中国で拡大するオンライン英語学習市場

目次

1. 英語ができれば人生が変わる中国

中国の英語学習熱が一層の高まりをみせている。2014 年時点の中国の英語学習者は4 億人を超えており、総人口の 3 分の 1 にあたる(北京晩報調べ)。現在は都市部で小学1 年生から、地方ではおおむね小学 3 年生から英語の授業が始まるが、これを全国的に幼稚園からに早めようという動きもあり、中国国内で英語学習に投じられる金額は年間300 億元(約 6000 億円)と言われるほどだ。

中国で英語学習が重視されるのは、より良い人生を手に入れるための手っ取り早い手段の一つだからだ。難関大学に入学するためなのはもちろん、給料の良い外資系企業で働きたい、欧米で仕事をしたい、ひいては移民したい、という明確な目標が彼らの英語学習のモチベーションになっている。大学のキャンパスに行けば、池のほとりやベンチなどで早朝から英語の教科書を繰り返し大声で読んでいる姿を見ることができるだろう。

授業中に暗唱させられることもしばしば(新華網)

一方、非英語圏の 63 カ国を対象とした「EF 英語能力指標 2014」によると、中国の英語習熟度は 37 位にとどまる(アジアトップは韓国で 24 位、日本 26 位、台湾 30 位、香港 31 位)。一部の高学歴層の英語力は押し並べて高いが、広い国土ゆえの経済格差と教育格差により、全体的な英語力はまだ低いのが現状だ。都市部の若者だけでなく、地方で困難な状況にある人々にとっても、英語をマスターすることは人生の成功をかけた大いなるチャレンジの最初の一歩なのだ。

一世を風靡した李陽主催の Crazy English(新華網)

2. オンライン英語学習がブームの兆し

中国でも日本と同じように様々な学習教材や英会話スクールがあるが、インターネットが普及するにつれてオンラインでの学習方法が注目を集めている。無料の動画教材はもちろん、単語を暗記するためのスマートフォンアプリやゲーム、リスニングに特化した学習サイトなど、毎年 1000 近いサービスが登場しているという(IT 桔子)

● 可可英語 (http://www.kekenet.com/)

2005 年にスタートした中国最大規模の無料英語学習情報サイト。運営は北京可可網絡科技有限公司。英語の 4 技能「聞く、読む、話す、書く」に加えて「通訳・翻訳」を身につけることを目的に、VOA・BBC・CNN などを使った動画教材、音声教材、レベル別のテキスト、資格試験の模擬テスト、映画や音楽、電子書籍などが提供されている。毎日新しい教材が大量に更新されており、サイト内掲示板での学習者同士の交流も盛んだ。

モバイルアプリ版にはWi-Fiでダウンロードして利用する教材が揃っており、学習時間の記録やオリジナルの単語ノートなどを保管することもできる。

● 小 E 英語 (http://www.en8848.com.cn/)

2003 年 10 月に英語の原書を紹介するサイトとしてスタートした総合英語学習情報サイト。運営は北京嘉時徳通網絡科技有限公司。一般的な動画教材やテキスト類を無料で利用できるのはもちろん、児童書から世界のベストセラーまで様々な原書を読むことができる。原書はオンラインで読むものと PDF 形式でダウンロードできるものとがあり、オンラインでは朗読音声も提供されている。また公式微信(WeChat)では毎日新しいコンテンツが提供されており、通勤通学中でもスマートフォンで勉強できるよう工夫されている。

● 在線英語聴力室 (http://www.tingroom.com/)

教科書の音声教材を中心に、リスニング用のコンテンツが大量に揃っている。ただしサイト下部に一部のコンテンツはインターネットから収集したものである旨が記されている。ICP登録情報などを確認したところ、2011 年に山東省に住む個人が開設したサイトのようだ。

● 百度伝課 (http://www.chuanke.com/)

検索大手の百度(Baidu)が運営するオンライン教育プラットフォームで、英語以外にも経理や法律など様々なジャンルの教材が揃っている。英語教材の多くは動画で、一部有料のものもある。これまでに利用した人数や評価だけでなく、教材発行元の信用情報も公開されている。

● 朗易思聴 (http://langeasy.com.cn/)

北京艾斯酷科技有限公司が運営する iPhone用の英語学習アプリで、ダウンロード数は明らかでないものの公式微博(Weibo)のファン数は2万を超えている。

間違えたところを記録して繰り返し練習できる機能や学習記録を管理できるのはアプリならでは。毎日更新される VOA のショートリスニングチャレンジや週替わりで配信される歌詞字幕付きの洋楽ビデオなど、様々なコンテンツが楽しめる。

3. オンライン英会話レッスンは利用者が急増中

日本でも人気のオンライン英会話レッスンは、中国語で「在線外教(在線はオンライン、外教は外国人教師の意味)」などと呼ばれ、ネイティブ講師を売りにした大手サービスから、値段の安さをアピールするもの、中国語も OK なネイティブ講師が選べるものまで様々ある。一部のサービスは海外の大手 VC から巨額の投資を受けており、市場は引き続き拡大する見通しだ。

● 51Talk (http://www.51talk.com/)

北京大生知行科技有限公司が運営する中国最大手のオンライン英会話レッスンサービス。設立は 2011 年で、最近では小米科技の雷軍 CEO が立ち上げた VC、順為基金から 2013 年末に 1200 万ドルの投資を受けた後、2014 年には C ラウンドで米セコイアキャピタルから 5500 万ドルを調達している。

