日本酒の中国向け輸出の概況
財務省貿易統計によれば、2022年の日本酒の輸出総額は474.92億円に達し、13年連続で前年を上回った。さらに数量でも過去最高となる35,895キロリットルを記録した。
このうち中国向けの輸出金額は、前年比37.8%増の 141.6億円 で輸出先国別で1位、輸出数量は同1.7%増の7,388キロリットルで2位だった。
なお香港向けの輸出は、輸出金額が71.15億円で3位、数量では2,717キロリットルで5位、台湾は輸出金額が22.22億円で6位、数量は3,076キロリットルで4位となっている。中国・香港・台湾の中華圏への輸出の割合は、金額では全体の約50%、数量では同約37%と大きなボリュームを占めている。
また2022年の中国向けの平均輸出価格は1リットルあたり1,917円だった。前年の同1,414円から35.6%も上昇しており、上昇率は過去10年で最も大きかった。これについて中国の酒類市場メディア「烈酒商業観察」は、輸入業者の見方として、日本各地の様々な銘柄が輸入されるようになってきたことや越境ECによる日本酒の販売が増えていることに加え、為替レートの円安傾向が続いていることも平均輸出価格の上昇につながっていると伝えている。2022年の世界平均の輸出価格は1リットルあたり1,323円、上昇率は5.6%だった。
中国で日本酒と言えば?
中国では以前から日本料理店などで日本酒が出されていたが、2010年代中ごろからの日本旅行ブームをきっかけに日本酒のおいしさを知り、機会があれば日本酒を飲むようになったという人が増えた。また健康志向による日本食人気によって各地に日本料理店が増加し、日本酒が以前よりも身近になったことも中国向け輸出量の増加の要因の一つと考えられる。
白鶴や大関、月桂冠といった大手酒造メーカーのメジャーな銘柄は、日本料理店での取り扱いも多いことから中国での知名度は高い。中国のブランド調査ランキングサイトの「Maigoo」が独自の指数を元に評価した日本酒銘柄のランキングは次のようになっている(2023年5月17日時点)。
8位の「朝香」は、奈良県の中谷酒造が天津市で現地生産する日本酒で、河北省産の米を使って仕込んでいるという。
また、6位にランクインした旭酒造の「獺祭(だっさい)」は、中国でもコロナ前の数年間で人気に火が付き、当時は日本へ旅行した際の爆買いアイテムでもあった。獺祭が中国の人々に受け入れられブームとなったのは、純米大吟醸という最高ランクの日本酒であること、日本でも一時は手に入りにくいほどの人気となった酒であること、手間と時間をかけて作られるというストーリー性、そしてそれまで中国に出回っていた日本酒とは全く違うおいしさであるというわかりやすさが揃っていたからだろう。
中国の消費者は、好奇心旺盛で新しもの好きだと言われ、友人が持っているから自分も欲しい、友人が経験したのなら自分も経験したい、流行には乗り遅れたくない、という気持ちが強い傾向があるため、獺祭ブームは加速度的に広がったと想像される。
現地の販売価格はまちまち
日本では日本酒の銘柄ごとに価格はある程度決まっており、店によって多少の違いはあれど、価格が倍も違うということはまず無い。しかし中国では販売チャネルによって大きな価格差があるのが現状だ。
日本からの輸入品である日本酒は、実店舗であれば空港免税店や輸入酒販売店、スーパー、デパート、日本料理店(頼めば1瓶買って持ち帰りできる店も多い)、オンライン販売であればECサイト、越境EC専門サイト、個人が運営するネットショップ、代理購入サービス等で購入することができる。
獺祭を例にとると、中国のEC大手「天猫(Tmall)」では、複数の店舗が販売しているが、その価格は様々だ。日本での販売価格を確認してみると、「獺祭 純米大吟醸 磨き三割九分」720mlは、紙箱なしが2,640円、紙箱入りが2,970円となっている。
ところが実際にネットショップの価格を確認すると、店舗によって大きく差があることがわかる。
<紙箱なし>
- Tmallの直営越境ECショップ「全球探物」(日本からの直送):439元(約8,600円)
- Tmallの直営越境ECショップ「探物日本」(日本からの直送):439元(約8,600円)
