中国の虫除け・殺虫剤市場

目次

1. 中国では虫さされに要注意

「なんてハエが多いんだ」、中国を訪れたことがある人ならば誰もが一度は思ったことがあるだろう。蚊も種類は同じだと思うが日本のそれに比べて刺されると痒みが強く、 相当腫れる場合もある。農村はもとより、都市部でも「城中村」と呼ばれる農地を追われた元農民や低所得者らが住む地区の衛生観念は十分でなく、放置されたゴミや溜め水が害虫・害獣の発生源になっている可能性は高い。

蚊やハエ、ネズミ等は伝染病を媒介する。国家衛生計生委員会のまとめによれば、中国が定める法定伝染病の感染者数は、2017 年 4 月だけで蚊が媒介する日本脳炎が 4 人、デング 熱が 27 人、マラリアが 226 人、ハエが媒介するリーシュマ ニア症(黒熱病)が 11 人、ネズミが媒介する E 型肝炎が 2,714 人、腎症候性出血熱(HFRS)が 742 人、レプトスピラ症が4 人 となっている。 2016 年の通年では、日本脳炎が 1,237 人(死亡 47 人)、デング熱が 2,050 人(同 0 人)、マラリアが 3,189 人 (同 16 人)、リーシュマニア症が 305 人(同 1 人)、ペストが 1 人 (同 0 人)、E 型肝炎が 27,922 人(同 15 人)、腎症候性出血熱が 8,853 人(同 48 人)、レプトスピラ症が 354 人(同 1 人)となっている。

蚊が媒介する日本脳炎、デング熱、マラリアの感染者数は年間数千人に上っているが、中国のどのあたりで感染しているのだろうか。少々古 いデータだが、国家衛生計生委員会の「2013 年 中国衛生統計年鑑」によると、2012 年のそれぞ れの感染症の発病率と死亡率は次の表のとおり だ。乾燥した内陸部よりは湿潤な沿岸部、寒冷な 北方よりは熱帯・亜熱帯性気候の南方地域の方 が虫が多そうなイメージがあるが、確かに南部沿岸地域を中心に発病率が高い傾向が見て取れる。さらに貧困率の高い河南省や広西チワン族自治区、四川省なども発病率が高 い。なお同じく蚊が媒介するジカ熱は、海外旅行に出かけた人が帰国後に発症する輸入感染症として、2017 年 1~2 月の 2 カ月間だけで 8 例報告されている。

2. 中国の虫除け・蚊取り商品とは

中国人なら誰もが知る「花露水」は、虫除けとしても痒み止めとしても使うことができる万能アイテムだ。アルコールに様々な漢方成分をプラスしたもので、医薬品ではない。複数のメーカーからいろいろな花露水が出ており、夏が近くなるとスーパーや商店などに山積みになって売られているのを目にする。

特に虫除け効果をうたった花露水には、虫除け成分のディートやピレスロイド系薬剤 が含まれているものが多い。医薬品ではないため、皮膚や傷口に直接塗るとアレルギー や皮膚炎をおこす可能性があるというが、一般的には腕や足に直接スプレーしたり、昔からある瓶タイプならば手のひらにとってバシャバシャと体中に塗ったりする。痒み止めとして使うなら、虫刺され部分に直接塗ればよい。価格は 1 瓶 10 元ぐらいからある。 ちなみに花露水はアルコール濃度が高いことから、手の消毒やスマートフォンの指紋汚れ落とし、ホワイトボードの掃除、複写式領収書や宅配便の送り状の宛名消しなどに使 われたりもしている。

さて、日本では虫除けスプレーといえば、昔からあるスプレー缶入りのエアゾールタイプのものとプラスチックのスプレーボトルに入ったミスト(霧)タイプのものがあるが、 中国ではほとんどがミストタイプだ。花露水があまりに浸透しているせいか、日本に比べ出回っている虫除けスプレーの種類は多くない。

そんな中で、最もよく見かけるのが「Raid(雷達)」の虫除けスプレーだろう。Raid は 米ジョンソン社との合弁会社である上海荘臣有限会社が製造販売している殺虫剤ブラ ンドで、ほかにも後ほど紹介するリキッド式電気蚊取り器や殺虫スプレー、ゴキブリ駆除剤などを製造している。ジョンソン社は、日本でもオレンジ色のスプレー缶が目印の虫除けスプレー「スキンガード」や「カビキラー」、「スクラビングバブル」 などを製造販売しているメーカーだ。Raid の虫除けスプレーは、フローラ ルとアロエの 2 種類の香りがあり、1 本 100ml 入りで 25 元ほど、3 本セッ トで 40 元前後する。含まれるディートの濃度は 7%で、効果は約 4 時間と なっている。天猫(Tmall)では 2 本あるいは 3 本セットが月間 7,000 件も売 れている。

中国ローカルの家電・殺虫剤メーカー、成都彩虹電器の虫 除けスプレーは、ディートの濃度 10%で効果は 8 時間続く。 100ml で 1 本 15 元ほどと手ごろだ。ディートの代わりに植物精油を使った姉妹品もあるが、こちらは 75ml で約 30 元と なっている。

