韓国における第三者決済サービスについて- e-Commerceにおけるペイメントゲートウェイを中心に -

目次

1.韓国のe-Commerce市場の規模及び展望


2013年の韓国のe-Commerce市場の規模は、約54兆7,500億ウォン(約5.2兆円)で、前年比14.9%の成長をみせた。媒体別でみると、PCからのネットショッピングが市場全体の75.1%を占めており、前年比10.6%増の41兆1,600億ウォン(約3.9兆円)、モバイルからのネットショッピングは前年の2.3倍となる3兆9,700億ウォン(約3,760億円)を記録した。2014年も引き続き成長が続き、市場全体の規模は64兆530億ウォン(約6.1兆円)に達する見込みである。

e-Commerce市場が順調な成長を続ける背後には、インターネットを通じた非対面取引を可能にした電子決済サービスの役割が大きい。金融機関以外で電子決済サービスを提供する第三者決済機関、とりわけペイメントゲートウェイ(PG)会社がオンライン決済に関するトータルソリューションを提供するようになり、煩雑な契約や高額なセキュリティシステムを揃えなくてもネットショップを簡単に始められる環境が整ったためだ。

2.韓国における第三者決済機関

(1)第三者決済機関の現況について

2012年末時点で第三者決済機関は128社あり、主に( i )プリペイド型電子決済手段の発行及び管理、(ⅱ)ペイメントゲートウェイ(PG)、(ⅲ)エスクロー、(ⅳ)電子請求書決済のサービスを提供している。

(2)各サービスの内容と主要事業者

詳しいサービス内容と主要な事業者は以下の通りとなっている。

3.ペイメントゲートウェイ(PG)について

(1) PGのサービス類型

ネットショッピングに欠かせないPGは、決済手段によってクレジットカードPG、口座振替PG、仮想口座PG、少額決済(通信課金)PG、商品券PGの5種類に大別される。PGを利用する加盟店は、PG会社に対して初期登録費(10~30万ウォン)、年間手数料(10~40万ウォン)及び決済1件あたりの手数料を支払う。

(2)各サービス類型の特徴

i) クレジットカードPG

クレジットカードPGは、ネットショッピングモールに出店する各店舗(加盟店)を通じて決済情報の送受信及び決済代行サービスを提供するもので、カード会社がPG会社に決済代金を支払うタイミングは通常カード利用日(D)+2~6日、加盟店あての支払いタイミングは通常D+3~10日。加盟店の負担する手数料は通常3.3~4.0%で、カード会社に対する手数料(2.9~3.3%)を除くと、加盟店がクレジットPG会社に支払う純粋な手数料は0.4~1.0%の水準となる。

ii) 口座振替PG

金融機関と連携して、購入者と加盟店などとの資金取引を行うサービスを提供するもので、加盟店あての支払いタイミングはおおむねD+1~8日。加盟店の負担する手数料は通常1.8~2.5%であるが、「LG U+」及び「INICIS」以外のPG会社では、口座振替の際に発生する手数料などを別途金融機関に支払わなければならない。また2012年6月現在、金融機関と直接連携して口座振替PGサービスを提供する会社には「金融決済院」、「LG U+」、「INICIS」の3社がある。それ以外のPG会社は、上記の3社を通じてサービスを提供するか、一部金融機関に限って口座振替PGサービスを提供している。

iii) 仮想口座PG

ネットショッピングの支払い手段として「無通帳入金(仮想口座)」を選択した場合の決済方法で、購入者は通知された仮想口座番号あてに代金を入金する。加盟店あての支払いタイミングは口座振替PGと同様にD+1~8日。加盟店の負担する手数料は、決済金額とは無関係に決済1件ごとに課金される。通常1件あたりの手数料は300~500ウォンである(仮想口座の使用に伴う手数料はPG会社が負担)。加盟店側にとって仮想口座PGは口座振替PGと似ているが、購入者ごとの入金確認が容易で、誤入金防止機能も付いており、精算業務が効率的に行えるというメリットがある。

