中華丼がない中国の丼物・カレー事情

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1. 中国の丼物はどんぶりじゃない?

安くておいしい“丼物”。「うまい、はやい、やすい」がキャッチコピーのあの牛丼を筆頭に、天丼、親子丼、海鮮丼……と、ほかほかご飯にのっけるおかずは無限大。並んでも食べたい老舗の味から地方の B 級グルメまで、ガッツリ系もあれば女子を狙ったオシャレなものもあり、日本では実にいろいろな丼物が食べられている。

ところ変わって中国、世界三大料理の一つにも挙げられる中華料理だが、日本人がイメージするような“丼物”をローカルの人々は食べていない。だって丼鉢がないから……。中国で食べられているそれは、平皿にご飯とおかずが一緒に盛られている“ぶっかけめし”だ。つまり“ワンプレートディッシュ”なのである。中国語では「盖浇饭(蓋澆飯、ガイジャオファン)」「盖饭(蓋飯)」と呼び、蓋=ふたをする様に、澆=かける、飯=ごはん、でまさに“ぶっかけめし”を意味する。

ちょうどいいサイズの丼鉢がないからと言い切るのは乱暴だが(飯茶碗や麺用の大きな碗はある)、メニューが麺だけ、餃子だけといった小さな店も多いことから、最初に「おかずをぶっかけて」と頼まれたご飯とおかずの店には平皿しかなかったのかもしれない。あるいは店側にも、ご飯の量がこれだけあると見せたいという思惑があったのかもしれない。確かに中国で下のご飯が見えないのはよろしくない。日本では「ご飯が見えないほどの XXX」はプラス評価だが、中国では儒教の教えなのか、はたまた生き抜く知恵なのか、目に見えないものは信用しないのがルール。さては見えない残留農薬を恐れるのもそのためか。食事にまでその考えが浸透しているとは……。そんな妄想はともかくとして、中国の丼物は基本的にワンプレートディッシュである。上にかかっているものは、チンジャオロースだとか、トマトたまご炒めだとか、よくある一般的なおかずで、それをご飯にかければすなわち蓋澆飯である。ちなみに麺の上にかけてある「蓋澆麺」もある。

2. 外食文化な中国の丼物・カレー事情

日本の丼物は「日式蓋飯」として中国でも親しまれている。現地の日本料理店はもちろん、大きめのレストランや食堂、あるいは日式(日本風)を謳うファーストフード店でも食べることができる。日式というだけあって、たいていの店ではおかずがご飯の上に乗っている(置いてある?)し、それなりの日本料理店なら丼で出てくる。

メニューのラインナップとしては、親子丼、牛丼、海鮮丼、天丼、うな丼、他人丼(豚肉)、かつ丼あたりが多いだろうか。中国版ぐるなびとして有名なグルメ情報サイト「大衆点評」を見ると、日本人でも満足できそうな丼物もあれば、我々の予想を果てしなく上回るとりあえず食べられそうな何かまで様々だ。値段は 15 元前後(約250 円)から、きちんとした日本料理店ならば 100 元(約 1,600 円)を超える。なお中国にある日本食レストランに関する統計はないようだが、「大衆点評」に掲載されている日本料理店は、上海で約 3,500 店、北京で約 1,700 店、成都で約 1,200 店、広州で約 2,100 店となっている(2016 年 11 月 18 日時点)。

また日系チェーン店では、牛丼の吉野家、すき家、カレーの CoCo 壱番屋が健闘している。吉野家は 1992 年に北京に 1 号店をオープンし、2016 年 10 月時点で北京を中心に中国全土に 374 店舗、台湾に 58 店舗、香港に 58 店舗を展開する。中国では吉野家(中国)投資有限公司がフランチャイズ統括を担い、現地化を進めている。メニューも中国向けにアレンジされており、丼物では牛丼、照り焼きチキン丼、豚角煮丼などに加え、ラーメン、カレー、ビビンパ、朝食時間にはチーズサンドやビーフンもある。丼物の値段は単品で 15 元から 30 元で、牛丼(大)は 26 元ほどだ。

他方、すき家は中国で「食其家(シーチージャー)」として 2005 年 1 月に中国に進出。子会社の泉盛餐飲(上海)有限公司が上海を中心に 130 店の直営店を展開している。吉野家と同様に牛丼のほか、豚角煮丼、高菜丼、キムチたけのこ丼にラーメンやカレーもある。牛丼(大)は 17 元と吉野家より 9 元も安く、ローカルの中華ファーストフードチェーンで丼物を提供する「真項夫」や「永和大王」と比べても安い価格設定だ。郊外のショッピングモールやビルの地下といった目立たない立地ゆえか、いつ行ってもあまり人がいない印象がある。