国産ベビー用品ブランドの潤本からは、ディートを使っておらず、効果が 6 時間続く製品がでている。虫除けにも虫刺されの痒み止めにも使えて、1 本は 5~6 元ほどだ。天猫超市では 2 本セット (16.8 元)の月間販売数が 3,300 件以上、公式旗艦店では 6 本セット の販売数が 5,000 件を越える。購入者のコメントを見る限りでは、 ディート不使用で値段が安いため人気のようだ。

越境 EC で手に入る海外製品としては、オーストラリアの Aerogard が人気 だ。日本でも認可されたばかりのイカリジン(Picaridin)を主成分とした虫除けスプレーで、効果は 4 時間ほど続く。1 本 135ml で、価格は 60~100 元ほどと国産品の数倍も高価だ。しかし越境 EC サイトの天猫国際にある公式旗艦店では、 1 本 65 元で月間販売数は約 1,500 件、オーストラリアのドラッグストア 「Chemist Warehouse」では 1 本 79 元で、月間販売数は 8,000 件を越える。

他にもシリコンなどに虫除け成分を練り込んだ腕輪状の虫除けリングや、薬剤を交換できる腕時計型虫除け、衣服に貼る虫除けシールなども国内メーカーから出ている。こ れらのタイプの多くは植物精油などを使ったもので、安全性とファッショナブルなことをアピールしており、天猫での月間販売数が数万件を越えるものも少なくない。“手軽 であること”は中国で売れる条件の一つだが、腕につけるだけ、ベルトやバッグにぶら 下げるだけという手軽さが虫除けスプレーより好まれるのだろう。

一方、家庭用の虫除け製品としては、昔からある蚊取り線香はもちろん、マットタイプやリキッドタイプの加熱式電気蚊取り器が普及している。本体と数カ月分の薬剤のセットで、いずれも 20 元ほどから手に入る。日本と同様にリキッドタイプの方が主流になっており、特に直接コンセントに差し込むタイプの製品の選択肢は多い。

このほか日本では家庭用として一般的でない、誘虫 LED ランプで蚊を集めて吸い込み退治する蚊取り家電も登場しており、80 元程度から数百元以上するものまで様々だ。 USB の蚊取り器は蚊取りマットを入れて使う物で、USB で充電してそのまま屋外に持ち出せるタイプもある。逆に日本でよく使われているワンプッシュ式蚊取りスプレーは 日本のアース(安速)が販売しているが、まだ日本ほど一般的ではないようだ。

3. 害虫用殺虫剤

殺虫剤メーカーは全国に約 200 社あり、大手とされるのが 「Raid(雷達)」の荘臣、超威(SUPERB)、欖菊の 3 社だ。エアゾールタイプの殺虫剤でもっともよく見かけるのもこの 3 社の製品だろう。ハエ、蚊、ゴキブリ、アリ、ノミ、ダニ、カメムシ、クモなどに効くものが多く、1 本 15~30 元くらいで手に 入る。

日本の「アースジェット」のような引き金式トリガーノ ズルの商品はなく、ヘアスプレーのような普通のスプレー缶ばかりだ。日本ではあまり見かけないミストタイプのスプレー式殺虫剤も多い。風呂用洗剤をシュッと吹きかけるあの感じならば、簡単に虫に逃げられそうなものだが、アリ やダンゴムシのような飛ばない虫を駆除したり、あるいは寝る前や外出前に排水口にス プレーするために使う。都市部の住宅はほとんどがマンションだが、排水トラップや S 字トラップ を設けずに排水管をつないでいることが多いため、 排水口から虫が上がってくることは珍しくないからだ。また害虫を冷気で凍らせて駆除するタイプ の殺虫剤も見かけない。

日本ではおなじみのくん煙タイプの殺虫剤は、日本 のアースが「アースレッド(紅阿斯)」を販売しているほ か、中国メーカーも数社が製造している。中国の住宅はたいていフローリングやタイル張りである上、化学物質の毒性を過度に気にする風潮もあってか、日本ほど利用されていない様子だ。アースの製品は 1 個 40~ 60 元するが、中国メーカーの製品は火を使うもので 1 個 5 元ほどだ。

煙が出ないエアゾールタイプのくん蒸殺虫剤は出回っていないが、日本には無いゴキブリ駆除用線香がある。一見、蚊取り線香のようだが、くん煙殺虫剤と同様に、火をつけた後は数時間部屋を閉め切っておく。

ゴキブリ駆除では、粘着シートを使ったゴキブリ捕獲器もあるが、中国メーカーの製品は餌が別売りのものや、中の粘着シートだけを取り換えて繰り返し使うものもある。 餌も粉状、顆粒状、大きなラムネのような粒、ジェル状と様々で、殺虫成分の入っているものと入っていないものが売られている。特に注射器状の容器に入っている薬剤は、 粘着シート捕獲器の餌として使うこともできるが、そのまま直接ゴキブリの出る場所に 米粒大にちょんちょんと置いて使う方法が一般的だ。薬剤に触れる心配のない据え置き 型の誘引殺虫剤も複数のメーカーが販売しており、欧米から輸入した薬剤をアピールす るものも多い。日本のアースも「ごきぶりホイホイ」やホウ酸を使った誘引殺虫剤を販 売している。EC サイトでは購入者が駆除効果を写真付きでコメントしているケースが 大半で、価格が高くても評価が良い商品が売れ筋となっている。

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この記事を書いた人

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