インドネシア ASEAN最大の国土と人口を持つ
インドネシアのモバイル通信市場は、Telekomsel、Indosat、XL Axiataの主要3社で全体の81%にあたる約2億人のユーザーを抱えている。3Gは2006年9月から商用サービスが始まっており、W-CDMA方式を採用している。
これら主要3社は、2012年末より4G(LTE)の試験運用を始めており、数年以内の商用化を目指している。
2011年末時点でインターネット接続ライセンスを持つ企業は204社あり、国営のTelkomが2001年からADSLの商用サービスを始めている。家庭へのPC普及率が高くないため、Warnetと呼ばれるインターネットカフェの利用が中心となっている。
2009年7月にはWiMAXのライセンスが8社に付与されているが、スマートフォンからインターネットを利用する人が増えており、モバイルからの利用者を含むインターネット利用者総数は人口の80%にあたる約1億8000万人に上っている。
フィリピン 人材の質が高く親日的
フィリピン長距離電話会社(PLDT)の100%子会社であるSMART CommunicationsとGlobe Telecomがそれぞれ市場の67%と32%を持つほか、PiltelやSun Cellular、Extelcomが参入している。2005年に大手2社を含む4社がW-CDMA方式で3Gサービスの提供を始めており、2012年3月末時点の契約者は約676万人。4G(LTE)は2011年5月からSMARTが主要都市でサービスを始めており、2013年3月末時点で約5万人が契約している。
ブロードバンド市場のシェアはPLDTが62.6%、Globeが31.2%となっている。
フィリピンは離島が多いこともあり固定通信網の整備が遅れているが、都市部ではケーブルテレビによるブロードバンド接続サービスも始まっている。またPLDTは2011年末からマニラの一部地域でFTTHの提供を始めている。
ベトナム 対外開放政策で飛躍的な成長遂げる
ベトナムのモバイル通信市場は2011年末時点で7社がサービスを提供しており、このうち3Gは4社が提供し、全国のカバー率は91%、全人口のおよそ15%が利用している。人民解放軍が出資するVietteleが37%のシェアを持つほか、ベトナム郵便電気通信集団(VNPT)子会社のベトナムモバイルサービス(VMS、Mobifone)及びベトナムテレコムサービス(GPC、Vinafone)がそれぞれ約30%のシェアを持つ。4Gサービスは2010年8月にLTEのテストライセンスが5社に付与され、試験運用が行われている。
2009年6月までに首都のハノイでは99%の地域でFTTHでの接続が可能となり、2011年9月時点で約30万人が契約している。ADSLを含む市場シェアは、VNPTグループが63.2%、FPTが22.3%、Viettelが8.9%となっており、全国に3万5000カ所以上あるインターネットカフェが普及の中心を担っている。
タイ デジタルコンテンツ分野を政府が奨励
タイのモバイル通信事業はBTO(Build Transfer and Operate)方式が採用されており、主要な運営事業者としてAIS、DTAC、True Move、CAT Telecomがある。3Gサービスは、2009年末にTOT(タイ電話公社)がバンコク市内限定で始めた後、2011年7月から他の事業者も順次サービスをスタートし、全国をカバーするまでに広がった。4G(LTE)はAISとTOTが共同で2011年末から商用化に向けた試験を進めている。
ブロードバンドサービスを提供する主な事業者はTOT、True、TT&Tなどで、家庭への普及はまだ十分でない。しかし2010年末に政府が「国家ブロードバンド政策」を発表したことからFTTHの整備が期待される。一方で、WiFiホットスポットの設置が進んでおり、Trueは2011年9月時点で全国に約4万カ所を設置。Triple T Broadbandはモバイル事業者のAISと提携して2011年末までに約5万カ所を設置している。
ミャンマー 民主化が進み経済発展に期待