iv) 少額決済(通信課金)PG

ゲームや音楽といったデジタルコンテンツの購入によく用いられる方式で、比較的少額の購入代金について、有・無線通信(スマートフォンを含む携帯電話、固定電話など)の利用料金と併せて請求が届く。携帯電話を利用する場合、携帯電話番号及び住民登録番号(韓国で全ての国民に与えられる識別番号)を画面に入力した後、当該携帯電話に届いた認証番号を入力して決済するSNS方式と、PG会社が指定するARS番号に電話をかけ、流れるアナウンスに従って携帯電話番号を入力して決済するARS方式がある。また固定電話を利用する場合も、PG会社が指定するARS番号に電話をかけて決済する方式と、PG会社が提供するARSから掛かってくる電話を利用して決済する方式がある。

加盟店が負担する手数料は、他のPGと比べ高い5~13%で、このうち通信キャリアの取り分5~7%を除いた額がPG会社に配分される。決済代金が加盟店に支払われるまで2~3カ月かかるため、積極的に利用する加盟店は少なくなっている。しかし通信キャリアが滞納管理を引き受けるため、代金の未回収に対するリスクは低い。

v) 商品券PG

購入者が代金を商品券で支払う場合に購入者と加盟店とを仲介するサービスで、利用できるのはPG会社と商品券発行会社の間で利用契約が結ばれている商品券に限られる。ネットショッピングよりデジタルコンテンツの購入によく利用され、決済手続きに個人情報が必要ないことからオンラインゲームなどを楽しむ10代が主に利用している。 加盟店に代金が支払われるまで約1カ月かかる上、加盟店が負担する手数料は10~18%で、これには商品券発行会社の手数料も含まれている。決済1件ごとに精算するのではなく、一定期間ごとに一括精算する方式をとる。

(3)主なPG会社のサービス状況

PG会社を利用するには、一般的に「加入費(初期登録費)」、「年間定額料金(システム利用料)」、「売上に対する手数料」がかかる。さらにクレジットカードの場合、カード会社とのデータ通信にかかるトランザクション料金も課される。

下記の表は、主なPG会社の加入費、年間定額料金、サービス類型別の手数料(率)及び精算周期などをまとめたものである。PG会社によってサービスごとの手数料(率)等が異なるため、PGの利用を検討する際には、それぞれの決済手段がどのような利用者層(男女・年代・地域別)によく利用されているかをよく比較することが重要だ。

注:※上記は「代表加盟店向けサービス」の手数料率である。「代表加盟店向けサービス」とは、PG会社が自社の決済システムを有しない中小のECサイト等に代って銀行やクレジットカード会社との代表加盟店契約を締結し、取引の承認、仕入及び精算などを代行するサービスをいう。 

※その他、「エスクロー」や「契約履行保証保険」への加入を義務付けるPG会社が多い。これは電子商取引等における消費者保護に関する法律(2005年3月31日公布)に基づくもので、ネットショッピングなどの商取引におけるアクシデント(物品の未配送、倒産などにかかる補償)に備えるためである。契約履行保証保険料はPG会社ごとに補償限度などを基に定められている。ただし、クレジットカードによる取引、配送を必要としない取引(ゲームや音楽等のデジタルコンテンツ)は除かれる。

(4) PGサービスの利用状況

2012年中のPGの利用件数は11億件、取引総額は43.5兆ウォンで、それぞれ前年比5.0%ポイントと17.7%ポイント増加した。決済手段別ではクレジットカードPGが全体の62.7%、仮想口座PGが16.8%、口座振替PGが11.9%、少額決済(通信課金)PGが6.6%の割合だった。

