韓国のオンライン決済市場

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韓国のオンライン決済サービス概要

韓国はクレジットカードの所有率が非常に高いことから、インターネット上の決済手段としても大変よく用いられている。2011年の韓国の電子商取引(B2B、B2G、B2C、C2Cを含む)総額は約999兆ウォン(約91兆円)で、このうちインターネットショッピングの市場規模は29.1兆ウォン(約2.7兆円)だった。クレジットカードによる支払いは、この約8割にあたる21兆ウォン(約1.9兆円)で、比率は年々上昇している。

インターネットショッピング市場は、2010年に百貨店とスーパーマーケットの売上規模を追い抜き、現在も引き続き成長を続けている。特に近年はスマートフォンと4G通信サービスが普及したことから、モバイル端末を利用したモバイルショッピング市場が急拡大しており、2013年末には市場規模が1.5兆ウォン(約1380億円)を超えると見込まれている。


なお2011年時点の韓国のインターネットユーザー数は約3718万人、インターネット普及率は10代から30代の世代において99%を超えている。

利用が増える現金以外の決済手段

  • クレジットカード

前項でも触れたように、韓国は世界トップクラスのクレジットカード普及率を誇る。これは1997年のアジア通貨危機をきっかけに、韓国政府が個人消費の拡大と小売店の脱税防止対策を目的としてクレジットカードの利用促進政策を展開したためで、年間の利用額に応じて税金が控除されることから、インターネットショッピングの決済はもちろん、コンビニで数百円の買い物をする場合にも気軽に利用されている。

2012年のクレジットカードの利用総額は436兆5000億ウォン(約40兆円)に達し、民間総消費支出の約60%を占めた(韓国与信金融協会調べ)。なおインターネットショッピングの決済に限ればクレジットカードの利用は80%に迫る勢いで、2013年は26兆ウォン(約2.4兆円)になると見込まれている。なお韓国では、海外では利用できない国内専用カードも多く発行されている。

  • デビットカード

銀行の口座残高内で決済する「デビットカード」は、クレジットカードを持てない未成年者や高齢者を中心に使われている。日本ではデビットカードの決済時に暗証番号を入力するのが一般的だが、韓国では一部のIC付カードを除いてクレジットカードと同様にサインをするという特徴がある。

2012年の新規発行枚数は1050万枚以上で、利用総額は82兆2000億ウォン(約7.5兆円)に上るが、2012年末に朴槿恵(パク・クネ)新政権が、個人負債対策の強化の一環としてデビットカードの利用を促進する方針を発表しており、今後さらに利用者が増えるものと思われる。

  • 電子マネー

Suicaのようなプリペイドタイプの電子マネーとして「T-money」が普及している。これはソウル市が出資するスマートカード社が発行・管理する交通機関用電子マネーで、地下鉄・路線バス・タクシーのほか、主要観光施設やコンビニ、自動販売機などで利用できる。プラスチックのカード型のほか、携帯電話などに取り付けられるストラップ型など様々なデザインのものがあり、駅券売機やコンビニで購入・チャージできる(上限50万ウォン)。2004年のサービス開始以来、発行枚数は8000万枚以上。

  • モバイル決済

スマートフォンなどのモバイル端末を使った決済は、携帯電話の通話料金と合算して請求されるタイプ、クレジットカードで請求されるタイプ、銀行口座から即時引き落とされるタイプに分けられる。
 


(1) 携帯電話少額決済 (Phone bill)
最もよく利用されているのは、通話料金と合算して請求される「携帯電話少額決済」で、主に有料のデジタルコンテンツやインターネットショッピングの決済に利用されている。使い方は全てのWebサイト・通信キャリア共通で、事前の利用登録も不要だ。

具体的な利用手順は、サイト上の決済画面で少額決済を選択し、携帯電話番号と住民登録番号を入力する。すると携帯電話にSMS(ショートメッセージ)で使い捨ての暗証番号が送られてくるので、この番号を有効期限内(発行から1~3分以内)に画面に入力すれば決済が完了する。購入代金は通話料金と合算して後日請求される。