国営のミャンマー郵電公社(MPT)が唯一のモバイル通信事業者として、2002年にGSM、2008年7月に3GのW-CDMAサービスを始めたが、非常に高額な初期費用が必要で政府関係者や富裕層のみしか利用できない状態だった。しかし2013年1月に政府は2016年までに携帯電話の普及率80%を目指すと宣言し、入札の結果2013年6月にノルウェーの国営企業Telenor ASA及びカタールの国営企業Qatar Telecomがライセンスを獲得。手ごろなプリペイド契約が登場し、一気に利用者のすそ野が広がっている。
ミャンマーでは固定回線からインターネットが利用できるのは720カ所あるインターネットカフェなどに限られており、携帯電話が普及し始めたことなどから、ブロードバンド加入数は2010年をピークに減少している。都市部ではWiMAXのサービスも始まっているが、インターネットの利用者総数は47.4万人で、普及率は1%以下にすぎない。しかし携帯電話の普及率が80%まで上昇すれば新たに4000万人以上の携帯電話利用者が生まれ、このうち約半数がモバイルインターネットユーザーになると見込まれている。
マレーシア 2020年の先進国入り目指して躍進
マレーシアのモバイル市場のシェアはMaxis Mobileが39%、Telecom Malaysia(TM)系列のCelcom Axiataが31%、DiGi Telecomが25%、最後発のU Mobileが5%となっており、大手3社で9割以上を占める。2011年12月末時点で3Gサービス利用者は1000万人を超え、スマートフォンの普及率も世界4位の45%。4G(LTE)は、既存4社と新規参入となるPuncak Semangatなどがサービス提供に向けて動いている。2013年4月からLTEの商用サービスを始めたCelcom Axiataは、すでに300万人を超える利用者を持つ。
近隣のASEAN諸国に比べてブロードバンド普及率が高く、2011年12月末時点で総加入数214.8万人のうち約25万がFTTHとなっている。政府は2015年までの目標として全国の家庭の75%で高速インターネットが利用できるようネットワークの敷設を進めている。
カンボジア
カンボジアにはモバイル通信キャリアが一時9社もあり再編や買収が進められている。現在シェアが大きいのはMetfoneとCamGSMで、特にMetfoneは2008年の参入からわずか3年で500万人以上の利用者を獲得した。契約はプリペイドが主だが、都市部では3Gが広範囲をカバーしており、一部では3.5Gも利用できるなど環境が整っている。
データ通信サービスが2002年に自由化され、現在はMetfone、Telecom Cambodia、Coge Tel、CamGSMなど15社あまりがサービスを提供しているが、固定通信網の整備が遅れていることから普及は進んでいない。大都市では空港や飲食店、コンビニなどを中心に無料のWiFiスポットが増えている。
ラオス
現在ラオスでは、Unitel、ラオテレコム(LTC)、ラオス電気通信公社(ETL)、Beeline Laoの4社がモバイル通信サービスを提供しており、市場シェアはそれぞれ39%、27%、24%、10%となっている。4社とも3Gサービスを提供しており、LTCがCDMA2000 1xEV-DO、他の3社はW-CDMAを採用している。最も早く3Gサービスを始めたLTCの3G契約数は2012年3月末時点で約55万、Unitelは同じく約53万となっている。
ラオスのブロードバンドは固定通信網の整備が遅れている上、料金の高さがネックとなって家庭への普及が遅れている。ADSLサービスを提供しているのは、LaoTel Internet、ETL Internet、Unitelなどで、2008年からはBeeline Lao、Planet Online、Sky Telecomの3社がWiMAXサービスを提供している。光ファイバーバックボーン自体は全国に整備されており、周辺の中国、ミャンマー、ベトナム、カンボジア、タイとも接続しているが、国内のローカル網の整備が遅れている。
シンガポール グローバルビジネスの拠点
モバイル通信キャリアはシンガポールテレコム(SingTel)、StarHub、M1の3社があり、市場シェアはそれぞれ45.9%、28.2%、25.8%となっている。いずれも2005年4月までにW-CDMAの3Gサービスを始めており、3G契約者は2012年末時点で全体の75.9%を占める約592万人。また3社とも4G(LTE)の商用サービスを始めており、SingTelは2013年中にLTEの人口カバー率95%を目指している。
