中国のライブEC事情

はじめに:売上比較

1. ライブEC発展概要

ライブECとは

ライブECとは【ライブ】と【EC】を組合せたもので、配信者は商品を紹介してリアルタイムに消費者とコミュニケーションを取りながら、消費者の購買意欲を高めて成約するという販売方式をいう。

ライブECの発展沿革

2016年に登場。最初にライブECに参入したのは【蘑菇街】と【タオバオライブ】だったが、現在はほとんどのプラットフォームがライブECに参入している。

配信者は当初はインフルエンサーのみだったが、現在は芸能人、企業CEO、政府官僚、外国大使など様々な人が参加し、多元化している。

取扱商品のも当初は化粧品のみだったが、現在は車、不動産、ロケットなど幅広い商品が取り扱われている。

ライブECの市場規模

•2020年、中国ライブECの市場規模は1兆元を超え、成長率は前年比197%に達した。

ライブECのユーザー規模

2020年、中国のインターネットユーザー数は6.17億人に達した。このうちライブECのユーザー数は3.88億人で、インターネットユーザー数全体の39.2%を占めている。

ライブECはコンテンツの配信、商品の紹介、ユーザーとのリアルタイムコミュニケーションといった特徴があり、視聴者はその場で購買意欲が高められる。視聴者から購入者への転換率が高く、調査によると転換率は66%に達している。

ライブECの配信者数

2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響により、オフラインの店員や従業員がライブECの配信者となった。配信者数は2019年の27.5万人から2020年の123.4万人に増加した。

ライブECに関わる法人数も2020年に8862社に達した。2019年より6939社増加し、増加率は360%だった。

ライブECの業界構造

ライブECには、販売事業者/メーカーの従業員等が配信するタイプのもの、インフルエンサー(Key Opinion Leader;KOL)が配信するタイプのものがある。KOLの育成やマネジメント等を行う仲介事業者(Multi Channel Network、MCN)を通じてKOLに依頼する形態も多くみられる。 淘宝直播では、90%が販売事業者/メーカーの従業員等が配信するタイプである。

ショートビデオ配信プラットフォームではライブ配信からECサイトへのリンクが行われており、消費者はプラットフォームのECサイトや外部のECサイトで購入を行う。ECプラットフォームでのライブECは、プラットフォーム内で取引が完結する。

配信者やMCNには販売事業者/メーカーから報酬が支払われる。報酬は販売額に応じて支払われる形態が多い。 ライブ配信プラットフォームには、販売事業者、MCN等から手数料が支払われる。

ライブEC主要プラットフォームの市場シェア

各社が公開した2020年の業績によれば、タオバオのライブECによる売上は4000億元、快手は3912億元だった。抖音は売上総額が5000億元に達したが、抖音自身が自社で運営するECの売上は1000億元にとどまる。

各プラットフォームのトップ配信者の所属状況をみると、配信者トップ50のうちタオバオに所属するのは29人、快手は20人だが、抖音は罗永浩ただ1人である。

ライブEC配信手法:インフルエンサー配信、自社配信

独身の日のようなセールイベントではインフルエンサーと提携して配信するが、普段は自社配信(自社スタッフ配信や配信代行業者へ依頼)を行って、購入意向があるユーザーとリアルタイムでコミュニケーションを取り、販売する。

インフルエンサー配信と比較すると、自社配信に集まる視聴者は自社商品に高い関心を持つユーザーに限られ、売上も低いが、コストや返品率が低いというメリットもある。

2. ライブEC配信者

インフルエンサーライブEC配信:ワークフロー

インフルエンサーのライブEC配信は1ヶ月~4ヶ月前から準備を始める

インフルエンサーライブEC配信:費用感

2019年にインフルエンサーの李佳琦と提携してタオバオライブで配信を行った際には、商品紹介時間20分、販売リンク1つという条件で、固定費用4.5万元+リベート(売上の30%-45%)であった。