日本人の感覚ではカレーは丼物ではないが、ルウがご飯にかかっているので中国では「日式蓋飯」の一つだ。日本料理店や吉野家・すき家でも食べられるが、北京や上海のような大都市ならば数は少ないがカレー店がある。CoCo 壱番屋は 2016 年 11 月時点で、上海を中心に中国に 49 店舗、香港に 8 店舗、台湾に 27 店舗を展開している。2004 年の進出以来、カレーの味を一定に保つためカレールウとコメは日本から持ち込んでいるという(生野菜の中国への輸入が難しいという理由もあるだろう)。

中国の店舗はすべて直営店で、味とサービスの質を維持するためフランチャイズ展開はしていない。日本ではファーストフード寄りのイメージだが、中国では気軽に行けるちょっと良いレストランという位置づけだ。メニューは日本と同じくカレーに特化しており、トッピングやご飯の量、辛さを選ぶことができる。ラインナップは日本とあまり変わらないが、最初からトッピングありの写真を使う点は、ややこしい注文を嫌い、見た目の豪華さを好む中国人向けの工夫だろうか。確かに SNS 映えもするだろうし客単価も上がる。

3. 家でもカレーを!バーモントカレーの苦節十年

CoCo 壱番屋をグループに持つハウス食品は、次は家庭でカレーを作ってもらおうとカレールウの製造販売に力を入れている。現在は上海工場と大連工場の 2 カ所でルウを製造しており、2018 年秋に浙江省平湖の新工場が稼働すれば生産能力は今の 2 倍になる見通しだ。

同社が全国各地のスーパーで行うカレーの試食イベントは年間のべ 3 万回、最初に中国でルウを発売した 2005 年 4 月からの 11 年間では 20 万回を超える。中国版はルウの色をより黄色にし、中国では身近なスパイスの八角の風味を足している。中国の家族構成に合わせて 1 箱は 3 皿分だ。売れ行きは年々伸びており、辛い料理で有名な四川省ではやはり辛口が、そのほかでは甘口(原味)が最も売れているという。

ネット EC 大手の天猫(Tmall)が運営する直営ショップ「天猫超市」では、ハウス食品のカレールウのほか、現地の食品メーカーのルウも売られている。台湾からの輸入品が比較的売れているようだが、ハウス食品の「バーモントカレー甘口(好侍百梦多咖喱 原味)」は 1 個 8.8 元で月間注文数 1.8 万件、販売数約 3 万個と圧倒的な販売量だ。

現地メーカーのルウのほとんどに「日式」の文字があるあたりは、ハウス食品が 10年以上かけて地道に PR を続けてきた成果だろうか。レトルトカレーに至っては 2-3種類しかなく、こちらもハウス食品のレトルトカレーの方が売れていた。

ハウス食品を含む日本のカレー製造大手 3 社では、エスビー食品も 2006 年から大連を拠点にルウを製造していた。しかし、東日本大震災の影響で日本から原料のカレー粉を輸出できなくなったことをきっかけに、2015 年に中国から撤退している。また日本で「熟カレー」などを販売する江崎グリコは、中国ではお菓子事業に専念しており、カレー類の製造販売には着手していない。

このような中でハウス食品は、ターゲットとする中間所得層が 2020 年には現在のおよそ 5 倍近い 1 億 8000 万世帯に増えることから、2030 年の中国事業全体の売上目標を 1,300 億円とし、うちカレー製品の販売目標を 2015 年実績の 17 倍近い 600 億円とする方針を明らかにしている。ここ 2-3年の間に、内陸の地方都市のスーパーにもハウス食品のカレールウが並ぶようになった。「カレーライスを人民食に」という同社の目標は徐々に、しかし着実に前進しているようだ。

それはそうと、東京にはあちこちにインド人のインドカレー屋があるが、中国では一度も見かけたことはない。「大衆点評」を見ると北京には 50 店ほどが登録されているが、どれもオシャレな内装の立派なレストランで、東京によくある壁一面にインドの神様のポスターが貼ってあるようなアットホーム?なお店は一つもない。中国の友人にリサーチしたところ、インドカレー屋が中国に増えないのには「さもありなん」といった感じの理由があるようだが、ここで公開は控えておく。気になる方はクララのコンサルタントにこっそり聞いてみてほしい。

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この記事を書いた人

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