところだ ろうか。改めて紹介すると、2012 年 3 月に北京で AI 関連の研究開発企業として創業し ており、現時点で自社開発のサービスが 20 以上ある。さらに買収したサービスが少な くとも 5 件、出資している他社サービスも 30 件近くある。

同社の五大サービスとされるのが、ニュースアプリの「今日頭 条」、ショートビデオ共有サービスの「抖音(海外版は TikTok)」、 「火山小視頻」、「西瓜視頻」、Q&A コミュニティサービスの「悟 空問答」だ。

コア事業であるニュースアプリ「今日頭条」は、AI を用いてニ ュース記事の収集とユーザーの行動解析を行っており、ユーザー ごとに最適化した体験を提供することで差別化を図っている。同 社によるとリリース以来の累計アクティブユーザー数は 7 億で、 MAU(月間アクティブユーザー数)は 2.63 億、ユーザー1 人当た りの月間平均利用時間は 20 時間を超えている。広告収入が大きな柱となっており、クリック率は業界平均の 1%を上回るとしている。つい先日の 5 月 27 日には、今日頭条を含む同社のアプリがプリインストールされたオリジナルスマー トフォンを発売する計画が報じられたばかりだ。

ショートビデオ共有サービスの「抖音」、「火山小視頻」、 「西瓜視頻」はどれも似ているが、それぞれ動画の長さが 15 秒、十数秒、3 分と異なっている。抖音と火山小視頻は 口パクやダンス、おもしろ動画が主流だが、西瓜視頻は動画が 3 分と長いことから演技 的でよりストーリー性がある動画が多いという特徴がある。ユーザーの傾向も違ってお り、抖音は大都市に居住する若者がメインだが、火山小視頻と西瓜視頻は地方の小規模 都市の居住者が多く、特に火山小視頻は年齢層が高めと住み分けがなされている。

なかでも抖音は、2016 年 9 月に今日頭条から派生する形でス タートしたサービスで、日本を含めた海外では「TikTok」の名称 で人気だ。先行サービスである Musical.ly のパクリと揶揄されて いたが、2017 年 11 月に約 10 億米ドルで Musical.ly を買収して しまった。とりわけ海外展開が好調で、リリースから 6 年間の海 外でのアプリダウンロード数はのべ 10 億回を超え、このうち 2018 年中のダウンロードが 6.63 億回を占める。中国版のダウン ロード数を含めれば、Facebook の 7.11 億回、Instagram の 4.44 億回を超え、非ゲームアプリとして 2018 年の世界最多ダウンロ ード数を誇る。

その一方、2018 年 7 月にはインドネシアで性的表現や宗教を冒 涜する動画が大量に存在していることを理由に TikTok の利用が禁止された。バングラ デシュや 1.2 億人のユーザーがいたインドでも同様の理由でアプリストアから排除さ れたり利用が禁止されたりしている。

「悟空問答」は、日本の「Yahoo!知恵袋」のようなイメージのサービスだ。ユーザー が様々な疑問や質問を投げかけると、他のユーザーから回答が寄せられる。回答にはチ ップが贈られ、もらったチップは微信(WeChat)の決済サービスを通じて現金と同じよう に利用できる。2017 年時点で 5,000 万人以上の登録ユーザーがいるとされ、芸能人や 著名人が回答してくれることでも知られている。

M:美団 …… 北京三快線科技有限公司

・創業:2010 年 3 月  所在地:北京

・従業員数:約 5.1 万人 (このほか配送員が約 53 万人)

・主要事業:生活サービスプラットフォームの開発・運営

・売上高:652.3 億元 (2018 年、前年比 92.3%増)

・上場:香港 (2018 年 9 月)

美団は割引クーポンの共同購入プラットフォームとして成長した。市場シェアのおよ そ 6 割を握っており、クーポンサイトの利用を中国の人々に浸透させた立役者と言え る。現在は、フードデリバリーの「美団外売」、ホテル・旅行予約サービスの「美団酒 店」、映画チケット販売の「猫眼電影」、グル メクチコミサイトの「大衆点評」、クラウド サービスの「美団雲」、配車サービスの「美 団打車」のほか、ニューリテールや決済サー ビス等も展開している。いずれも都市別のポ ータルサイト「美団」からワンストップで利 用でき、サイトの掲載店舗は全国約 500 万 軒以上、取扱商品は 200 品目に上る。