(2) モバイルT-money

交通カード「T-money」のモバイル版で、専用アプリをダウンロードした後、カードタイプと同じように専用読み取り機にタッチして決済する。商品の決済代金が通信料金と合算して請求される点も同様。ただし利用するには、通信キャリアからT-money機能のついた専用SIMを入手する必要がある。

(3) モバイルクレジット

日本でNTTドコモが展開するクレジットによるポストペイ型電子マネー「iD」に似たシステムで、クレジットカード会社が発行する専用SIMを入れた携帯電話を店頭の読み取り機にタッチして決済する。決済代金はクレジットカードで請求され、毎月の決済額によって携帯電話料金が割引されるサービスもある。現在販売されている携帯端末はほぼすべてNFC(近距離通信技術)を搭載している。

(4) バーコード・QRコード

携帯電話で専用アプリをダウンロードした後、本人認証と暗証番号を設定する。使い捨ての決済用バーコードが表示されるので、有効期限内(5分程度)にレジでバーコードを読み取れば決済が完了する。決済代金は携帯電話の通話料と合算して請求される場合と、登録した銀行口座から即時引き落とす場合とがある。バーコードリーダーがあれば、自宅でインターネットショッピングの決済に利用できる。

韓国の大手決済会社Danalのバーコード決済システム「Bar Tong」は、コンビニやファストフード店を中心に全国1万3000カ所以上で利用できる。

(5) 電話決済(ARS方式)

ARS決済のWebサイトで事前に銀行口座の情報を登録し、公的証明書による本人確認を行う必要がある。買い物の際には、レジの専用端末に自分の携帯電話番号を入力すると、すぐに携帯電話に電話がかかってくるので、音声案内に従って携帯電話に暗証番号を入力すれば、登録した口座から代金が即時引き落としされる。

韓国の決済市場を支えるPGとVAN

韓国の決済代行(PG、ペイメントゲートウェイ)市場は、クレジットカードにおいてはイニシス、LG UPlus、韓国サイバー決済の3社が約70%を、モバイル決済においてはKGモビリアンス、ダナル、インフォハブの3社がほぼ100%のシェアを持つ。

特にインターネット上でのオンライン決済は、ショッピングやゲームなどの市場が広がり通信セキュリティも向上していることから、今後ますます利用が増えると期待される。一方で、PG事業は特許や加盟店確保に必要な営業ネットワークに加え、月間2000億ウォン以上の取引がなければ利益が生まれないといった構造上の理由から、その参入障壁は高い。通信キャリア側も安定したサービス提供を理由にPG業者の過当競争を望んでおらず、近い将来も市場の様相が大きく変化することはなさそうだ。

また韓国ではVAN(Value Added Network、付加価値通信網)事業者が独自の専用セキュリティ網を用いて、オンラインやオフラインの加盟店(あるいはPG業者)とクレジットカード会社の決済データ情報を中継するサービスを提供している。

今後の見通し

韓国では近年、大手百貨店やスーパーマーケットが続々とオンライン販売事業に乗り出し、新たな顧客層を獲得している。さらにグル―ポンやチケットモンスターといったソーシャルコマースが一気に花開き、売上は2010年の500億ウォンから2012年は2兆ウォンに成長。市場売上の90%を占める大手4サイト(グル―ポン、チケットモンスター、クパン、We Make Price)を中心に更なる市場拡大が見込まれており、モバイル分野では、スマートフォンを使ったソーシャルゲームが急成長を始めたばかりだ。

オンライン決済を利用する場面は今後も増えることが確実で、特に決済はオンライン、サービスはオフラインで利用する機会が増えそうだ。新政権は、デビットカードについてクレジットカードよりも高い税金控除率を設定して普及を後押ししていることから、デビットカードにまつわる新たなサービスの登場も期待される。またモバイルクレジットなどNFCを利用した決済は、1つのSIMにつき決められた1銀行1口座1クレジットカードしか登録できないといった制限があるが、今後さらに消費者の利便性を高めれば早いペースで普及が進むだろう。

未成年の高額課金や偽造クレジットカードといった問題は存在するが、各PGは詐欺やウィルスなどのサイバー攻撃に対しても十分な対策を行っており、2013年以降もECおよびモバイルゲーム市場の拡大に伴い、オンライン決済市場は順調な成長を続け、新たな決済手段が登場すると期待される。

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この記事を書いた人

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