中国の巨大物量「菜鳥」の最先端物流倉庫の仕組みとは

1.中国の巨大物流会社「菜鳥」

「菜鳥網絡(CAINIAO)」は、阿里巴巴(アリババ)グループが展開するEC事業の物流を支える企業だ。天猫(Tmall)が約21億元(持ち株比率約43%)を出資したほか、宅配・物流大手の順豊、申通、圓通、中通、韻達もそれぞれ5,000万元ずつ出資し、2013年5月に設立された。2019年11月に行った増資で、現在のアリババの持ち株比率は約63%となっている。

菜鳥の本社は深センにあるが、香港に拠点を置くCainiao Smart Logistics Network(Hong Kong)が出資する100%外資企業という建付けだ。中国各地にアリババグループ向けの物流センターを展開しており、いずれもIoTやAI、ビッグデータを活用した最先端の“スマート倉庫”として知られる。

現在、全国19カ所の港湾に大型保税倉庫を持つほか、21省の72都市に大小合わせて353の倉庫があり、総面積は619万平米に及ぶ。ちなみに東京ドーム132個分である。2019年の菜鳥の荷物取扱数はなんと600億個を超える。

無錫空港そばにある菜鳥の主要倉庫の一つ

毎年のように売上記録が話題になるネットショッピングの巨大セール「双11」も、菜鳥の物流センターなしでは立ち行かない。2019年の「双11」の売上は天猫だけで2,684億元(約4.3億円)に達し、前年の記録を500億元あまり上回った。

セールでは2,000以上のブランドの1,000万種類を超える商品を扱い、ピーク時の注文数は1秒あたり54.4万件に上ったが、菜鳥の物流センターが1億件分の注文を発送するのにかかった時間はわずか8時間。中国の国土は日本の25倍もあるが、たった2.5日でこの1億件分の荷物すべてが購入者の手元に届いている。

菜鳥の物流倉庫からは「双11」が開催された11月11日だけで12.92億個、18日までの1週間を含めると18.8億個もの荷物が発送されたが、これは日本の宅配便の年間荷物取扱数の半分弱にあたる(2018年の荷物取扱数は約43億個、国土交通省)。

2.菜鳥の物流システム

現地でも“スマート倉庫”と呼ばれている菜鳥の物流センターだが、その実態はスマートどころか“インテリジェント倉庫”と言っても過言ではない。年間600億件ものオーダーを処理できるのは、倉庫管理システム(WMS)と連携して自律的に働く無人搬送車(AGV)の活躍のおかげだ。

無錫の菜鳥未来園区には950台を超えるAGVを導入

AGVのメーカーは中国だけで数十社、海外にもAmazon RoboticsやGreyOrange、Locus Roboticsなど多くのメーカーがあるが、菜鳥の物流倉庫ではクイックトロン(Quicktron、上海快倉智能科技有限公司)のAGVが導入されている。その数は合計1万台に上る。

クイックトロンは2014年に上海で創業したいわゆるITスタートアップ企業で、AGVの出荷台数は世界トップクラスの実績を持つ。菜鳥は3年ほど前に複数のメーカーのAGVを数十台ずつ導入して試験運用を繰り返し、最終的に選んだのがクイックトロンだったという。

クイックトロンのAGVは自律分散型AIロボットといわれるもので、ただの無人搬送車ではない。顧客からの注文データとWMSのデータを元に、AIが最適なピッキングルートを判断して商品ラックを運ぶのだが、拠点となる大型の倉庫では更なる効率化のために運用を工夫している。端的に言えば、売れ筋商品とその他の商品で別々のピッキング方法を取り入れ、AIが荷合わせのタイミングまで調整するのだ。

3日で地球1周分も走るクイックトロンのAGV

江蘇省無錫市にある中国で最初のIoTロジスティクスパーク「菜鳥無錫未来園区」を例にとると、倉庫内は入庫エリア、Aグループの商品エリア、Bグループの商品エリア、荷合わせエリア、梱包エリア、発送エリアの6つの区画に分かれている。

各メーカーなどから送られてきた商品は、まず入庫エリアで検品が行われる。次に棚入れの段階で、膨大な数の商品を出荷頻度に応じて二つに分ける。Aグループは毎日数百個から数万個単位で売れているような商品、Bグループはそれ以外の商品だ。販売数がごく少ない商品をCグループに分ける場合もある。

