中国ゲーム業界におけるガチャの現状

<要約と結論>

日本ではこの夏からガチャの規制がスタートしたが、中国では日本に先駆けて2009年にガチャおよびコンプガチャに相当する仕組みを禁止する法令が発表されている。ほかにもオンラインゲームで獲得した仮想通貨や稀少アイテムなどのリアルマネートレード(RMT)について、ゲーム運営会社による取引プラットフォームの運営禁止や賭博的要素を持つゲーム内容の禁止など複数の法令があり、ガチャはあらゆる面から直接的または間接的に規制を受けている。

中国のゲームユーザーの間でもガチャは射幸心を煽り、強い賭博性を持つとの認識が浸透しており、高額課金を誘発することが問題視されている。しかし当局はオンラインゲームがRMTと結びついて明らかな賭博と化し、詐欺やブラックマネーなど様々な犯罪を生む温床になることを警戒している。それゆえに規制をかいくぐって運営を続ける違法なゲームが後を絶たず、ゲームを盛り上げるためにRMTサイトと提携するゲーム会社の存在も聞かれる。中国市場では高いスペックのPCが必要なグラフィックの美しい海外製の最新ゲームよりも、低スペックで動きRMTに適した中国製ゲームの人気が高く、換金を目的としたゲームユーザーは増加しつつあるようだ。

特にiPhoneユーザーが利用するAppStoreでは、ガチャを含む違法なゲームが実質野放しの状態になっている。米Apple社が中国でコンテンツの配信許可証を持っておらず、現状では中国国外のサービスであることから、当局が効果的な対策を打ち出せないためだ。Appleは独自の審査基準を用いて公開前の事前審査を行っているが、中国で違法に当たるゲーム内容が他国でも違法とは限らない。アプリ提供地域の法律順守は開発者の責任としているが、中国の法規制に明るくない海外製ゲームはもちろん、政府の規制が届かないAppStoreを抜け道として利用する悪質な中国製ゲームが自由にダウンロードできる状況が続いている。 現在はその“抜け穴”が黙認されているAppStoreも今後利用者が増加すれば、当局が望まない方向へと進む可能性がある。当局はAppStoreを含めた中国のゲーム市場に対して、当面は事前審査の強化やRMTの取り締まりを中心とした対応を続けるとみられるが、RMTにまつわる詐欺などの犯罪増加や政治環境の変化などをきっかけに抜本的な行動に出る可能性も十分考えられる。


目次

ガチャ規制の現状

日本では消費者庁が2012年5月18日に発表した「“カード合わせ”に関する景品表示法(景品規制)上の考え方の公表及び景品表示法の運用基準の改正に関するパブリックコメントについて」において、有料でランダムに入手できるアイテムのうち、特定の複数アイテムをすべて揃える(コンプリートする)ことで稀少アイテムを入手できる「コンプガチャ」と呼ばれるシステムが、懸賞景品制限告示第5項で禁止する「カード合わせ」に該当するとの見解を発表。その後、1ヶ月間のパブリックコメント募集を経て、6月28日にコンプガチャを禁止とした「『懸賞による景品類の提供に関する事項の制限』の運用基準」が発表され、7月1日から施行されている。

またコンプガチャについて、構造的に射幸心を煽り高額課金を誘発する、高い賭博性があるといった批判が噴出したことから、大手ゲーム会社は独自のガイドラインを発表したほか、日本オンラインゲーム協会(JOGA)も8月15日に「ランダム型アイテム提供方式における表示および運営ガイドライン」でコンプガチャを規制する方針を発表し、9月1日から施行している。ただし現段階では、有料でランダムにアイテムなどを入手できる仕組み(ガチャ)自体は規制の対象外となっている。

一方中国では、日本に先駆けて2009年から2010年にかけてガチャ及びコンプガチャに相当する仕組みが違法であるとの通知が当局より発表されている。

原文には日本語の「ガチャ」に相当する中国語の表記(抽奨游戯、抽奨型游戯、抽奨系統、遊戯中抽奨など)はないものの、条文の意味合いから、いずれもガチャと同様の仕組みを想定しており、さらにガチャかコンプガチャかを問わず禁止していることがわかる。

