慢性疾患者が増える中国の高齢者、進むIoTヘルスケアデバイス

目次

1. 高齢者と慢性病患者が増える中国

国家統計局によると、2018 年末における中国の高齢者数(60 歳以上)は 2 億 4949 万人で、全人口の 17.9%を占めた。65 歳以上は 1 億 6658 万人で、同じく 11.9%を占める。総人口は 13 億 9538 万人で、男性 7 億 1351 万人に対し、女性は 6 億 8187 万人となっている。

2018 年は総人口が 530 万人増加したが、高齢者数はこれを上回る勢いで増えており、60 歳以上が 859 万人、65 歳以上が 827 万人増加した。中健聯盟産業研究センターの予測では、60 歳以上の人口は 2019 年に 727 万人増え、2020 年はさらに 603 万人、2021年も 521 万人増加する見通しだ。

2017 年の調査では、60 歳以上の高齢者は全国に 2.41 億人いるが、このうちおよそ 6 割にあたる 1.4 億人が高血圧や糖尿病などのいわゆる生活習慣病、あるいはがん、脳卒中といった長期に渡る治療が必要な病を患っている(これらをあわせて中国語で「慢性病」という)。65 歳以上では 75%が何らかの病気を抱えている状況だ(中国健康城市建設研究報告 2018)。

また 2017 年の高齢者の死亡原因トップ 3 は、循環器系疾患、がん、呼吸器系疾患といずれも慢性病で、それぞれ死因の 38.9%、28.6%、11.4%を占めた。

若者も含めた国民全体では、高血圧が 1.7 億人、高脂血症が 1 億人、糖尿病が 9,240万人、肥満が最大 2 億人、脂質異常症が 1.6 億人、脂肪肝が 1.2 億人いるとされ、糖尿病患者は 30 秒に 1 人の割合で増えているという。

なお世界では 65 歳以上を高齢者とするのが一般的だが、中国では「老年権益保障法」で 60 歳以上を高齢者(中国語では「老年人」)と定めている。

2. IoT を慢性病対策に活用

増え続ける慢性病患者に対し、国務院は 2018 年に「インターネット+医療ヘルスケア」政策の一つとして、オンライン診察やオンライン処方を解禁した。これにより二度目以降の診察は、カルテの電子データを共有している住居近くの衛生サービス所や地域の拠点病院で受けるか、あるいはインターネットを通じたオンライン診察で済ませることもできる。まだ始まったばかりの試みだが、患者の通院の負担が減るだけでなく、地方都市や農村地域に住む患者も恒常的に高い水準の医療サービスが受けられるようになると期待されている。

このオンライン診察で活用されているのが、ヘルスケア用の IoT デバイスだ。スマートフォン用のアプリと連動して血圧などのヘルスケアデータを自動で記録したり、薬の飲み忘れ防止にアラームが鳴ったりするものが一般的だが、さらに医薬品販売サイトや保険商品と連動しているものもある。人気のデバイスをいくつか紹介しよう。

● 橙意家人 (ORANGER) http://www.chengyifamily.com

橙意家人科技(天津)有限公司は、天津に拠点を置く企業で 2014 年に創業。モバイルヘルスケア端末の製造販売を軸に、ヘススケアデータの分析プラットフォーム、リモート健康管理指導サービスなどの運営も行っている。

同社は 2014 年に A ラウンドで 500 万ドルを調達した後、2017 年 12 月にヘルスケア・医療関連機器メーカーのフィリップスとの戦

略的提携に合意し出資を受けている。2018 年には B ラウンドで 7,000 万元の調達に成功した。現在展開する主な製品は、呼吸器系疾患等で用いられるパルスオキシメーター、肺機能を検査するスパイロメーター、電子血圧計、SAS(睡眠時無呼吸症候群)スクリーニング検査装置、携帯型心電計、ネブライザーなどで、海外メーカー製の自宅用酸素吸入器、酸素ボンベの販売も行っている。

パルスオキシメーターは、腕時計型の測定器部分が 6.1 ㎝×5.6 ㎝、重さは約 60gで、指先に装着するプローブと一緒に使用する。京東(JD)での販売価格は 2,988 元(約47,000 円)。

本体を腕にはめて電源ボタンを押すと測定が始まり、測定終了後は Bluetooth で専用アプリにデータが送信される。アプリから直接医師のアドバイスを求めることもでき、データは家族のスマートフォンから確認したり、ダウンロードすることもできる。

スマートウォッチのようなデザインの血圧計は、1 日中ずっとつけていれば、日中は 30 分毎に、夜間は 1 時間ごとに血圧を測定する。

USB で充電することができ、データは Bluetooth で専用アプリに送信され、分析レポートが作成される。

同社のスパイロメーターは小型で持ち運びを想定したサイズだが、中日友好医院の臨床実験によって医療機関用のスパイロメーターと同等の結果が得られることが明らかになっている。

自宅で測定したデータは自動的に専用アプリに送られ、患者用アプリだけでなく、医者用アプリや専用 WEB サイトでも日々のデータや分析レポートを確認することができる。データは地域の衛生サービス拠点や病院だけでなく、専門外来のある大きな病院とも共有可能で、スパイロメーター 症状が悪化した場合にも安心だ。

● 掌上糖医 https://www.zyhealth.com

糖尿病患者をターゲットにしたヘルスケアデバイスを展開する杭州康晟健康管理咨詢有限公司は、2015 年 1 月に創業した。まもなくエンジェル投資家から数百万米ドルの投資を得て、2015 年 10 月には A ラウンドで 1,500 万米ドル、2017 年 10 月には Bラウンドで 1 億元を調達した。市販の血糖測定器に接続することでアプリにデータを送信する小型端末は 2015 年の発売から 3 カ月で数万台が飛ぶように売れ、創業から 3 年で売上は 2 億元を超えたという。

