1. 小学生は宿題がたくさん
上海市の小学校の授業時間は、一般的に 8 時~15 時半までである。放課後は各科目の宿題をこなすために宿題専門の塾に直行する子供が少なくない。宿題の量としては各科目でプリント 1 枚程度だが、国語や英語などは指定された部分を暗記して、学校で発表をしなければならないことも多い。夕食も塾で済ませ、19 時~20 時に親か祖父母、もしくはお手伝いさんが迎えに行って一緒に帰宅する。週末の分までまとめて宿題をこなす金曜日などは、22 時頃まで塾で頑張る子もいる。
宿題のプリントは 1 学期分だけでこんなにある(筆者撮影)
ここで強調したいのは、中国では学校の宿題は親が手伝うことが前提となっていることだ。子供が一人で解けない問題も多い上、提出する宿題は全て正解でなければならないという暗黙の了解があるからだ。宿題の丸付けをするのは先生だが、提出前に正解にしておく必要があり、保護者か塾の先生が答えの確認を必ずしている。
毎日 1 教科 1 枚程度の宿題というから日本とそれほど変わらないかと思ったが、1 学期分の宿題のプリントの山を見ると、日本に比べて相当多いように感じないだろうか。
2. コロナ禍はオンライン授業で学習を継続
中国で新型コロナウイルスが猛威を振るっていた 2020 年の初め頃には、多くの地域で外出が禁止され、学校にも通学できなくなった。しかし上海では急ピッチでオンライン授業の整備が進められ、春節(旧正月)の連休明けには、子供たちは配信される授業を使って自宅にいながら学習を続けることができ、実質的な休校にはならなかった。
オンライン授業は、スマートフォンやタブレット、パソコンのほか、テレビでも視聴することができ、どの端末を使っても同じ授業を見ることができる。後で詳しく紹介するが、子供たちは新型コロナウイルスの感染拡大以前から、アプリを使って宿題をやったり、オンラインで習い事をしていたりした。そのため、急にオンライン授業が始まっても、スマートフォンやタブレットを使って勉強することに抵抗が無い子供や親が多かったのではないかと思う。
また家庭と 学校との連絡に は 普段からWeChat(微信)が使われていたが、オンライン授業が始まったのを機に DingDing(釘釘)というアプリが使われるようになった。クラスごとの連絡板として使われており、担任の先生がクラスの保護者宛にお知らせをする形になっている。
WeChat とは違い、DingDing は保護者から返信ができない仕組みになっている。WeChat の場合、他の保護者らとのやりとりがあると重要な連絡が埋もれてしまい探すのが手間だったが、DingDing は学校からの連絡のみが表示されるので、後から確認もしやすいという。保護者から担任の先生へ連する場合は、ダイレクトメールの機能を使って個別に連絡を取っている。
3. 小学生向けの学習アプリ
教育サービス会社の藍鯨教育によると、2020 年 11 月時点の小中学生向け学習アプリのシェアトップ 10 は次の表のようになっている。
すでに紹介した通り、小学生の学習において宿題をどうやるかという課題は非常に大きい。むしろ普通の家庭では「宿題=子供の教育」となっていることも少なくない。シェアトップ 10 のうち、宿題の回答検索のためのアプリが 4 つもランクインしていることからも、宿題の負担の大きさがうかがえる。
また学習塾代わりに使われるオンライン学習アプリの多くでは、学校教材と連動した授業や教材が用意されており、最初のアカウント作成時に居住地や学年を入れることで、自動的に学校での学習内容と同じ教材が表示される仕組みとなっている。
シェア 1 位の宿題回答検索アプリ「作業幇」は、アプリを頻繁に利用しているアクティブユーザー数だけで 1 億人を超える。ちなみに、中国語で「作業」とは宿題、「幇」は手伝うという意味だ。有料会員も用意されているが、回答検索の機能は無料で利用できる。算数・数学はもちろん、英語、国語、物理、化学、生物、歴史など幅広い科目の宿題に対応しており、「作業幇」の運営会社によると問題の収録数は 2.5 億問を超える。
