中国式朋友は遠慮なし!12kgの荷物は持ち込めるのか
西安に住む友人夫婦に昨年赤ちゃんが生まれた。その赤ちゃんが飲む粉ミルクを日本から送ってくれという。ついでに友人の父親が還暦のお祝いにスイス製高級腕時計が欲しいと言うから、これも日本で買って一緒に送ってくれと言う。総額35万円。もちろん代金は前払いで預かった。
日本でもニュース等で伝えられているように、中国では海外製の粉ミルクの人気が非常に高い。数年前、中国のメーカーが生産した粉ミルクを飲んだ赤ちゃんが、中毒症状で多数死亡するという事件が起きたためだ。現在も国産粉ミルクへの不信は払しょくされておらず、生活に余裕がある家庭はデパートや淘宝網などで高価な海外製粉ミルクを購入している。欧米や香港で中国人による粉ミルクの買占めが問題視されたのも記憶に新しい。また最近では中国の輸入粉ミルクの8割を占めるニュージーランド産の製品が、品質に問題があるとして全面的に輸入禁止になったり、国内外の粉ミルクメーカー6社が不当に価格を吊り上げたとして計6億6873万元(約107億円)の罰金を科されたりもしている。
さて依頼のあった粉ミルクだが、インターネット上には乳製品に該当するため中国に持ち込めないだとか、5000gまでは非課税だとか、2缶までの規定があるだとか様々な情報が出回っている。ここは上海の空港税関に確かめるのが確実だと電話をしてみたが、案の定こちらも要領を得ない。中国では担当者によって話がまちまちなのはよくあることで、日を変えて何度か電話してみたが、やはり言うことはバラバラ。最終的に全国税関サービスホットライン「12360」に問い合わせ、個人利用の範囲内であれば持ち込み個数に関する規定は無さそうだということがわかった。それならばと今回の上海渡航時に手荷物で持ち込み、上海から宅配便で西安の友人宛に送ることにした。ある日突然ルールが変わったり、担当者によって対応が違ったりするのは中国でよくあること。私も友人夫婦も税関での没収は覚悟の上だ。
筆者はある日、友人の依頼通り粉ミルクを8缶とご指定の高級腕時計を購入し、スーパーでもらったブナシメジの段ボールに詰め込んだ。粉ミルクのおまけで付いていたウェットティッシュが緩衝材代わりにちょうどいい。中国の宅配業者が日本以上に手荒なことは経験済みなので、がっちり梱包しておいた。総重量は12kg、一体どうやって空港まで持って行けばいいんだ。
ちなみに、友人の赤ちゃんはしばらく日本製の粉ミルクを飲んでいたが、それが無くなったためやむを得ず中国メーカーの物を飲んだところ下痢が続いたという。以降、天猫(T MALL)にある日本の大手ベビー用品メーカー、和光堂の公式ショップから購入していたという。今回筆者がスーパーで購入した和光堂の粉ミルクは1缶約1200円だったが、淘宝網では1缶298元(約5000円)。中国で高い関税がかけられているのだろうが、値段が4倍も違えば海外旅行先で買占めが起こるのも仕方ない。後に上海市内のスーパーで確認したところ、同じ粉ミルクに498元(約8000円)の値段が付けられていた。
宅配業者の評判は?
宅配には友人の指定で、順豊速運(SF EXPRESS)を使うことになった。順豊は広東省深セン市に本社を置く運送会社で、中国国内はもちろん、日本、韓国、シンガポール、マレーシア、米国にもネットワークを広げている。送料は他社より高いものの、サービスが良く安心して利用できるというイメージがあるようで、今回は荷物の中に30万円以上する時計があることから、貴重品の取り扱いサービスがあり、保険がしっかりかけられるかどうかで決めたそうだ。
順豊に問い合わせた友人の話では、集荷は電話一本ですぐに来るが、保険をかけるために荷物をいったん開けて中を見せ、さらに商品の値段がわかるレシート等を提示しなければならない。箱も場合によっては指定の物に入れ替える必要があるそうだ。しかし友人は、「しっかり梱包してあれば、どうせ開けるのを面倒に感じて何もしないよ。箱の中身は写真を見せれば大丈夫」と言うので、念のために写真を撮っておいた(2ページ目のもの)。実際このような“現場の判断”はよくあることで、電話で問い合わせた時にルールだ何だと言われようが、現場にいるそのスタッフの判断が全て。この“現場の判断“が原因で業者と喧嘩になるのは、中国では日常茶飯事。運よく“いい人”に当れば良いが、どんな人が集配に来るかは運次第である。
きちんとやったら集荷に1時間
上海の空港では、案の定ノーチェックだった。同じ飛行機には、粉ミルクを箱買いしたのか「明治ほほえみ」と書かれた段ボール箱をカートに乗せた中国人夫婦もいたが、こちらも無事に?スル―。
ホテルに着き、さっそく順豊速運のカスタマーセンターへ連絡すると、1時間以内に集荷に行くとの返事だった。しかし貴重品取り扱いサービスについて確認すると、「集配の担当者が現場で確認して判断することなのでわからない」と言う。規定は無いのかとつっこむと、「規定はもちろんあるが、箱を開けてまで中身を確認するかは集配担当者による」と繰り返すばかり。しまいには、どんな商品でいくらするのか、どこで買ったのか、誰に送るのかと質問が始まり、らちが明かないのでとにかく早く来て欲しいと伝えて電話を切った。
