ついに解禁!中国の家庭用ゲーム機市場

目次

1. 家庭用ゲーム機の黎明期

中国の家庭用ゲーム機(据え置き型ゲーム、テレビゲーム)産業は、1980 年代中ごろから始まった。当初は任天堂のファミリーコンピュータ(1983 年発売)を代表とする日本や欧米製ゲーム機が香港を経由して流通していたが、間もなく安価な模倣機と海賊版ゲームソフトが登場した。

なかでも 80 年代末に子供向け学習機器メーカーの小覇王が発売したゲーム機「D シリーズ」は、子供の学習に役立つとして都市部を中心に大ヒット。当時は一人っ子政策が始まったばかりということもあり、比較的裕福な家庭の子供たちの間で家庭用ゲーム機が広まっていった。

「紅白機」と呼ばれる D99、価格は当時 300-400 元

後続機も続々登場、今でも淘宝網で入手できる

しかし家庭用ゲーム機がある程度普及すると、ゲームに夢中になる子供が社会問題化するようになった。日本ではゲームの暴力性が子供に与える影響や社会的不適応性が問題視されるが、当時の中国ではゲームに没頭することによる成績低下が大きく取りざたされた。学校やメディアからの批判は大きく、これを重く見た当局は 2000 年 6 月に「電子ゲーム経営場所の専門的取締展開に関する意見の通知(《关于开展电子游戏经营场所专项治理意见的通知》国办发[2000]44 号)」を発表。電子ゲームは社会の治安秩序を乱し、青少年の心身の発達に潜在的な傷を残すとして、中国国内におけるゲーム機および関連機器の生産、販売を禁止した。この通知は家庭用ゲーム機だけでなく、ゲームセンターのアーケードゲーム類にも及び、当時全国に約 13 万件あったゲームセンターが 2 万件を下回るまで減少したといわれる。

このように家庭用ゲーム機の生産販売は禁止に至ったが、実際には徹底されていない。繁華街のゲームショップでは香港や台湾から持ち込まれた最新ゲーム機と一緒に、その模倣機が並んでいる様子を目にすることができる。特に近年はネットショッピングが普及し、淘宝網(Taobao)を通じて海外で発売された最新ゲーム機を購入するのも容易だ。

海賊版ゲームソフトは安いものでは 1 枚 5~10 元程度で売られており、英語版や日本語版だけでなく、あるはずのない中国語版や数十ものゲームが 1 つに入っているものまで揃っている。なお、先に見た小覇王のような子供の教育を目的にうたったものは規制の対象にはならず、現在に至るまで様々なそっくりゲーム機が堂々と販売されている。

そっくりゲーム機の数々。下段は小覇王の公式 HP に掲載の商品 …どこかでみたことあるような

一方の PC オンラインゲームは、当時すでにある程度のユーザー規模があったものの規制の対象とはならなかった。この通知を機に、中国のゲーム産業は海賊版ソフトの心配がないオンラインゲームへと軸足を移すことになる。

2. ゲーム機の製造販売、14 年ぶりに一時解禁へ

中国政府は今年 1 月、外資企業が上海自由貿易試験区内で家庭用ゲーム機を生産、販売することを認める方針を発表し、日本でもついに市場開放かと話題になった。その後、4 月に入ると同試験区を管轄する上海市政府が「中国(上海)自由貿易試験区文化市場開放項目実施細則」で詳細を発表。同区内で営業ライセンス(許可範囲は“ゲーム設備の生産及び販売”)を取得した外資企業について、上海市文広影視局の許可を受けた本体およびソフトの生産販売を許可するとした。

この細則では、国内向けに生産販売するゲーム設備について、合法的な知的財産権を持ち、科学・芸術・人文知識の普及に有益かつ、青少年の健康的な成長に寄与するもので、あらゆる賭博的要素を禁止している。生産販売許可の申請にあたってはゲームソフトの全画面を含む資料や操作動画、ゲーム内で使用する音楽データや歌詞の中国語訳、登場人物のセリフや説明文を含む全てのテキストの提出など多くの材料が必要で、ゲーム内容の修正やバージョンアップの度に改めて申請が必要となる。通常は受理から 20営業日以内に批准の可否が通知される。

米ゲーム市場調査会社 newzoo のまとめによれば、2013 年の世界の家庭用ゲーム機市場の規模は 1600 億元(約 2.6 兆円)に上り、ゲーム市場全体の 36%を占めている。中国のゲーム市場規模は約 1230 億元(約 2 億元)あり、家庭用ゲーム機の市場が開放されれば 5 年以内に 5000 万台から 1 億台の販売が見込めると予測する。