ブロードバンド市場では、SingTelとStarHubがそれぞれ41.1%と33.2%のシェアを持つ。このほかPacNetが6.4%、M1が5.6%、QMaxが4.5%、その他中小のISP事業者がサービスを提供している。2011年末時点で、xDSLとケーブルブロードバンドの加入者数は約125万人に達しており、高速な通信環境が整っている。また政府が積極的に無線ブロードバンドの普及を推進しており、学校やビジネス街等の人口集積地に通信事業者と協力してホットスポットを7500カ所以上設置している。
ブルネイ 東南アジアトップの給与水準で豊か
ブルネイではDST Communicationsとb-mobileの2社がサービスを提供している。いずれも3GにW-CDMAを採用しており、2012年3月末時点の加入者は約26万人。市場シェアはDSTが91.6%、b-mobileが8.4%となっている。またDSTは2013年中の4G(LTE)サービス開始に向けて準備を進めている。
ブルネイ政府は2008年からインターネットの普及に注力しており、インターネット利用率は56%と高い。旧国営のTelecom Brunei Berhadは2017年までに全国にFTTHを敷設する計画を進めており、完了すれば人口の87%余りが利用できるとしている。
ASEANに住む中上位収入層のサービス利用状況
ASEANの主要都市に住む中上位収入層を対象に、博報堂が2012年に行った調査によると、携帯電話(スマートフォンまたはフィーチャーフォンのいずれかもしくは両方)の個人保有率はいずれの都市においても90%を超えている。一方で、パソコンについてはタイのバンコク、インドネシアのジャカルタで世帯保有率が50%を下回る状況となっており、職場にはパソコンがありインターネットができるが、自宅ではパソコンではなく携帯電話からインターネットを利用する姿が浮かび上がる。
各都市のスマートフォンとフィーチャーフォンの個人保有率をみると、中上位収入層であってもシンガポールを除いて約8割が現在もフィーチャーフォンを使っているようだ。なお東京はスマートフォンが58.9%、フィーチャーフォンが57.4%となっている。
またスマートフォンでインターネットを利用する場所について見ると、自宅で利用する人が各都市で高い比率となっており、パソコン代わりに利用されていると推測できる。一方自宅外では、会社での利用が多いほかは都市によってまちまちで、特にネットカフェや無線LANスポットといった公共エリアでの利用状況は、当該都市の無線LAN環境の整備状態に左右される事が考えられる。また各都市の交通インフラの整備状況や主要な通勤手段の違いも利用率に影響を与えそうだ。このほか、4Gサービスがスタートしているマレーシアのクアラルンプールやシンガポールで自宅外の利用率が高くなっている点も注目したい。
スマートフォンでよく利用するサービス・機能(仕事での利用を除く)に関する調査では、SNSやチャットといったコミュニケーション系が上位に並んだ。同時に情報検索や電子メールのようなパソコンでよく利用されるサービスが、スマートフォンでも同様によく利用されている事が明らかになった。
なおFacebookの対人口普及率は、多い順にシンガポールが65.64%、マレーシアが53.94%、タイが37.45%、フィリピンが35.47%、インドネシアが25.36%、ホーチミンが21.63%で、日本は17.19%となっている(2013年8月Facebook発表)。
ASEANは6億の人口が集まる次の巨大市場と言われるが、これまで見たように携帯電話やインターネットの普及状況はまちまちとなっているため、参入にあたってはサービスの性質によってターゲット国を見極める必要があるだろう。さらにフィリピンやシンガポールのように英語話者がある程度多い国を除いては、ローカル言語でのサービス提供を検討する必要もある。ITサービスのASEANへの進出は始まったばかりで事例や情報も少ないことから、事前に十分なフィジビリティスタディを行うことが、事業を成功に導く最初の一歩となる。