コールセンターの対応は予想通りの中国品質だったが、その後すぐに集配担当者から確認の電話がかかってきたのには安心した。もう一度ホテルの住所などを確認し、約束通り15分後に、グレーのポロシャツに黒いズボンの制服を着て帽子をかぶった、いかにも宅配業者の姿をしたお兄さんがやってきた。会社のロゴの入った台車を押している。中国でよく見かけるのは薄汚れた普段着を着た配送業者だったので、きちんとした身なりに驚いた。
順豊速運(SF EXPRESS)の広告
この集配のお兄さんに保険をかける旨を伝えると、予想通り、箱を開けて中身を確認する必要があると言い始めた。自分の目で中を確認してサインしない限り、配達後に中身が違うと言われても会社は責任を取らない・・・と言い終わらないうちに、さっさと梱包を解き始める。ホテルのロビーの真ん中でビリビリ大きな音を立てれば、皆が見る。ホテルのスタッフも遠巻きに見ている。
お兄さんはせっかく入れた緩衝材をぐちゃぐちゃにして、「粉ミルクだよね。税関の証明書は?」と聞く。何もチェックされなかったことを伝えると、「いつもそうなんだけど、実は証明書が要るんだよ」と言う。海外で働く中国人が帰国に合わせて大量に粉ミルクを持ちこみ、親せきや知人に宅配するケースはとても多いそうだ。しかし遠方まで航空便で送る場合には、荷物の検査が厳しいため証明書がなければ途中で没収される可能性が高いという。その証明書が本当に取得する必要のあるものなのか、その場で確かめようは無い。どうするんだ?という顔をするお兄さんに「送れないの?」と聞くと、案の定「日数はかかるが陸路で送れば大丈夫」とのこと。さすが中国。どこまで行っても抜け道は用意されている。
西安までは約2000km、陸路で4日かかるという。ここまで来たら、何日かかろうが送るしかない。陸路で送るための伝票に送り先を記入した。お兄さんは「粉ミルクって書くと、途中で無くなるからね。時計も危ない」と言って、内容物の欄に「食品、電子」と書き込んでくれた。開封した荷物は乱暴に蓋をされ、さらにグルグル巻きにテープを貼られた後、「貴重品」「壊れ物」のシールが貼り付けられた。その後、荷物の重さを正確に量って伝票に書き込み、「届いた時に重さが変わっていたら、中身が抜かれているということだよ。万が一そんなことがあったら、さっき見た中の荷物について私が証言するから」と説明された。
今回送った荷物の伝票。日本の宅配便とほぼ同じだが、約款への同意サインの欄がある
やっと終わったかと思ったら、まだ保険をかけていなかった。事前に聞いていた通り「保険をかけるため何か値段のわかるものはあるか」と聞かれ、レシートの写真を見せると、ちらっと見て「日本語はわからないけどね」と言う。まあそうだろう。大体2万元(約34万円)だと伝えると、伝票の荷物の価格欄にそのまま「2万元」と書き込んでくれた。保険料は、申告した価格の5‰(=0.5%)と明記してあるので100元かと思っていたら、なぜか40元(約700円)。西安までの陸路の送料76元(約1300円)と合わせて116元(約2000円)は着払いにしてもらった。
集配担当者がホテルに来て、荷物を持っていくまでかかった時間は約1時間。実に丁寧であった。5つ星ホテルのロビーで大騒ぎしていたが、結局ホテルスタッフは声をかけてこなかった。欧米人旅行客の視線が痛かった。
荷物を追跡
中小の宅配業者と違い、順豊はホームページから荷物を追跡することができる。操作は日本の宅配便と同じで、送り状の伝票番号とセキュリティ認証を入力するだけだ。
ホームページ左上にある「荷物の追跡」
表示された結果。上海から西安まで約24時間かかっている
無事届いたのか?
荷物の追跡が更新されるよりも早く、友人から無事届いたと連絡があった。配達員はきちんと順豊の制服を着たスタッフで、一礼するとその場で荷物を開けるよう彼に求め、一緒に中身が揃っているかを確認してから、受取のサインをしたそうだ。
友人がわざわざ写真を送ってくれたのだが、届いた荷物は上下逆さまだった。集荷後にあのお兄さんが送り状を貼り付けたのは、箱の底側だったのだ・・・。段ボール箱自体は予想していたよりもボロボロではなかったが、日本の宅配便とは比べ物にならない傷み具合だ。それでも無事に、途中で無くなったり、中身が抜き取られることなく届いたのは嬉しかった。
ネットショッピングの急成長でニーズが増え、宅配市場は今まさに玉石混合の状態だ。あまりの苦情の多さに、自社で配送まで手掛けるサイトも増えており、宅配サービスのレベルは一つの市場の成長を左右することが認識され始めた。中国でネットショップの出店を検討する日本企業にとっては、どの宅配業者を選ぶかが大きな課題のひとつになるだろう。宅配業者の態度やサービスでネットショップの評価も左右される。日本製をアピールする商品を扱うのであれば、そのイメージを壊さぬよう、なおさらしっかりと事前に調査を行いたい。