賭博の角度から

日本のコンプガチャ規制に関する現地報道を見る限り、中国のゲームユーザーの間でもガチャは射幸心を煽る一種の賭博だとの認識が一般的なようだ。

そもそも賭博は、「中華人民共和国刑法」第303条、「中華人民共和国治安管理処罰法」第70条、「中国共産党紀律処分条例」第162条などで禁止されている。ゲーム分野に特化した法令では、古くは1992年に発表された「文化部、公安部による電子ゲーム機を利用した賭博活動の禁止に関する通知《文化部、公安部关于严禁利用电子游戏机进行赌博活动的通知》」がある。その後も2005年1月11日発表の「オンラインゲームを利用した賭博活動の禁止に関する通知《关于禁止利用网络游戏从事赌博活动的通知》」など、インターネットを利用した賭博に言及する複数の規定が出されている。

また仮想通貨のリアルマネートレード(RMT、オンラインゲーム上のキャラクター、アイテム、仮想通貨などを現実の通貨で売買する行為)が盛んになると、ゲーム会社が稀少アイテムや仮想通貨を安くまたは無償でRTMサイトに卸し、プレイヤーに高く売って暴利を得たり、RTMサイトで購入した仮想通貨をゲーム内で増やし再びRTMサイトで換金する賭博とみなされる行為が増加したため、当局は2009年6月4日に「オンラインゲーム仮想通貨管理業務の強化に関する通知《关于加强网络游戏虚拟货币管理工作的通知》」を発表し、運営会社が直接RMTサイトを運営することを禁じた。

さらに2010年6月3日に新聞出版総署が発表した「オンラインゲーム管理暫定弁法《网络游戏管理暂行办法》」では、初めてゲームの内容にまで踏み込んで賭博を禁止している。

このように、中国においてガチャやコンプガチャは、その仕組みと賭博的要素の両面から事実上の規制を受けていることがわかる。

規制をすり抜ける違法ガチャ

中国で運営される全てのオンラインゲームは、パソコン(PC)向けかモバイル端末向けかを問わず「オンラインゲーム管理暫定弁法」第3章の各条文に基づき、リリース前に新聞出版総署または国務院の文化行政部門による審査を受ける必要がある。また全てのゲーム運営企業にゲームの内容と経営行為の審査及び管理の責任を負う自主審査部門を設けることが求められている(第10条~第15条)。

しかし実際は、リリース予定のゲームとは違う内容で審査を受けたり、ゲームのバージョンアップに合わせてガチャなどの違法なイベントを追加するといったことが行われていると聞く。中小規模のゲーム運営会社の中には未審査のゲームを運営したり、運営会社自体が正規のライセンスを持たない場合もある。当局は違法なゲームの取り締まりを強化しており、文化部の「2011年中国オンラインゲーム市場年度報告」によると、2011年に処分されたゲーム関連企業は434社に上る。

一方で、業界の独自規制の動きも出ており、Webゲーム産業連盟の公式サイト「网页游戏行业规范自律联盟(http://www.12318.org)」には、違法なPC向けゲームを匿名で告発するコーナーが設けられている。寄せられた情報は72時間の弁明期間を経た後、当局の管理部門に通知される仕組みで、多くはわいせつなゲーム内容や広告に関するものだが、ガチャが含まれているという告発もしばしば見受けられる。

野放しのAppStore

iPhoneユーザーが利用するAppStoreの場合、米Apple社が中国でコンテンツの配信許可証を持っておらず、現状では中国国外のサービスであることから、当局が具体的な対策を講じることが難しくなっている。