反復学習のために似たような問題を探し出してくれる機能もあり、10 位にランクインしている兄弟アプリの「作業幇直播課」と連動して教師のライブ解説を聞くこともできる。
実際に「作業幇」を使ってみよう。アプリを開くと、上部に「拍照捜題」と書かれたカメラのマークの青い大きなボタンがある。「拍照捜題」とは、写真を撮って問題を探すという意味だ。ボタンを押すとカメラに切り替わるので、宿題の問題を撮影する。すると、あっという間に同じ問題の回答が画面に表示される。
実際に小学 6 年生の算数の問題を撮影してみたが、画像のスキャンもきれいで、正しく読み取れており、回答と解説もすぐに表示された。親が宿題を見てあげる時には、さっと正解が確認できて便利だろうが、実際には子供が回答を書き写して“ズルする”ための便利アプリになっている感は否めない。しかし小学生の場合、問題が比較的簡単なこともあり、やはり基本的には保護者等がきちんと見てあげなければならない。回答が間違ったまま提出すれば居残りをさせられるし、更には「宿題をまじめにやっていない」と教師から注意を受けることになるというから、「作業幇」は中国の全ての小学生に欠かせないアプリとなっている。
続いて、ランキング 6 位の「学而思網校」を紹介しよう。こちらは小中学生向けのオンライン学習アプリで、塾代わりに使われている。他のアプリと同様に、最初に居住地や学年を選ぶと学習内容に適した動画が表示される仕組みになっている。無料で利用できるが、有料会員しか視聴できない動画も多い。
実際に筆者の知人の家庭では、子供が「学而思網校」を使って自宅で勉強しているといい、ライブ配信の授業を見ながら勉強している様子を見せてもらった。
4. 上海の小学校生活について聞いてみた
実際に上海の小学校の予備班(中国語で「預初」といい、小学 6 年生に相当)に通う子供を持つ友人に、コロナ禍での学校生活や学習状況をインタビューしたので紹介しよう。
まず、上海の小中学校の学年は日本とは若干違う。上海では小学校は 1 年生~5 年生までで、その上に日本の小学 6 年生に当たる「予備班」があり、更にその上に中学 1 年生~3 年生がある。ちなみに予備班は中学生として扱われる。中国も上海以外の地域では、日本と同じく小学校は 6 年制を採用しているケースがほとんどのようだが、上海は全国に先駆けて新しい教育制度を実施している。ゆくゆくは全国で小学校が 5 年制になるのだという。
さて今回インタビューした友人のお子さんは予備班に属するが、学習内容は他の地域の小学 6 年生と同じだ。ちなみに日本は 4 月から新学期が始まる 3 学期制が採られているが、中国は 9 月から新学期が始まる 2 学期制が採られている。
まず、新型コロナウイルス感染拡大の直後について伺ってみた。オンライン授業が続いたという認識だが、この間、どういったデバイスで、どのような形式の授業を受けていたか質問したところ、オンライン授業になっても月曜から金曜日まで午前と午後に、普段と同じように授業が行われ、体育、音楽、美術の授業もあったそうだ。
オンライン授業は、スマートフォン、タブレット、パソコン、テレビのどれでも見ることができ、スマートフォンやタブレット向けの配信には学習アプリの「暁黒板」か動画配信サイトの「bilibili」のアプリを使用していたという。また、授業時間の 3 分の 2 は上海市が制作した授業動画を視聴する形のオンライン授業で、残りの 3 分の 1 は担任の先生がアプリを通してリアルタイムで質疑応答を行っていた。
例えば、「暁黒板」のアプリで授業を視聴後、同じアプリ内のグループチャットで担任の先生が授業のポイントを説明し、クラスの子供たちに質問を投げかけたりしながら理解を深め、子供たちから疑問や質問が出なくなったら授業は終わりになる。グループチャットでは先生がカメラを使ってライブ配信の形で解説することができ、子供たちもチャットだけでなく、マイクを使って発言できる仕組みになっている。
オンライン授業の期間中も宿題は毎日あったが、通常と比べて 7 割ぐらいの量しかなく、夕飯までに終わらせることができたので、お子さん自身は喜んでいたという。