Aグループの商品は、注文があるたびに荷合わせエリアまで商品棚を運ばせるGTP(Goods to Person)の運用では間に合わない。そのため、トータルピッキングを応用した、いわば“箱to Person”での運用を行っている。Aグループの商品は入荷する量も多いため商品棚に分けることはせず、入荷時の荷姿のままで、商品によってはパレットに積まれたままで保管される。

AGVは商品の発送に使う空の段ボール箱をたくさん乗せてAグループの商品エリアにやってくるので、当該商品のピッキングスタッフは空箱にそれぞれ商品を入れる。ピッキングのためにエリア内を歩き回る必要はない。Aグループ商品のピッキングを終えたAGVは、そのまま荷合わせエリアに移動する。

Aグループの商品エリアでは、発送用の段ボール箱が乗ったラックをAGVが運ぶ

一方のBグループもGTPをベースにしたちょっと変わった運用をしている。まず、Bグループの商品群はSKU(Stock Keeping Unit、在庫管理の最小単位)ごとに棚入れしておく。商品エリア内にあるピッキングステーションでは、スタッフのそばに空の黄色いコンテナが12個積まれたラックが置かれている。オーダーのあった商品棚がAGVでステーションに運ばれてきたら、スタッフは作業台のモニターに表示される指示に従って、商品をピッキングし、一つのコンテナに放り込む。この時モニターには商品の写真や数だけでなく、商品棚のどこにあるのかも表 示される。

ピッキングの手順は、商品棚の当該商品のバーコードを読み取り、指定された数を取り出したら、ランプが点灯しているコンテナに入れ、ランプを消せば作業完了だ。最大でラック2つ分、24種類の商品のピッキングを終えたら、ラックはAGVで荷合わせエリアに移動する。この時、荷合わせするAグループの商品とのタイミングを合わせるため、いったん待機エリアに行く場合もある。

Bグループのピッキングステーションの様子

そして荷合わせエリアには、Aグループの商品が入った発送用段ボール箱を乗せたAGVとBグループの商品が入ったコンテナを乗せたAGVがぴったり同じタイミングでやってくる。荷合わせステーションのスタッフは、Bグループの商品をコンテナから取り出し、Aグループの商品がすでに入っている段ボール箱に指定の数だけ入れれば、荷合わせは完了だ。荷合わせが終わった段ボール箱は、次の梱包工程へとAGVで運ばれていくのだが、空になったコンテナを乗せたAGVもまた自動的にBグループの商品エリアへと戻っていく。

500㎏まで持ち上げて運ぶことができる

梱包エリアで自動梱包された荷物は、最後の発送エリアへと移動し、宛先の地域ごとに自動的に振り分けられる。無錫未来園区の物流倉庫では、華東地区の200以上の都市や地域ごとに分けているという。その先の個人宅などへの配送業務は、パートナーの宅配会社が担っている。

宛先の方面ごとにロボットが荷物を分ける

菜鳥の物流センターではこのような仕組みによって、毎日平均80万件の注文を処理している。AGVがそれぞれ別のエリアからピッタリ同じタイミングで荷合わせエリアにやってくるよう完璧に制御されているだけでも十分に“インテリジェント倉庫”なのだ が、クイックトロンのAGVはAIが倉庫内の状況を判断してどのエリアの仕事もやってのける。

仮にAグループの商品エリアでAGVが足りないようであれば、他のエリアにいるAGVが自律的に判断して応援に駆け付けてくれるのだ。AGVは倉庫の床に1メートルおきに貼られた二次元バーコードを読み取りながら移動しているが、お互いに衝突しないよう通信もしている。一度の充電で約8時間働くが、充電が足りなくなれば自動的に充電スポットへと移動し、休憩する。  菜鳥でAGVの技術担当者を務める楊開封氏によると、クイックトロンのAGVを導入したことで仕分け効率は3倍に向上したといい、倉庫では健気で賢いAGVのことを「小藍人(小さな青い人)」と愛称で呼んでいるという。

