2021年7月1日、人力資源社会保障部弁公庁は「電子労働契約締結ガイド」を公表した。
本ガイドでは、これまで法的根拠があいまいであった電子労働契約が、正式に法的効力を有することが明文化されている。各地域で電子労働契約の普及にまつわる政策が出されていることもあるため、電子労働契約の採用にあたっては所在地の管轄当局に最新状況を確認することが望ましい。
本稿では、同ガイドの重要なポイントを整理する。
電子労働契約とは
本ガイドでいう電子労働契約とは、労働契約法、民法典、電子署名法およびその他の法律に基づいて協議を経て合意した、書面とみなすことができる電文の形式をとり、かつ信頼できる電子署名を用いて締結される労働契約を指す。法律に基づいて締結された電子労働契約は、法的効力を有する。(1条、2条)
電子労働契約の締結
雇用者が労働者と電子労働契約を締結する際には、電子労働契約締結プラットフォームを通じて契約を締結しなければならない。(3条)
電子労働契約は、政府が用意するモデル契約書を使用して締結することを奨励する。(5条)
電子労働契約は、雇用者と労働者が電子署名を行い、タイムスタンプを付した後に効力を生じる。(9条)
電子労働契約の取り扱い
雇用者は、労働者がいつでも電子労働契約の全内容を閲覧、ダウンロード、印刷できるようにしなければならない。またこれに際して、労働者から費用を徴収してはならない。(12条)
電子労働契約の保存期間は、労働契約法の労働契約の保存期間に関する規定に従う。(14条)
情報保護とセキュリティ
電子労働契約締結プラットフォームおよびそれに依拠するサービス環境は、データセキュリティ等級保護管理弁法の3級で求められるセキュリティ保護を実施しなければならない。(18条)
本ガイドに対する見解
本ガイド2条では、電子労働契約が法的効力を有することが正式に法令の中で明文化された。電子労働契約については、コロナ禍で採用活動をオンラインに切り替える企業が増え、労働契約の締結もオンラインで行いたいというニーズが増えたことから、2020年3月に同弁公庁が有効性を認める通達(人力资源社会保障部办公厅关于订立电子劳动合同有关问题的函)を出していた。しかしこれでは法的根拠があいまいだとして導入を見送る企業も多く、法令での明文化が求められていた。
本ガイドでは、電子労働契約の締結にあたり、政府が用意したモデル契約書の使用を推奨することが明記されている。参考までに、人力資源社会保障部は、2019年11月に「労働契約(通用)」と「労働契約(労務派遣)」の2件のモデル契約書(人力资源社会保障部关于发布劳动合同示范文本的说明)を公表している。
すでに複数の都市で電子労働契約の採用を推進する政策が実施されている。例えば北京市では、2020年11月に全市で電子労働契約の採用を進める方針が示され、契約の締結、適用範囲、具体的な手順等に関する規定が設けられている。また杭州市では、市が電子労働契約プラットフォーム「杭雲簽」を運営しており、2021年3月のサービス開始から約3カ月で9.5万社が登録し、53万件の電子労働契約が結ばれたという。
実際に電子労働契約を結ぶ際には、杭州市の例のように所在地の人力資源社会保障局が運営する専用プラットフォームが利用できるほか、「放心簽」などの民間電子契約サービスを利用することもできる。ただし、公的な専用プラットフォームを利用しない場合は、電子労働契約データを別途当局に提出しなければならない点も考慮して判断したい(15条)。
公式リンク(中国語) http://www.mohrss.gov.cn/xxgk2020/fdzdgknr/zcfg/gfxwj/ldgx/202107/t20210709_418119.html?keywords=
本レポートはクララが発行する「中国法令アラート 2021 年 8 月号」の内容を一部抜粋、編集したものです。「中国法令アラート」では、最新の法令・制度変更に関する詳細および予想される日系企業への影響、実務で得た動向変化に関する情報等を毎月 PDF でお届けしています。