AppStoreではユーザーの個別アカウントが国と結び付けられており、中国国内のiPhoneユーザーは通常、中国語に対応したAppStore中国区にアクセスする。AppStoreにゲームなどのアプリケーションを公開するには、Appleの事前審査をクリアする必要があるが、一旦AppStoreで公開されると世界中のユーザーがダウンロードできることから、AppStoreの審査ガイドラインには「アプリ提供地域の法律順守は開発者の責任である(22.1)」と明記されており、アプリのダウンロードを国別に制限する機能も備えられている。だがその設定が徹底されているとは言えず、中国の法規制に明るくない海外製ゲームはもちろん、政府の規制が届かないAppStoreを抜け道として利用する悪質な中国製ゲームが自由にダウンロードできる状況が続いている。

上海に拠点を置く調査会社Stenvall Skoeld & Co.の調査によれば、2012年第2四半期(4-6月)におけるAppStore中国区の売上は前年同期比105%増の3700万ドルで、12年通年の売上予想は同98%増の1.71億ドルに達する。世界のAppStoreの総ダウンロード数に占める割合は第2位の18%だが、有料アプリケーションの売上額に占める割合はわずか3%。一方の米国はダウンロード数の28%、売上の42%を占めている。上海で知的財産権を専門とする中国人弁護士の遊雲庭氏は、自身のブログでAppStoreの問題点について「Appleは有料アプリケーションのダウンロード数が少ない中国を重視していない可能性がある。中国区の審査担当者は数えるほどしかおらず、審査も厳しくないため、詐欺をはじめとする違法なアプリケーションがまん延している」と指摘する。(http://blog.sina.com.cn/s/blog_49e5b12401013wak.html)

ガチャの実例

AppStoreのゲーム「小人大戦Eenies」を例に、ガチャの課金の流れを見てみよう。同ゲームはオーストラリアに拠点を置くSavySoda社のSavySoda HKが開発したゲームで、エイリアンなどの敵を投石や弓矢で攻撃して全滅させるシンプルなゲームだ。中国語版はゲーム開始当初から有料のガチャが用意されており、アイテムを販売する「商店」で「MysteryBox」を1つ12元で購入できる。アイテムの選択画面で「MysteryBox」をクリックし、購入の確認画面が表示されたら、「購買」を選択する。

初めてAppStoreで支払いをする場合は、一旦AppleIDにチャージするための操作画面が表示される。銀行口座からの即時引き落としによるチャージの場合、50元、100元、300元、500元の4種類のみ、民間銀行を中心に17行に対応している。携帯電話番号と共にキャッシュカード番号や身分証番号を入力するだけでチャージは完了する。このほか8行のオンラインバンキングにも対応している。

 すでにチャージされている場合は、「購買」を選択すると直接AppleIDのパスワード入力画面が表示される。パスワードを入力した時点で、購入手続きが完了する。

実際に5回購入してみたところ、全て違うアイテムが表示された。

RMTの現状

日本ではゲーム運営会社の多くが規約でRMTを禁止しているが、法律上は明確に禁止されていない。規約違反には当たるものの、現状では自由な経済取引の一つとして一律に違法と見ることは難しくなっており、ゲーム中のアイテムや仮想通貨が法的に財物として扱えるかといった議論もある。

一方の中国では先に触れたように、法律によってゲーム運営会社がRMTサイトを運営することを禁じているが、RMT自体やサードパーティのRMTサイト運営については禁じていない。大手ゲーム運営会社の規約を確認したが、ほとんどが「コンテンツに関する全ての権利は自社に帰属する」といった記載にとどまる中、巨人網絡は「プログラムの改ざんや不正プログラムなどを利用してゲームの公平性を損なう行為を禁止する」と定め、RMTでしばしば用いられる自動プログラムBOTを禁止したほか、「8.ゲーム中の仮想物品に関する約定」という条項を設けて「ゲームアカウント、キャラクターおよび、通貨、アイテム、装備といった仮想アイテムに関する全ての権利は巨大網絡に帰属する。プレイヤーは法律及び本規約の範囲内で利用することができる」と明確に定めている。