宿題は「暁黒板」のグループチャットにアップロードされるので、まずは家で宿題を印刷しなければならない。宿題のプリントに答えを書き込んだら、写真を撮って各教科の担当の先生にアプリを通じて提出する。先生は丸付けをしたらアプリを通じて返却してくれるのだが、全問正解になるまでこれを繰り返すのだという。いつもと変わらない徹底ぶりだったそうだが、わからないことがあれば音声チャットで説明してくれたこともあったそうだ。宿題のためにプリンターが必要になるため、オンライン授業が始まった頃はパソコンやタブレットと合わせて、プリンターがとても売れているというニュースが印象的だったことを覚えている。プリンターが無ければ子供が勉強できないため、プリンターが故障して親子でパニックになったとも言っていた。
またお子さんは日頃どんな方法で学習をしているか伺ったところ、まず毎日学校の宿題があり、週末やテスト前は宿題の量も増えるため、休みの日も毎日平均 2〜3 時間は学習に充てているとのことだ。日本とは違い小学校でも中間テストや期末テスト、区や市の統一試験があり、小さなテストは毎週ある。宿題やテストのために、小学 3 年生から平日は宿題塾に通わせてきたという。
お子さんは下校後、直接学校近くの宿題塾に向かう。夕飯は塾で出されるので、宿題が終わり次第、親が迎えに行くのだそうだ。夕食はデリバリーを頼む塾もあるが、お子さんが通っていた塾はマンションの一室で調理したご飯を出してくれていたそうで、お子さんに好評だったという。宿題塾は親の代わりに宿題を見てくれるというだけでなく、効率的な勉強のやり方や問題の解き方を教えてくれるため、日本の個別指導塾のようなイメージできちんと学力が付き、成績が伸びる子も多い。
しかし予備班に進級すると、中学校に属する扱いのため宿題塾が無い。そのため今はやむなく自宅で宿題をしているが、平日は毎日大体 20 時半頃までかかるそうだ。さらに週末に 2 時間ほどオンラインの家庭教師を頼んでおり、学校で学んだことの不明点解説をしてもらっているとのことだ。
このほか、お子さんは具体的にどんなアプリを使っているか伺ったところ、小学 5 年生までは中国全土の全学年分の教科書の内容が入っているアプリ「納米盒(namibox)」を使って教科書の予習をしたり、英語の宿題では学習アプリの「専課専練」を使って、英語の音読の課題を提出したりしていたという。
コロナ禍でのオンライン授業では既に紹介した「暁黒板」や一部では「zoom」も使っていたとのこと。現在の予備班に進級してからは、普段から学校との連絡に「DingDing」を使用して、テストのスケジュール、テスト範囲、定期テストの結果などの連絡を受けているそうだ。今後また感染者が増えて自宅でのオンライン授業になることがあれば、「DingDing」でオンライン授業をするのだという。
家庭教師はオンライン家庭教師サービスの「易教網」で探し、宿題を見てあげる時には「作業幇」を使用しているとのことだ。これらのアプリはどれも全て無料で使っており、学校から指定されたアプリ以外は、保護者同士の口コミで情報を得て、利用するかどうかは親が決めているという。
コロナ前とコロナ後でお子さんの学習環境は変わったかについては、コロナ後はデジタルデバイスの利用が急増し、クラスメイトや友人とのコミュニケーションでもスマートフォン、タブレット、パソコンを多用するようになった結果、宿題をやる時にも“ながら学習”が目立つようになってしまったとのことだ。インターネットで安易に解答を検索するようになってしまったのが頭の痛いところだとも話していた。さらには学校の基準以下にまで子供の視力が低下してしまい、便利になっている半面、やはり親としては心配な問題もたくさん出ているとのことだった。
上海ではしばらく感染が落ち着いていたが、2021 年に入り新たな感染者が見つかっている。宿題塾のような多くの人が集まって長い時間滞在するような環境を懸念する親は多く、実際に感染者が増えている中国の北方地域では、多くの都市で感染予防のため子供が塾に通うことを禁止する通知も出されている。一方で視力低下を心配して、オンライン学習よりはオフラインの宿題塾に通わせたいという声も聞かれる状況となっている。