4.モバイル決済サービスの動向

(1) 主なモバイル決済サービス

韓国で現在運営が行われているモバイル決済サービスは下記の通りである。

(2)「オフライン」モバイル決済サービスの現状

日本で一般的なNFC方式を使ったモバイルウォレットサービス(いわゆる「おサイフケータイ」)は、専用リーダーの設置など別途インフラ構築に費用がかかる上、セキュリティに課題があるため本格的な普及にまだ時間がかかりそうだ。一方で韓国では、2012年に通信キャリアのKTが金融機関と共同で「MOCA」というモバイル決済サービスを始めている。「MOCA」はNFC方式の他、バーコード、QRコードなど多様な決済方式が可能で、決済情報が店側に残らないためセキュリティを強化できるという。

(3)「オンライン」モバイル決済サービスの現状

オンラインでのモバイル決済サービスは、「携帯少額決済」による方式と「In-App方式」に分けられる。さらに「In-App方式」は、最初にモバイル端末に専用アプリをインストールした後、アプリ内で課金するケース(主にクレジットカードと連動)と実店舗での買い物時などにオフラインで課金するケース(購入者のモバイル端末に表示されたバーコードなどを店舗側が読み取って決済を行う)があるが、ここではネットショッピングにおけるPG会社のモバイル決済について概観する。

i)サービスのプロセス及び特徴

ネットショッピングサイトのアプリまたは同サイト内の決済用ユーザインターフェースを通じて取得した決済依頼を元に、PG会社のサーバで決済手段別(クレジットカード、携帯少額決済)の認証を行う。認証が完了すると認証番号が発行され、これを以て各PG会社のサーバから決済を要求する。決済はネットショッピングサイト側のサーバとPG会社のサーバの間でワントランザクションで処理される(モバイルISP認証、口座振替を除く)という特徴がある。


ii)モバイル決済でクレジットカードを利用する場合の注意点

2013年5月に韓国の金融委員会および金融監督院が発表した「オンライン決済セキュリティ強化総合対策」に基づき、モバイル決済においてもISP認証または公認認証書が必要となった。特に決済額が30万ウォンを超える場合は、両方の認証が必要となる。なおデバイスによっては、認証にまだ対応していないクレジットカード会社もあるので注意が必要である。クレジットカード会社別の認証方式は以下の通りである。

注:※1) クレジットカード番号を入力せずカード会社が発行する仮想ISP暗証番号(ユーザによる事前登録必要)を入力することで決済する。 ※2) 政府が指定する国家公認認証機関が発行する電子認証書。ネットバンキング、ネットショッピング、各種証明書の申請に使われる。公認認証機関及び金融機関のホームページから無料で発行を申請できる。Windows環境かつInternet Explorer向けで、スマートフォンなどではユーザ向けのアプリを用意して対応しているところもある。

なお、BC、KB、Wooriのクレジットカードで決済する場合には、ISP認証用のモジュール又はアプリがモバイルデバイスにインストールされていることが前提となる。一方、あんしんクリック認証を行う上記表のクレジットカードについては、決済の前にモバイル用ウィルス対策ソフトをインストールする必要がある。

(4)今後の見通し

スマートフォンやタブレットなどモバイルデバイスの普及により、モバイル決済という新たな決済の形態が登場した。オンライン取引においてプラスチックカードで決済する場合、カード番号を入力する煩雑さが存在し、現金での決済を希望する場合には口座振替のためにネットバンキングを使わなければならない。しかしモバイル決済は、個人情報保護やセキュリティに関わる認証は欠かせないものの、より簡便な方法で決済ができるため、特にネットショッピングをはじめとするe-Commerce領域においてモバイル決済は確かなメリットを有している。今後もセキュリティ上の課題を解決しながら、ユーザ中心のモバイル決済サービスとして進化を遂げることが予想される。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

中国ビジネスをワンストップでご支援しています。クララは20年以上にわたり日本と中国の間のビジネスを牽引している会社で、日中両国の実務経験と中国弁護士資格を有するコンサルタントの視点・知見・ネットワーク・実行力を生かして、お客様の課題解決と企業成長を強力に支援しています。

Webサイトはこちら
>>日本企業の「中国事業支援」で実績20年以上 | クララ

目次