またC2Cサイトの淘宝網や拍拍網はトラブル防止のためRMTを禁止しているが、検索するとかなりの数のアイテムや仮想通貨が掲載されている。RMTサイト最大手の「5173.com」は、登録ユーザー数4000万人以上、1日平均取引件数80万件、2010年の総取引額は70億元に上る。すでに淘宝網、京東商城に次ぐ規模のECサイトに成長しており、2011年には香港でIPOを検討していたようだ。日本のオンラインゲームに特化したRMTサイトも数多くあり、国内最大級をうたう「日服遊戯服務網(Rfrmt.cn)」は、中国側で売りたいアイテムを登録すると、日本のRMTサイト「夢幻ゲームショップ(http://www.mugenrmt.com)」に掲載される仕組みで、貨幣価値の差を利用して中国国内で売るよりも多くの利益が期待できる。

大人向けオンラインゲーム? 公共くじ「中福在線」

中福在線は民生部が発行する公共くじ「福利彩票」のひとつで、アーケードゲーム機を使ってトランプやスロットが楽しめるオンライン型の“くじ”だ。2011年の売上は前年比88.6%増の175.8億元に上る。

「中福在線」は、その名の通り現金をポイントの形にして遊ぶオンライン(=在線)ゲームで、ゲームの内容はもとより、獲得したポイントを最後に換金できる点でも賭博に当たり、「オンラインゲーム管理暫定弁法」などに抵触することが考えられる。偶然性が強いロトタイプのくじとは違い、ガチャと同様に当選確率を意図的に操作することも可能だろう。

高額当選がニュースになる一方で、半年や1年で数十万元を使い果たしたという声も聞かれる。しかし当局は、売上が公共福祉の充実に充てられていること、還元率が一般的な賭博の90%超を大きく下回ることなどを理由に賭博ではないと明言しており、公共福祉の財源として運営を続ける意向を明らかにしている。

まとめ

当局はガチャ自体の射幸性の高さや高額課金の問題よりも、オンラインゲームがRMTと結びつき賭博や詐欺といった犯罪につながることを警戒している。ゲームのコンテンツや運営会社に対してはすでに様々な法規制を行っているが、トラブルが多く聞かれるRMT自体は日本と同様に禁止しておらず、純粋にゲームを楽しむユーザーよりも、ゲーム内の通貨やアイテムをRMTで現金化することを目的としたユーザーが増えているように見受けられる。

個人レベルではもとより、安い賃金で若者を大量に雇い1日中ゲームをやらせてRMTで換金するゴールドファーミングがビジネス化して、稼ぎだされた資金が犯罪組織に流れているとの指摘もある。不正ツールの利用やゲームアカウントの盗用による被害は増加の一途をたどっており、RMTを通じた換金が賭博に当たるといった見解はもちろん、RMTによる所得の把握が難しいことからRMT市場が拡大しても税金の徴収ができないといった問題点も指摘されている。

また現在はその“抜け穴”が黙認されているAppStoreだが、今後利用者が増加すれば、RMTとの結びつきが強まることも懸念される。米IHS iSuppliが今年8月23日に発表したレポートによれば、2012年上半期(1-6月)における中国のiPhone出荷台数は520万台で、市場シェアは第7位の7.5%にとどまるが、中国のスマートフォン市場は5年後に10倍まで拡大すると予測する。

Appleは音楽配信サービスのiTunesStoreでも必要な許可証を有していないが、中国政府を背景に持つ決済代行サービスPayEaseと提携し、中国側に一定の経済的利益を与えることで地位を守っている。しかしAppStoreの有料アプリ購入率が低いまま推移すれば、犯罪につながる違法アプリのまん延という不利益の比重の方が大きくなる。当局はAppStoreを含む中国のゲーム市場に対して、当面は事前審査の強化やRMTの取り締まりを中心とした対応を続けるとみられるが、RMTにまつわる詐欺などの犯罪増加や政治環境の変化などをきっかけに抜本的な行動に出る可能性も十分に考えられそうだ。

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この記事を書いた人

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