中国の新型肺炎(新型コロナウイルス)の感染拡大に伴う2020年の労務管理と経営支援策

目次

1. 春節休暇・出勤日の延長に関して

今回の新型コロナウイルスによる肺炎(以降「新型肺炎」という)の感染拡大を受けて、国務院弁公庁は 2020 年の春節休暇の延長について次のように通知している。

これとは別に、上海市、広東省、浙江省、江蘇省など 20 を超える省や自治区では、連休明けの出勤開始日を 2 月 10 日(月)まで繰り延べするという通知を出している。いずれの地域も、電気、ガス、水道、通信、公共交通といった生活インフラ関連業種、医療機器・薬品、防護品メーカーといった医療関連業種、およびスーパーや食品メーカー、物流企業などの市民の生活に大きく関わる業種は除外するとしているが、一般企業の出勤開始日は今後さらに先延ばしされる可能性もある。

出勤開始日の繰り延べについては、上海市人力資源社会保障局が公式見解を発表している。これによると、2 月 10 日より前に従業員を出勤させる場合は、地域の疫病防控指揮部に説明資料、疫病管理対策、感染者を出さないことに関する誓約書などを提出し、審査と許可を受ける必要がある。万が一、これによって感染者が出た場合には生産停止命令に加え、法的責任を追及するとの文言があり、実際に許可されるかは不透明である。

なお感染拡大の影響が最も深刻な湖北省では、出勤開始日を 2 月 14 日(金)まで延期している。この対象には、春節期間中に湖北省を訪れて親せきや友人を訪問した省外の者を含むとしており、これに該当する従業員が出勤できるのは 14 日からとなる。

2. 新型肺炎の流行期間中における賃金の扱いについて

出勤開始日が 2 月 10 日(月)まで繰り延べされたが、3 日から 9 日までの期間をどのように扱うかは地域によって見解が違うため、所在地の人力資源社会保障局などへ随時確認することが望ましい。

上海市、蘇州市、広東省などは、3 日から 9 日までの期間は労務管理上、休日扱いになるとしている。国が定めた春節の祝日は 2 日までであり、3~9 日は出勤が必要な平日にもあたらないためだ。これにより、この間に許可を受けて従業員を出勤させる場合や、在宅勤務を命じる場合には、休日出勤として割増賃金を支払うか代休を与える必要があるとの見解を出している。

また従業員が新型肺炎に感染したり、隔離対象となったり、あるいは政府の隔離措置などで一定期間出勤できない場合の扱いについて、人力資源社会保障部弁公庁は次のように定めている。

さらに、新型肺炎の影響で経営が困難な状況となった企業について、次のように定めている。

この生活費については、各省、自治区、直轄市の人力資源社会保障庁が通知を出している。おおむね最低賃金の 70~100%となっており、例えば北京市では 70%、河南省では 80%となっている。このほか地域ごとに、病欠期間についても最低賃金の XX%以上を支払うよう定めていたり、交通機関の停止や隔離などで出勤できない従業員に対する有給休暇の付与などが定められていることもあるため、こちらも管轄の人力資源社会保障庁などへ確認することが重要となる。

3. 企業への救済策も検討進む

新型肺炎の感染拡大により様々な産業への打撃が懸念される中、各地の地方政府が独自の救済策を発表している。

北京市政府は 3 日付で、19 項目にわたる特別措置を発表した。これには、新型肺炎に感染あるいは隔離により収入を失った市民への貸付、企業への融資枠拡大や融資利率(金利)の引き下げ、雇用調整を行わない企業への納付済み失業保険費の還付、オフィスビルや商業施設の賃料減免の推奨などが含まれる。

社会保険費については全ての企業を対象に 1 月と2 月分の納付期限を 3 月末に延長し、旅行宿泊業、貿易流通業、飲食業など大きな影響が懸念される 10 の産業に限り 7 月末まで延長するとしている。

上海市では、3 日に人力資源社会保障局から 4 項目の企業負担軽減策が出されている。こちらは、2020 年中に雇用調整を行わなかった企業で各種条件を満たす場合に、納付済み失業保険費の 50%を還付、社会保険費の納付対象期間を 3 カ月短縮、社会保険費の納付が遅れた場合の滞納金免除、出勤停止期間中に従業員が受講したオンライン研修費用の 95%を補助、となっている。

日本企業の進出も多い江蘇省でも、蘇州市人民政府が 2 日、10 項目の中小企業支援政策を出している。こちらは対象を新型肺炎の影響により生産経営が困難となった中小企業に絞り、金融機関に対し零細企業の与信額の引き下げや貸し渋りの禁止、雇用調整を行わない企業に対し納付済み失業保険費の 50%を還付、社会保険費の納付期限を最長 6 カ月延期、国有資産の賃料 1 カ月免除・2 カ月半額、不動産税や都市郷鎮土地使用税の減免、申請に基づき中小企業の納税期限を最長 3 カ月延期、創業パークやインキュベーションセンターに入居する中小企業への優先支援などを行うとしている。

この他の地域も企業向けに特別措置や支援政策を用意していると伝えられており、今後順次発表される可能性は高い。対応策の内容は地域によって様々であるため、所在地の地方政府や人力資源社会保障局、あるいは産業ごとの管轄当局に随時確認し、最新の情報を得るとともに、従業員への通知にあたっては書面で各種決定を残すなどの対応が求められる。

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