無錫未来園の倉庫では通常の5倍の商品数を扱う

3.専用受け取り窓口も増加中

菜鳥は荷物の受け渡し専用施設「菜鳥駅站」を学校や人の集まる街中に設置している。中国では、郵便物や宅配便は自宅よりも職場や学校へ届ける方が一般だ。これは中国が国有企業の時代、誰もが職場の敷地内にある団地に住んでいたため「自宅=職場」という認識だったことに由来する習慣だとも聞くが、ともかく今では単に「その方が受け取りに便利だから」であろう。学校に届けるのは、ほとんどの学生がキャンパス内の寮で共同生活をしているからだ。

江蘇省無錫市にある江南大学の菜鳥駅站 使われなくなったボイラー室を改装している

中国の大学は一般的に規模が大きく、学生だけで数万人はいるため毎日届く荷物の数も多い。そのため、届いた荷物はどこか一カ所に集めておき、学生に自分で取りに来てもらうようになっている。かつては、地面に直接荷物の山が広げられ、その中から一つずつ宛先を確認して、自分の荷物を見つけ出さなければならない状況だった。

翻って、全国でも早い段階で菜鳥駅站が設置された江蘇省の江南大学には、学生と教員、その他の職員やその家族らを合わせるとおよそ4万人が暮らす。通常でも毎日6,000個を超える荷物が届き、双11のようなセールがあれば、連日1万個もの数が届くという。

大まかな荷物の受け取りの流れはこうだ。天猫などで買い物をすると、アプリで荷物の発送状況を追跡することができる。学校内の菜鳥駅站に荷物が届いたという通知がきたら、菜鳥駅站に出向き、通知にある荷物番号や棚番号を元に自分の荷物を探す。荷物を見つけたら出口でスタッフにアプリのバーコードと荷物の伝票にあるバーコードを読み取ってもらえば受け取りは完了だ。菜鳥駅站によっては、宅配ロッカーで受取りができる場合もある。

棚番号を元に自分の荷物をさがし、 出口でバーコードを読み取り荷物を確認する

学校のキャンパス内にある菜鳥駅站は、多くの場合、その大学の学生が事業として運営を担っている。宅配業者から荷物を受け取り、一つずつスキャンしながら荷物棚に並べたり、出口で荷物と伝票の突き合わせ確認をしたり、逆に学生が発送する荷物の受付をしたりとスタッフの作業は多い。大学によっては寮の部屋まで配送する有料サービスを行っている場合もある。いずれも大学生の創業経験の場であり、学費や小遣いを稼ぐアルバイトの場にもなっている。

一方、地域のコミュニティにある菜鳥駅站 は、マンションの1階テナントに入っていたり、コンビニが兼務していることが多い。こちらもキャンパス内にある菜鳥駅站と似たような仕組みだが、小規模な菜鳥駅站であれば、受付スタッフがバックヤードから探して持ってきてくれる。住所や勤務先を明かしたくない場合に、最寄りの菜鳥駅站を宛先に指定することもできるので、日本のコンビニ受取りと同じようなイメージだと思えばよい。

浙江大学には2,000個分の宅配ロッカーがある

ちなみに菜鳥駅站の運営はそう儲かるものではないようだ。インターネット上で紹介されている例によると、マンション6,000戸が商圏のコンビニ兼菜鳥駅站で、毎日500個ほどの荷物が届き、発送する荷物が100個前後あるケースで、毎月の収入は9,000元ほどだという。毎日500個の荷物をいったん受け取る作業だけでも時間がかかるため、専業スタッフが少なくとも2人は必要となり、その賃金が2人分で毎月7,000元、インターネット料金や菜鳥のシステム利用料などで毎月300元、それに光熱費もかかる。朝8時から夜10時まで毎日休みなく営業しなければならず、菜鳥駅站だけではまったく儲からない。ただしコンビニの空いたスペースを使えば家賃がかからない上、意外に“ついで買い”が多いので、コンビニ経営者には人気の副業(?)なのだという。

華東理工大学の菜鳥駅站はおしゃれなコンテナハウス

菜鳥駅站は現在すでに2,800を超える学校に設置されており、コミュニティの菜鳥駅站は全国に4万カ所以上ある。最も多いのは重慶市で、荷物取扱数は全国26位にも関わらず、2019年7月時点で60の大学を含め2,200カ所以上の菜鳥駅站がある。増え続ける荷物の受け取りをより便利にするため、菜鳥は今後もさらに菜鳥駅站を増やす方針を明らかにしている。

※写真は全て菜鳥公式サイトより引用

クララオンライン コンサルティング事業部

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