- 小売店「恩慈国際酒類海外専営店」(中国国内からの発送):関税込み397元(約7,800円)、クーポン適用後258元(約5,000円)
- 小売店「医食同源海外専営店」(中国国内からの発送):225元(約4,400円)、クーポン適用後160元~(約3,100円~)
<紙箱入り>
- Tmallの直営越境ECショップ「天猫国際自営全球超級店」(中国国内からの発送):関税込み398元(約7,800円)、クーポン適用後298元(約5,800円)
- 小売店「医食同源海外専営店」(中国国内からの発送):260元(約5,000円)、クーポン適用後188元~(約3,700円~)
ちなみに獺祭の公式海外旗艦店は、中国国内の保税倉庫からの発送で600元(約12,000円)となっていた。
関税込みと明確に表示されていない商品に別途関税が上乗せされる可能性を考えても、中国での販売価格は店によって2倍ほどの開きがある。中国には他にも数多くのECプラットフォームがあり、個人が運営するネットショップや個人による転売、代理購入サービスも広く利用されているため、価格のばらつきはさらに大きいと推測される。
※画像はいずれも点猫国際(TmallGlobal)から引用、いずれも2023年5月17日時点の価格
地方の酒造メーカーだからこそのチャンスも
先ほど提示したのはMaigooによるランキングだったが、全日本コメ・コメ関連食品種輸出促進協議会等が主催する中国最大規模の日本酒コンテスト「SAKE-China日本清酒品評会」では、大手酒造メーカーだけでなく日本各地の蔵元の酒も数多く受賞している。
このSAKE-Chinaは、日本酒の専門家やバイヤーではなく、中国の一般消費者およそ1,400人が試飲して好みの日本酒を選ぶコンテストとなっているため、実際の中国人の好みにより近い結果になっていると思われる。もちろん銘柄の知名度や評判が影響しないよう、審査の際は銘柄が伏せられており、審査員は小さなコップに注がれた酒を飲んで5段階で評価する。
コロナ禍で直近の数年は開催が見送られているようだが、2020年10月に上海で開かれた2020年度のコンテストには17府県の29の蔵元から80本が出品されている。
受賞銘柄の多くは地方の蔵元によるものだが、お酒好きな方ならばこの受賞銘柄の一覧から中国人の好みが読み取れるだろうか。日本に何度も旅行しているような富裕層の中には、いわゆる“ツウ”な趣味として、まだ中国では知られていないような地方の蔵元の日本酒を仲間と楽しんでいる人もいると聞く。また北京や上海といった大都市では、大手酒造メーカーの日本酒だけでなく、日本全国の様々な銘柄を取り揃えている日本料理店が増えており、珍しい銘柄が飲めることを売りにするお店もでてきている。
コロナ禍もいったん落ち着き、海外からの訪日客が戻りつつある今、中国からの旅行客が本格的に回復すれば、中国での日本酒ブームはさらに盛り上がることが期待される。どのような業種でも「地方の企業だから」、「少量しか作れないから」という理由で海外進出をあきらめてしまうケースは多いが、こと日本酒に限っては「地方の蔵元であること」、「少量しか作れないこと」が逆に中国市場では大きな強みとなるだろう。
蔵元が自ら輸出免許を取って越境ECに挑戦したり、現地の卸売業者を探して直接契約を結んだりすることは文化やビジネス習慣の違い、さらにコストの面からハードルが高くなりやすい。一方で、日本国内の輸出商社や中国向け輸出を手掛けるディストリビューターを通じた輸出ならば、中間マージンが生じる場合もあるが、現地での販路も確保されており、蔵元側での業務負担も大きくはない。初めての海外輸出にあたっては、日本国内の輸出業者を通じた間接貿易も有効な選択肢になるはずだ。
クララでは、中国大陸、香港、台湾向けの輸出支援・輸出事業を行っています。弊社が国内取引にて商品を買い取り、中国の飲食店やECに販路を持つ現地代理店に販売する一般輸出では、貿易書類の手配から輸出通関アレンジまですべて弊社で対応いたします。
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保有資格等:酒類卸売業免許(輸出)