<概要>
2020年9月4日、国家市場監督管理総局は「商業秘密保護規定(意見募集稿)」を公表し、2020年10月18日までパブリックコメントを募集した。
中国政府は近年、知的財産権の保護に積極的に取り組んでおり、本意見募集稿の内容もさらなる市場の規範化に向けた意欲を感じさせるものとなっているが、証拠保全に関する規定等にあいまいな内容が散見されるため、修正の動向を見守る必要がある。
適用範囲
自然人、法人または非法人組織に関わらず、中国の商業秘密権利者の持つ商業秘密を侵犯する行為またはその侵犯行為をほう助する行為が適用対象となる。(3条)
商業秘密の定義と要件
- 商業秘密とは、公知でなく、商業的価値があり、権利者が相応の秘密保持措置を講じている技術情報、経営情報などの営業情報を指す。(5条)
- 技術情報とは、科学技術の知識・情報・経験によって得られた技術方案を指し、設計、手順、製品処方、生産プロセス、生産方法、研究開発記録、実験データ、技術ノウハウ、技術図面、プログラミング仕様書、ソースコード、関連ドキュメント等の情報が含まれるが、これに限らない。(5条)
- 営業情報とは、権利者の事業活動に関連する各種の情報を指し、経営ノウハウ、顧客リスト、従業員情報、サプライヤ―情報、生産マーケティング戦略、財務データ、在庫データ、戦略立案、仕入れ価格、利益モデル、入札の底値、入札内容等が含まれるが、これに限らない。(5条)
- 商業情報とは、技術情報や事業情報など、事業活動に関連するあらゆる種類・形態の情報を指すが、これに限らない。(5条)
商業秘密の侵犯行為
- 経営者は、窃盗、贈収賄、詐欺、強要、電子的侵入、又はその他の不正な手段により、権利者の商業秘密を取得してはならない。これには次のものが含まれるが、これに限らない。(12条)
- 商業スパイを使うこと
- 金銭や有形・無形の利益の提供、高給での雇用、脅迫、罠等を使って、権利者の従業員やその他の者に、商業秘密を取得するよう誘導する、偽る、又は強要すること
- 商業秘密が保存されている電子情報システムへの不正または無許可でのアクセス、あるいは商業秘密を破壊するためのコンピュータウイルスを埋め込むこと
- 商業秘密を含むか類推することが可能な権利者の管理下にある文書、物品、材料、原料、又は電子データに無許可で接触、所持又は複製すること
- 経営者は、不正な手段によって取得した商業秘密を開示、使用、あるいは他人に使用させてはならない。(13条)
- 経営者は守秘義務に反して知り得た商業秘密を開示、使用、他人に使用させてはならない。(14条)
- 経営者は、守秘義務に反して又は商業秘密を保持する権利者の要求に反して、商業秘密を取得、開示、使用または他人に使用させるよう扇動、誘引、ほう助してはならない。(16条)
商業秘密侵犯行為の調査と起訴
- 商業秘密の侵犯行為の調査は、県レベル以上の市場監督管理部門が行う。ただし、外国人による中国の商業秘密の侵犯行為については、国家市場監督管理総局および権利を付与された省レベルの市場監督管理部門が調査を行う。(20条、38条)
- 商業秘密の侵害行為であると認定された場合、市場監督管理部門は行政処分と併せて侵害行為に対する賠償調停を行うことができる。調停が不成立となった場合、権利者または保有者は人民法院に提訴することができる。(29条)
法律責任
- 本規定に違反する商業秘密の侵害行為は、不正競争防止法21条の規定に従って処罰する。(30条)
- 次のいずれかの情状に該当する場合、不正競争防止法21条の「状況が深刻な場合」に該当する。(31条)
- 商業秘密の侵害により得た利益が50万元を超えている
- 権利者の破産を招いた
- 損失の賠償を拒否した
- 電子的な侵入により権利者のオフィスネットワークおよびコンピューターのデータをひどく破損した
- 国家や社会に重大な損失を招いたか、あるいは社会に悪影響を及ぼした
- その他の状況が深刻な行為
- 市場監督管理部門が行う商業秘密の侵害行為による損害調査では、侵害を原因とした実際の損失を以て確定する。実際の損失が計算できない場合、権利侵害者が得た利益を以て確定する。(35条)
コンサルタントによる見解とポイント
本意見募集稿は、2019年に改正された不正競争防止法および2020年6月に審議が行われた刑法修正案(十一)草案における商業秘密(営業秘密)に関する規定の改正にあわせて、現行の「商業秘密の侵犯行為禁止に関する若干の規定(关于禁止侵犯商业秘密行为的若干规定)」を全面的に見直すものである。
本意見募集稿の適用範囲に中国国内に地域を限定する文言はなく、海外の自然人や法人による侵害行為も対象に含まれると解釈される。
また商業秘密に関する定義や要件について、現行規定では大まかな説明しかされていなかったため、地域や当局の担当者によって判断にばらつきがあることが問題となっていた。中国政府は近年、知的財産権の保護に積極的な姿勢をとっており、本意見募集稿でも改正不正競争防止法に照らして個々に例を挙げながら詳細に定義が説明されている。
さらに時代の変化にあわせて、デジタルデータやいわゆるサイバー攻撃を含む電子的な手段による侵害行為についても新たに規定が盛り込まれている点は大いに評価される。
本意見募集稿の内容もさらなる市場の規範化に向けた意欲を感じさせるものとなっているが、証拠保全に関する規定等にあいまいな内容が散見されるため、修正の動向を見守る必要がある。
原文(司法部法制網) http://www.chinalaw.gov.cn/government_public/content/2020-09/04/657_3255348.html
本レポートは「中国法令アラート 2020 年 9 月号」の内容を一部抜粋、編集したものです。「中国法令アラート」では、最新の法令・制度変更に関する詳細および予想される日系企業への影響、実務で得た動向変化に関する情報等を毎月 PDF でお届けしています。