市場の開放を見越してか、早くも 2013 年 9 月には米マイクロソフトと百視通(BesTV)が上海上海自由貿易試験区に合弁会社を設立し、ファミリー向けの娯楽・ゲーム産業技術の研究開発に着手した。今年 11 月にも「Xbox One」を中国市場に投入する計画だという。ソニーも 5 月 26 日に「PlayStation」を製造販売する合弁会社 2 社を同試験区に設立することを発表。合弁相手は上海東方明珠の子会社で、1 社がゲーム機本体、もう1 社がゲームソフトの製造販売を行うという。7 月にも「PS4」を投入するとのうわさが聞かれるが、詳細は明らかでない。

3. 先行する国内勢、すでに類似商品が氾濫

海外の有名家庭用ゲーム機が中国参入を模索する中、国内ではすでに大手電器メーカーがオリジナルゲーム機の販売を始めている。テレビや携帯電話に強いTCL 集団は、4 月 28 日に EC 大手の京東で Android を搭載した家庭用ゲーム機「T2」を売り出した。価格は699 元(約 1 万 2000 円)で、事前予約は受け付け開始から 1 週間で 40 万人を突破。テレビとスマートフォンの間でのオンライン対戦が可能で、外出時もスマートフォンでゲームの続きを持ち出すことができる点が評価されたようだ。

ゲームのほか動画を見ることもできる

毎月 10 本の新作ゲームを提供する仏 Gameloft、通信大手の聯通、国内ゲーム開発の時訊互聯科技(ATET)、そして EC 大手の京東と組んだ“T2 モデル”で市場開拓に意気込む。

同じく 4 月 28 日に京東から売り出された中興九城のゲーム機「Fun Box」は、12 色のカラーバリエーションを持つ立方体の本体が特徴だ。中国語で「お弁当箱」の愛称を持つこのゲーム機は、携帯電話製造大手の中興(ZTE)とゲーム会社の第九城市の合弁会社が手掛けたもので、価格は 698元(約 1 万 2000 円、本体 499 元+コントローラ199 元)。ゲーム機というよりはセットトップボックスとしての色合いが強く、4 月末時点で取扱うドラマタイトルは 3288、映画は 7800、アニメは 1368 にも上る。最初の 5 万台は予約開始からわずか 6 時間で売り切れ、すでに 50 万台以上が売れている。現在扱うゲームは 50 タイトルあまりだが、盛大や中手遊など数多くのゲーム会社と “お弁当連盟”を設立し、新タイトルを続々と投入するとアピールしている。

ホーム画面は Win8 スタイルが主流

通信機器製造大手の華為(Huawei)も夏ごろを目途にゲーム機「TRON」を投入する計画だ。コントローラに大型の円形タッチパッドがあるのが特徴で、今年 1 月に米ラスベガスで開かれた国際家電見本市CES2014でお披露目された。今年 2 月には完美世界と世界展開に向けた戦略的パートナーシップを結んでおり、まずは十数タイトルを供給するという。このほか社名は明らかでないが日本や韓国のゲーム会社とも提携している模様だ。販売予定価格は 1200 元(約 2 万円)とも 900 元(約 1 万 4000 円)とも伝えられているが、「T2」や「Fun Box」より値が張ることから価格の見直しは必至となりそうだ。

このようなゲーム機能を前面に押し出したタイプに加え、中国市場にはセットトップボックスという強力なライバルが存在する。日本ではケーブルテレビや有料放送を契約しないと使うこともないが、中国では 2000 年半ばごろから各地で地上デジタル放送が始まった際、テレビ放送を管轄する広電総局が各世帯に無償でセットトップボックスを配布したという経緯もあり、“テレビにつないで色々できる端末”として身近な家電の一つとなっている。メイン機能は地上波番組に加えて、インターネット経由でドラマや映画、アニメなどをテレビの大画面で見ることができるというものだが、Web 閲覧やカラオケ、ゲーム機能を備えたものも多く、すでに多くの製品が出回っている。

例えば百度(Baidu)の「影棒 3」は“世界初の 4K 超高画質ゲーム対応ハード”として、同類製品の 3 倍のスペックを備えながら 399 元(約 6500 円)という安さが人気だ。現在はスマートフォン向けゲームで人気の『捕魚達人 2』、『滑雪大冒険』などいくつかのゲームがあるだけだが、すでに触控科技や藍港在線といった国内のゲーム会社と提携しており、既存タイトルのテレビ版を順次投入していくとしている。

動画共有サイトの PPTV 聚力の「PPBOX」は、自身の持つ 3 万タイトルを超える映画やドラマリソースを武器にしており、ゲーム機能では PC ゲームの『プラント vs ゾンビ』をプレイすることができる。同社は今後、インタラクティブ性が高く、家族みんなで楽しめるゲームを取りそろえていくとコメントしている。

