中国市場進出の新しい手法、クラウドファンディング

日本企業が自社商品を中国に展開したい時、主な手法は現地パートナー企業との提携と越境ECの二つになるかと思います。本稿では、中国進出する際の新しい手法を紹介します。それがクラウドファンディングです。

目次

クラウドファンディングとは

クラウドファンディングとは、「群衆(クラウド)」と「資金調達(ファンディング)」を組み合わせた造語で、「インターネットを介して不特定多数の人々から少額ずつ資金を調達する」ことを指しています。

インターネットの普及に伴い、2000年代にアメリカでクラウドファンディングが誕生し、拡大してきました。代表的なサービスにIndiegogoやKickstarter等があり、特にアメリカやイギリスではクラウドファンディングは資金集めの方法として一般的なものになりつつあります。

一方、日本では2011年の東日本大震災をきっかけに、復興支援を目的とした寄付型のクラウドファンディングが広がったのが始まりといわれています。2014年5月には規制を緩和する金融商品取引法の改正案が国会で可決成立したことに伴い、投資型クラウドファンディングも注目されるようになりました。

日本のクラウドファンディング運営サービスとしては2011年に開始されたプラットフォーム「READYFOR」が始まりとされています。その後も続々とクラウドファンディング運営サービスが登場し、現在では約40社のクラウドファンディング運営サービスがあります。また自社でクラウドファンディングのウェブサイトを開設している企業や自治体も60社程あるようです。例えば、サイバーエージェントが運営する「Makuake」、パルコが運営するファッション関連のプロジェクトに強い「BOOSTAR」など、参画している企業は様々です。

クラウドファンディングの種類

クラウドファンディングの形式には、基本的な「寄付型」のほか、「購入型」、「融資型」、「株式型」、「ファンド型」の5種類があると言われています。

「寄付型」とは支援者からの支援を「寄付金」として受け取ることのできるクラウドファンディング方式です。

商品やサービスによる”お返し”は基本的に発生しません。代わりに、寄付者に対して活動報告や参加へのお礼をリターンとして設定するのが一般的です。被災地の支援、社会課題への取り組み、調査研究活動など、公益性の高いプロジェクトが多く、認定NPO法人、公益財団法人、自治体や学校法人などに幅広く利用されています。

日本では、CAMPFIREが運営している「GoodMorning(一部プロジェクト)」や「READYFOR」が得意とする方式です。

「購入型」とは、起案されたプロジェクトに対して支援者がお金を支援し、支援者はリターンとして、モノやサービスを受け取ることができます。「購入型」では、支援者は起案者がリターンとして設定した商品やグッズ、サービス等を購入するような感覚で支援できますが、金銭的な見返りがリターンとなることはありません。

そして「購入型」には、「All-or-Nothing型」と「All-in型」の2種類があります。「All-or-Nothing型」は、募集期間内に目標金額を達成した場合にのみプロジェクトが成立します。一定の金額が集まってはじめて実行可能となるプロジェクトでは、こちらを選択することが多いでしょう。「All-In型」は、目標金額に達していなくても、一人でも支援者がいればプロジェクトの成立が認められます。ただし、掲載時にプロジェクトの実施を確約する必要があるため、プロジェクトの内容によっては利用できない場合もあります。

この方式を用意している日本の代表的なサービスには「CAMPFIRE」、「READYFOR」、「Makuake」、朝日新聞社が運営する「A-port」などがあります。

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「融資型」とは、資産運用したい個人投資家から小口の資金を集め、事業者が仲介し、大口化して起案企業に融資する仕組みのクラウドファンディングです。

「融資型」のクラウドファンディングは、支援者が資金を「融資」するという形式であるため、支援者は金銭的なリターンを得ることができます。金融商品にあたるため、事業者は「貸金業法」や「金融商品取引法」などによる法的規制を受けます。

日本の代表的なサービスには、「SBIソーシャルレンディング」、「funds」などがあります。

「株式型」とは、個人の起案者ではなく株式会社が行う資金調達の一つで、支援者である個人投資家へ非公開株を提供する代わりに資金を募集するクラウドファンディングです。

支援者は起案企業の詳細な情報を参考に投資をおこないます。非上場企業の未公開株を取得できることが最大の特徴です。2015年から株式投資を扱う第一種金融商品取扱業に少額の特例ができたことで、日本では2017年からこの形式のサービスが登場しました。ただし、借り手企業側は年間1億円未満、支援者は1社につき50万円までと投資金額に制限があります。

株式投資型クラウドファンディング運営事業者には、第一種少額電子募集取扱業の資格が必要です。日本の代表的なサービスには、「CAMPFIRE Angels」、「FUNDINNO」、「Unicorn」などがあります。

「ファンド型」は株式型と同じく、企業が資金調達できるクラウドファンディングです。支援者である個人投資家は、売上等の成果や出資額に応じた金銭的なリターンを受け取ることができます。金銭的なリターンと合わせて、その事業で作られたモノやサービス、その割引券等を受け取ることができる場合もあります。

「ファンド型」では、売上に基づく分配金で利回りが計算されます。投資する事業の売上に応じて、利回りが変動するのが特徴です。ファンド型クラウドファンディング運営事業者は、第二種金融商品取引業の登録が必要になり、支援者である投資者は匿名組合契約などの出資契約を事業者を通して行うことになります。