アプリでは毎日の血糖値を記録することで、随時専門医から生活や食事のアドバイスを受けたり、治療方針の相談をすることができる。このほか、糖尿病患者向けの食事に関する読み物や医薬品を扱う EC サイト、患者同士が交流できる場も設けられている。

一方の病院向け SaaS プラットフォームでは、医師が患者の家庭での測定データを確認できるほか、蓄積されたデータをビッグデータとして活用することもできる。

2018 年までに浙江や上海を中心に全国の1,500 カ所の大型病院で導入されているという。

● 康康血圧 http://www.kang.cn

北京康康盛世信息技術有限公司は、2013 年に中国で初めてスマートフォンと組み合わせて使用するスマート血圧計を発売し、同年 8 月にエンジェル投資家から 400 万元を調達した。2014 年には血圧の計測を 24 時間行うウェアラブル血圧計を世界で初めて発表し、プレ A ラウンドで 3,000 万元、2015 年 12 月には A ラウンドで数千万元を獲得している。

二の腕に装着するタイプのモデルは、測定開始のボタンがあるだけのシンプルなデザインだ。付属の SIM カードを挿入することで、データを送信する。実質的な使用料として通信費が毎月 5 元かかり、微信などから半年分、1 年分、2 年分を支払う必要がある。本体の価格は 1,500 元前後となっている。

手首に装着する腕時計型のモデルは、Bluetooth を使ってスマートフォンのアプリにデータを蓄積する。決められた時間になると自動的に測定を行うもので、本体価格は 2,000 元前後だ。

いずれのモデルでも、専用アプリでいつでも測定結果が確認でき、異常な値が出た場合、医師の診察を受けるよう通知が届く。また分析レポートが週に 1 度、月に 1 度、半年に 1 度、年に 1 度のタイミングで届き、医師のオンライン相談窓口も 24時間利用可能だ。

保険会社とも提携しているため、高血圧が原因で特定の病気を発症した場合には、最高で 8,000 元を受け取ることができる。同社は全国の高血圧専門医の 30%にあたる 3,000人の医師と提携しており、病院や製薬会社向けの慢性病管理ソリューションの提供も行っている。

● 糖護士 http://www.dnurse.com

2013 年に創業した北京糖護科技有限公司も糖尿病患者をターゲットにしたヘルスケアデバイスを展開している。創業から 2 カ月後にエンジェル投資家の支援を受けた後、2015 年に A ラウンド、2016 年に A+ラウンドでそれぞれ数千万元の資金調達を完了した。

専用の小型血糖値測定器は、ディスプレイもなくコンパクトだ。専用チップを差し込んだ測定器を直接スマートフォンに接続することで、結果を確認したり、データを蓄積したりすることができる。測定器は本体とチップ 50 枚がセットで 200 元前後、チップのみは 50 枚で 65 元ほどとなっている。

スマートフォンとは GPRS で通信するタイプのモデルならば、本体で直接結果が確認でき、データはアプリに蓄積される。本体とチップ 50枚、針などがセットで 250 元前後だ。微信(WeChat)を通じて家族へ測定結果を送信する機能も付いており、離れて暮らす子供がプレゼントとして贈るケースが多いという。アプリでは、血糖データのほか食事や運動の記録もできる。医師からのアドバイスも随時受けられ、生活習慣を変えるためのゲームも用意されている。

掌上心電 http://www.mhealth365.com

心房細動患者向けの携帯型心電計を展開する南京熙健信息技術有限公司は、2012 年末に政府から 200 万元の資金を得て創業。2013 年に国内初のモバイル型心電計を発表し、2014 年秋にはモバイル医療機器としては国内で初めて登録証を取得したのを機に、エンジェル投資家から数百万米ドルの投資を獲得した。2016 年には A ラウンドで数千万元を獲得し、欧州や北米市場にも進出を果たしている。全国の 30 を超える大病院で指定心電計となっており、患者からの信頼も高いとされる。

最も小型の手持式モデルは、左右の電極に指を置くだけで測定が完了する。本体はわずか 14g で、価格は 1,000 元前後となっている。専用アプリとは Bluetooth で通信し、データを蓄積する。測定結果に問題があればアプリから通知が届き、アプリを通じて専門医のアドバイスを受けることもできる。また微信(Wechat)で離れて住む家族にデータを送信することも可能だ。

万歩計ほどの大きさのウェアラブルモデルは、スポーツ時の心拍数計としての利用も想定している。本体を付属のゴムベルトで胸の下あたりに固定したまま運動を行えば、アプリで心拍数や心電図が確認できるというもので、こちらも Bluetooth で通信する。販売価格は 1,700 元前後だ。

● BodyPlus http://www.bodyplus.cc

2015 年に北京で創業した博迪加科技(北京)有限公司は、ウェアラブル電極インナーの開発で、2017 年に数千万元の調達に成功している。病気を抱える人でも着やすい下着タイプだけでなく、健康な人がターゲットのスポーツウェアタイプも展開している。

いずれも服の胸の下あたりに測定器がついており、着用しているだけで常時心電図を測定する。測定したデータは自動的にスマートフォンに送られ、スポーツウェアタイプではアプリで呼吸数や消費カロリーも確認できる。問題があれば専門家からアドバイスが届く仕組みだ。スポーツウェアタイプの価格は600元前後となっている。

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この記事を書いた人

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