レッスンは 1 回 25 分で、料金は 15 元。Skype または QQ のビデオ通話で行う。朝 6時から深夜 0 時の間で希望する時間の 30 分前までにアプリやサイトから予約すればよい。先にレッスンチケットを購入するスタイルで、支払いはクレジットカード、ネットバンキング、銀行振込、支付宝などの第三者決済サービスに対応している。

レッスン内容は日常会話、総合英語、文化、時事ニュース、フリートーク、旅行英会話、TOEFL 対策など 10 種類以上が用意されている。公式サイトによると講師の大半は一流大学卒のフィリピン人で、2 週間に 1 回の講習と定期評価制度で講師の質を保っているという。利用者は 4 歳から 50 歳代までと幅広く、2014 年からは実際にレッスンを体験できる実店舗を北京や上海に開設している。

無料コンテンツや会員同士の交流の場もある

● 咖啡英語 (http://www.caffeenglish.com/)

海外留学経験のある 2 人の女性が 2013年に創業。欧米人講師によるオンラインレッスンは料金が高く、時差が原因で継続しにくいことに目をつけ、韓国でブームとなっていたフィリピン人講師によるレッスンを中国人向けにビジネス化した。

講師のほとんどはフィリピン人で、英語教師として 3 年以上の経験を持つ人材のみを採用している。現在登録中の講師の 80%が英語あるいは教育学の学位を持ち、60%がオンライン英語学習の専門トレーニングを受けている。また講師全員が中国文化に関する同社独自のトレーニングを受けている。

レッスンは 1 回 25 分で、料金はチケット制の場合 1 回 11 元~30 元、月額制の場合は 12 元~28 元となっている。こちらも Skype または QQ のビデオ通話に対応しており、午前 10 時から深夜 0 時の間で希望する時間の 1 時間前までにサイトから予約する。支払いはネットバンキング、銀行振込、支付宝に対応。レッスン内容は日常会話、ビジネス英会話、面接対策、フリートーク、旅行英会話など 14 種類で、市販のテキストの電子版を用いる。

講師ごとの予約可能時間がわかる予約ページ

咖啡英語では、特に 4-6 歳の子供向けレッスンに力を入れており、幼児教育の経験がある講師が、米国の子供用テキストを使ってレッスンを行っている。また小学生や中学生を対象に、学校の授業範囲を超えたレッスンにも対応しているが、1 回あたりの時間や料金は変わらない。またオフラインイベントも盛んで、季節ごとに各地で外国人ゲストを交えたパーティやイングリッシュサロンが開かれている。

● 恩京英語 (http://www.enging.com.cn/)

韓国 TK101 Global Education Group の北京脱口壱零壱国際教育科技有限公司が2008 年からサービスを開始。フィリピンと北米に自社コールセンターがあり、そこで会員へのレッスンと講師のトレーニングを行っている。

講師はフィリピンおよびカナダ、アメリカ、イギリスなどの大学を卒業しており、特にフィリピンでは一流大学の英語教育系の卒業者のみを採用している。レッスンは 1 回20 分(発音トレーニングのみ 10 分)で、料金は週 2 回の場合1 カ月 700 元~。携帯電話または Skype を使い、講師を指名することはできない。レッスンは平日の朝 5 時から夜 22時 50 分までで、オリジナルのテキストを使って行う。支払いはクレジットカード、ネットバンキング、銀行振込、支付宝に対応している。会員数は中国国内で 2000 人以上。

講師はセンターからレッスンを行う

● 噠噠少児在線英語 (http://www.dadaabc.com/)

中国初の 5 歳から 16 歳までの子供を専門にしたオンライン英語レッスンで、上海卓賛信息科技有限公司が 2013 年 9 月にサービスを開始した。

レッスンは週に 1-2 回、毎回 30 分。半年と 1年コースの 2 種類で、費用は半年の場合 6000 元~。中国語ができる外国人講師と中国人講師が200 人ほど登録しており、いずれも中国で子供への英語教育経験があり、かつ時差のない北京、上海、香港に居住している。レベル別に 22 段階の教材があり、両親は別のパソコンからレッスンの様子を見ることができる。国内に1000人以上の会員がおり、2014年 9 月には青松基金から 1000 万元の投資を受けている。

4. 市場はこれからさらに拡大か

中国の IT 調査機関、艾媒咨詢(iiMedia Research)が発行した「2015 年中国オンライン言語教育業界研究報告」によれば、言語学習アプリや翻訳サイトなども含むオンライン言語教育市場規模は 2014 年時点で 193.8 億元、利用者は 1477.6 万人に上る。引き続き毎年 20%を超える勢いで成長し、2015 年には 200 億元を突破、2017 年には 354.6億元に達し、利用者も 2584.2 万人になると予測する。学習言語は全体の 44.7%を英語が占め、日本語、韓国語、フランス語と続く。

なかでもオンライン英語レッスンは、利用者の 91.3%が効果があったと回答しており、自由にレッスンの時間を決めることができたり、自分のレベルにあった学習内容に調整できる点が評価されている。対面での英会話学校に比べかかる費用が 10 分の 1 程度で済むことから、今後はインターネット回線やスマートフォンの普及が進む内陸の地方都市や農村部での利用者拡大が見込めそうだ。またパソコンでの 1 対 1 レッスンを中心に、スマートフォンやタブレットを使った予習復習や単語学習、テスト、さらにはオフラインでのイベントなどの周辺領域が充実しつつあり、オンライン英語学習の“生態系”は引き続き拡大することが期待される。

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この記事を書いた人

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