日本に「ファンド型」のサービスはまだ少なく、代表的なサービスには「セキュリテ」があります。国内外のビジネスへ投資することができます。

中国のクラウドファンディングの状況と代表的なサービス

中国では2011年7月に初めてクラウドファンディング運営サービスが誕生しました。その後2年間で数十社がサービスを開始し、2013年12月にインターネット大手のアリババグループも参入しました。

特に2014年以降は、インターネットサービス大手の事業者やEC大手の事業者らがクラウドファンディングのプラットフォームを次々と立ち上げました。2016年にピークに達した際には532ものプラットフォームがありましたが、2017年に政府の規制が厳しくなったことをきっかけにプラットフォーム数が減少し始め、2022年時点で運営しているプラットフォームの数は100に満たない状況となっています。

中国のクラウドファンディング運営サービスは、主に「購買型」「寄付型」「融資型」「株式型」の4種類となります。

ただし、「融資型」と「株式型」は融資手段の一つとしてまだ明確な法律がなく、違法募金になるなど法的リスクが高いことから、海外企業の利用は難しい状況です。そのため、ここでは海外企業でも利用可能な「購買型」のクラウドファンディングを提供しているサービスを紹介します。

■造点新货 https://izhongchou.taobao.com

「造点新貨」はアリババグループのクラウドファンディングプラットフォームで、以前は「淘宝众筹(タオバオクラウドファンディング)」というサービス名でした。

日用品、IoT家電、アパレルなど幅広いジャンルに対応しており、京東(JD)グループが運営する「京東众筹」が市場を撤退したことにより、今では中国最大のクラウドファンディングプラットフォームとなりました。

ポケットに入るカメラ付きドローンや、VRゴーグルなどの成功事例があり、中国国内では知名度が高く、ユーザー数も多いサービスです。

■小米有品众筹 https://www.xiaomiyoupin.com

「小米有品众筹」は中国のスマートフォン・家電メーカーであるXiaomi(シャオミ)の子会社である有品(YouPin、ユウピン)が運営しているクラウドファンディング/ショッピングプラットフォームです。

2015年7月に設立され、ハイテク製品を中心に、電化製品、日用品など幅広い製品のプロジェクトに対応しています。Xiaomiがサポートするベンチャー企業をはじめ、数多くの中国発ハードウェアスタートアッププロダクトを取り扱っており、中国国内で最も人気があり、かつ信頼度の高いクラウドファンディング運営サービスとされています。

■摩点 https://www.modian.com

2014年6月に設立された、ゲーム、アニメ、音楽、出版物などエンターテイメント分野を得意とするクラウドファンディング運営サービスです。

設立以来、すでに2000件以上のプロジェクトを成功に導いています。最も成功したプロジェクトは、故宮出版社による故宮をテーマにした謎解きゲームブックの開発プロジェクトで、約3億円の支援が集まりました。

日本企業によるプロジェクトも成功しており、バーチャルタレントを擁する「Kizuna AI株式会社」やゲームプラットフォームSTEAMの代理店である「御宅プラン」などが利用しています。

日本企業のテストマーケティングに利用できるクラウドファンディング

上記で紹介したように、中国のクラウドファンディング運営サービスは、大手EC企業が主導するプラットフォームが中心となっています。そのため、「アイデアを実現させるための支援」という本来のクラウドファンディングの趣旨とは違い、中国では、新商品を発売する前にクラウドファンディングで先行発売して市場の反応見るという、テストマーケティングのために使われることが多くなっています。

クラウドファンディングでは、先に支援者から資金を募集し、目標金額をクリアしてからプロジェクト実行となりますので、初期投資が少なく、失敗した時のリスクも低いことがメリットとして挙げられます。またプロジェクトが成功した場合は、商品の宣伝効果もあり、その後の販売拡大にも繋がります。新商品のテスト販売をするには非常に良い手法となっています。

このように、本格的な中国進出を考えているが初期投資が少ない、そもそも中国で自社商品が売れるかどうかがわからないといった心配がある場合、テストマーケティングとしてクラウドファンディングの利用を検討してもよいでしょう。

中国でクラウドファンディングを利用するには

日本企業が中国でクラウドファンディングを始めるには、いずれのプラットフォームを利用するにも基本的に中国の現地法人と口座が必要となりますが、一部のサービスでは、現地パートナー企業の代行が可能な場合もあります。

中国の主なクラウドファンディング運営サービスを利用する場合の申請条件や特徴をまとめました。

造点新货(アリババ)小米有品(シャオミ)摩点
申請
条件
・中国に現地法人がある・中国に銀行口座がある・TAOBAOやT‐mallに店舗がある・中国に現地法人がある・中国に銀行口座がある・シャオミのECサイトに店舗がある・海外企業の場合、中国にパートナー企業が必要
難易度審査が厳しい審査が厳しい審査が比較的緩い
特徴知名度が高く、ユーザー数も多い日用品を始め、幅広いジャンルの商品に対応中国国内で最も人気があり、信頼度が高いハイテク製品、電化製品を中心に幅広く対応エンターテイメント領域に特化比較的若いユーザーが多い
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この記事を書いた人

中国出身、国立佐賀大学を卒業。パーソルキャリア株式会社に入社、求人広告の営業、人材紹介、外国人材の採用・定着支援など、人材関連業務に5年間従事。官公庁、企業、地方自治体などの各機関と連携して数百人規模の外国人材採用・定着プロジェクトを推進する。クララではビジネスコンサルタントをメイン業務として、日中バイリンガル人材の採用プラットフォーム「JaU」の運用や、バイリンガル人材の採用コンサルティングも担当している。

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