また格安スマートフォンで有名な小米の「小米盒子」(299 元、約 5000 円)の場合は、ファミリーをターゲットとして『Wii Sports』のような家族みんなで楽しめるゲームをプレインストールしている。ゲーム自体は付加機能の一つというレベルだが、スマートフォンをコントローラ代わりにできるため、専用コントローラ不要で誰でも簡単に操作できる。小米のブランド知名度と手ごろな価格設定で、まずまずの滑り出しだという。

4. 家庭用ゲーム機にゲームショウも注目

家庭用ゲーム機の解禁は、中国最大のゲームショウにも変化を与えている。毎年 7 月末に上海で開かれる中国国際数碼互動娯楽展覧会(ChinaJoy)は、この数年 PC オンラインゲームとモバイルゲームばかりだったが、今年はマイクロソフトとソニーがそれぞれ「Xbox One」と「PS4」を出展する模様だ。

上海の地で行われるこのイベントは、地元当局にとっても上海自由貿易試験区を宣伝する格好の機会となる。それを示す一つが、今年初めて開かれる家庭用ゲーム機やセットトップボックスに特化した展覧会、「第一回次世代ゲーム機および家庭用デジタル娯楽製品展覧会(Next-gen Arcade, Console and Home Entertainment Expo)」の開催だ。ChinaJoyの会場内のホールを1つまるごと使って行われ、多くのメーカーがこの場で新製品を発表するという。併せて開かれる「中国国際家庭用デジタル娯楽サミット」は自由貿易試験区の開設後初めてのゲーム関連サミットで、愛奇芸や PPS 網絡電視など業界大手のトップらが集まるため、業界の将来を見通す上で見逃せないイベントとなっている。

5. 第三のゲーム市場をつかむのは中国

ゲーム市場では、PC オンラインゲーム、モバイルゲームに続く第三の市場が生まれつつある。海外企業にとって家庭用ゲーム機の解禁は、中国という巨大市場を手に入れるチャンスとなるが、非正規の輸入品やコピーソフトの氾濫という深刻な問題に加え、オンラインゲームやセットトップボックスとの競争にも直面することになる。

一方の中国企業も家庭用ゲーム機を新たなビジネスチャンスと捉えており、特に家電メーカーや携帯電話メーカーといった知名度の高い企業の参入が目立つ。ハードの売上だけでなく、ゲームからの継続的な収益をも見込んでいるようだが、現時点ではオンラインゲームやモバイルゲームからの移植タイトルばかりで目新しさはない。どれだけ魅力的なゲームを調達できるかが最大の課題だが、大手ゲーム会社の中では比較的積極的な第九城市と完美世界を除き、巨人網絡や盛大遊戯など多くが様子見にとどまっている状況だ。

先行する国内勢の製品はゲーム機と呼べるものから、セットトップボックスのおまけレベルに過ぎないものまで様々あるが、「Xbox」や「PS4」のような海外ゲーム機がそのまま中国市場に打って出ても iPhone の二の舞になる可能性がある。例えば国内勢の製品にブルーレイや DVD の再生機能はないが、中国ではインターネットからダウンロードするのが一般的で、なにより海賊版 DVD が見られないのならば役に立たない。テレビの録画ができる機能も中国では必要ない。そもそもテレビ番組を録画するという習慣がなく、見逃した番組はインターネット上でいつでも無料で見られるからだ。国内勢の製品でもインターネットやアプリが使えるのは当たり前で、特にドラマや映画の視聴にも強みを持つ製品は、家族や友人をなにより大切にする中国人の“一緒に楽しみたい”という欲求を満たす。いくらグラフィックが美しくてゲームが面白くても、海外で人気のゲーム機をただ投入するだけでは、中国市場の攻略は難しいと思われる。

また中国特有の事情を考慮する必要もある。家庭用ゲーム機のゲーム内容に関する規制はまだ発表されていないが、すでに賭博的な要素を禁止する文言が出ていることからも、おおむね「オンラインゲーム管理暫定弁法(《网络游戏管理暂行办法》(文化部令第 49 号)」に準拠した形と考えてよいだろう。セットトップボックスや家庭用ゲーム機から IPTVの利用が増えれば、広電総局のテレビ事業への影響も懸念して、当局が新たな規制を打ち出す可能性も否定できない。当面は雨後の筍のごとく国内メーカーがどんどん参入し、次から次へと似たような製品を投入することが予想されるが、1 年もすればゲーム会社や動画視聴サイトと提携できなかったメーカーを中心に淘汰されるものと思われる。

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この記事を書いた人

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