ライブEC配信者の特徴:性別、年齢、学歴構成

配信者は女性が多い、男性が増加する傾向にある。

配信者の年齢分布は、30歳以下が約半分を占めており、若者がインフルエンサーになる傾向にある。

配信者の学歴は、大学以上は3割しかいないが、増加傾向にある。

ライブEC配信者:その他配信者

ライブECの影響拡大に伴い、様々な人が参入している。官僚、企業CEO、外国大使などもライブECに参加しており、より注目され、商品への信頼性も高まるという効果がある。

3. ライブECユーザー

ライブECユーザーの性別、学歴分布

ユーザーは女性の割合が多く、6割以上を占める。

学歴が短大以下のユーザーに、ライブECの浸透率が高い。

ライブECユーザーの収入分布

ユーザーの7割以上が月収5000元以下の価格に敏感なタイプである。

収入が1万元以上のユーザーはリピート率が低く、ライブECを体験すること自体に興味があるタイプである。

ライブECユーザーの購買原因

ユーザーがライブECで購入する理由は、1番が時間限定や数量限定のクーポンがあるから、次にコスパ重視だから、3番目にその商品が必要であるからの順となっており、基本的には合理的な購入行動だと考えられる。

【配信者の紹介により商品に魅力を感じた】、【ライブルームの雰囲気が盛り上がった】、【配信者が好き】といった理由で商品を購入したユーザーも多くいることから、ライブECが商品の販売促進に効果があることがわかる。

ライブECユーザーの購入商品の種類分布

ライブECユーザーが購入した商品の人気ランキングトップ3は【日用品】、【アパレル】、【食品】である。日常生活に必要となるものを購入することが主な目的であることがわかる。

ライブECユーザーの不安点

ユーザーの54.2%は【商品の品質に問題がないか】という不安を感じている。またユーザーの41.7%は、配信者が商品の情報の一部を隠しているのではないかという不安を感じている。

4.  ライブECの企業事例

プラットフォーム事例:点淘 (旧名:タオバオライブ)

2020年末までの年間ライブ配信数は10万回以上、約1億種類の商品がライブルームで販売された。配信者数は前年より661%増加、2020年の年間売上額は約4000億元。

MCN企業事例:美ONE

美ONEは2015年に設立され、主要IPは李佳琦でフォロワー数は1.7億人。李佳琦の愛犬である奈娃もIP化され、2021年7月までに関連売上は3000万元に達した。

5. 今後のトレンド

2020年4月に習近平国家主席がライブEC業界に従事する人々を励まし、ライブECには社会的価値があると表明した。中国におけるライブECの発展は、国家戦略という高いレベルでも重視されている。

中央政府と地方政府が、ライブECに関する規制や規範を次々と発表しており、市場の管理基準が向上している。

ライブECの取り扱い商品が低単価の商品から高単価の商品へと広がっており、SKUの種類がより豊かになっている。

芸能人、政治関係者が配信者として参加したことで、ライブECの社会的知名度がアップし、新規ユーザーの拡大に繋がっている。

5Gの普及に伴い、ライブECに4Kライブ配信やVR/ARといった新技術が導入されれば、ユーザーにより良い購買体験を与えることができる。

6. Appendix

ライブECに関わる規制

2020年以降、当局がライブECに関する規制や指導意見を複数発表し、業界団体も業界ルール等を発表した。

特に2021年4月に国家インターネット情報弁公室、公安部、商務部が共同で発表した「オンライン販売管理弁法(試行)(网络营销管理办法(试行))」では、ライブECに参入する各主体の定義、ライブECプラットフォームの義務、配信者への要求(年齢、商品、広告内容等)が明確に定められた。

ライブECの関連ビデオ

インフルエンサー薇娅のライブ配信【ロケット販売】

インフルエンサー李佳琦のライブ配信

李佳琦とジャックマーによるライブ配信【口紅の販売勝負】

その他動向

トップインフルエンサーの薇娅が、2021年12月20日に脱税を行ったとして追徴課税を含む13.41億元(約239億円)の罰金の支払いを命じた。

※杭州市税務署の発表によれば、2019-2020年の薇娅の脱税額は、合計7.03億元(約125億円)に上った。

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この記事を書いた人

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