同社の 2018 年の売上高 652.3 億元のうち、フードデリバリー事業の売上高は前年比 81.4%増の 381.4 億元を占める。年間注文数は同 56.3%増の 63.9 億件で、1 日あたり 1,750 万件の利用がある。このほかホテル・旅行予約事業も好調に推移しており、売上 高は同 46.0%増の 158.4 億元だった。

同社はシェア自転車の mobike を 2018 年に 27 億ドルで買収したが、買収から 1 年 で累積赤字は 1,000 億元を超えたと伝えられる。ニューリテールの分野でも、超小規模 生鮮小売店の運営が軌道に乗らないが、同社の陳少暉 CFO によると 2019 年は地域コ ミュニティを対象にした生鮮食品販売サービス「美団売菜」の運営に注力するという。

またフードデリバリーの配送網を生かし、商品の宅配サービスにも進出している。 2017 年 3 月にスタートした「美团跑腿」は、片道 1 時間以内の市内に範囲を限定し、 ちょっとした買い物の代行や品物の配達を頼むことができるサービスだ。現在は全国 40 都市で展開している。2018 年夏には注文から 30 分以内に生鮮食品等を配送する 24 時間対応の宅配サービス「美団閃購」をスタート。今年 6 月 6 日には、「美団配送」の ブランド名で宅配サービスに本格参入し、スーパーやドラッグストアと提携したことが 発表された。今後は配送インフラを他業種にも開放し、地域に密着した多店舗多品種の 即時配送サービス網を構築する計画を明らかにしている。フードデリバリーサービス分 野で最大のライバルである餓了麼(Ele.me)も同様の戦略をとっており、競争は激化する ことが予想されている。

D:滴滴出行 …… 北京小桔科技有限公司

・創業:2012 年 7 月  所在地:北京

・従業員数:約 1.3 万人 (登録ドライバー数は約 15 万人)

・主要事業:配車サービスを軸としたモビリティサービスの開発・運営

・売上高:未公開 (2018 年の赤字が 109 億元と伝えられる)

・上場:未 (2019 年中の上場を目指しているとされる)

2012 年 9 月に北京で配車サービスを開始し、 現在は全国 400 以上の都市で展開している。当 初は「滴滴打車」という名称だったが、2015 年 9 月に「滴滴出行」にブランドを変更した。中心 となるのは、一般のタクシーを呼ぶ「滴滴出租車 (DiDi Taxi)」、個人の車を利用した「滴滴快車(DiDi Express)・滴滴専車(DiDi Premier)」、代理運転の「滴 滴代駕(DiDi Designated Driving)」の 3 つのサービ スと、シェア自転車の「青桔単車」だ。

同社の「2017 企業公民報告」によると、2017 年時点で登録ユーザー数は 4.5 億人、 1 日の利用数は 2,500 万回にのぼる。最大手の老舗配車サービスであるが、運転手への 奨励金が赤字の原因となったり、営業許可証にからむトラブルが起きたり、利用者が事件に遭い相乗りサービスが停止に追い込まれたりと厳しい状況が続いている。

中国ではブームがひと段落した感のあるシェア自転車だが、 青桔単車もやはり苦戦している。2018 年 1 月に小藍単車のサ ービスを引き継ぐ形で参入したが、業績はいまだ好転していな い。同年 3 月には深センに約 2 万台を投入したが違反行為に より 1 日で禁止処分となり、先日の 2019 年 5 月 15 日には北 京で違法に自転車を投入したとして処分を受けている。

海外展開では、日本、ブラジル、メキシコ、オーストラリアで配車サービスを展開す るほか、今年 6 月 6 日には新たにコロンビアとチリでもサービスを開始すると発表し た。さらに 2015 年に東南アジアの Grab に出資した後、米 Lyft、印 Ola、ブラジル 99、 エストニア Taxify に次々と出資し、2018 年 1 月には 99 を買収している。

この数年は配車サービスを軸にモビリティサービス 全般へと事業を拡大する戦略を打っており、青桔単車に 加え、公共バスの「滴滴巴士」、カーシェアリングの「滴 滴共享汽車」、列車切符や航空券の販売、国内旅行業務の 取り扱い、新エネルギー車の研究開発、さらには金融サ ービスへと手を広げているが、いずれも黒字化できるビジネスモデルが完成していない。

なお今年 5 月末に日本のメディアが、トヨタ自動車が滴滴出行に出資を検討中だと報じたが、中国では日本の報道を引用する形でしか伝えられていない。滴滴出行側もコメ ントを発表していないため、中国ではデマやフェイクニュースととらえる向きもある。

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この記事を書いた人

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