北京市の新型コロナウイルス対策

目次

1. 北京市政府の対応 (1 月~2 月)

北京市で新型コロナウイルス感染者が初めて発表されたのは 2020 年 1 月 20 日で、北京市大興区の医療機関にて武漢旅行歴のある 2 人の新型コロナウイルス感染が確認された。

28 日には北京市で初めてとなる感染による死亡者が出ている。2 月に入ると北京市では武漢渡航歴のない感染例が増え始め、外出時のマスク着用および公共交通機関の利用、住宅街や店の出入りの際に体温チェックが必須となった。体温が 37.3℃以上の場合は、救急ダイヤルで医療機関へ搬送される処置がとられた。

14 日からは北京市外から市内に入る場合、14 日間の在宅観察が必須となった。さらに 29 日から、感染源を遮断する目的で湖北省滞在者は北京市に入ることが一時的にできなくなった。

2. 北京市政府の対応 (3 月~現在)

3 月に入ると北京市は、天津市、河北省と提携して「北京健康宝」という Alipay(支付宝)や WeChat(微信)で表示される健康状態チェックミニプログラムサービスを始めた。この「北京健康宝」は、自身の Alipay あるいは WeChat アプリから QR コードをスキャンすると、緑(異常なし)、黄(自宅観察中)、赤(集中観察中)のいずれかが表示されるもので、北京市では出社、通勤、レストランなどあらゆる出入りの際に提示が求められる。

4 月 1 日からは北京市の出勤者全員(家政婦も含む)に「北京健康宝」での健康チェックが義務付けられ、12 日には北京市内のホテルに宿泊する場合も「北京健康宝」の提示が必須となった。19 日以降は条件を満たした上で「北京健康宝」が緑表示の者は隔離なしで北京市内外へ出入りが可能となった。

その後、5 月中旬からは市内で外出時のマスク着用義務がなくなった。6 月に入ると車のナンバープレートによる運転制限措置が再開され、公共交通機関も乗車率が 100%まで回復し、体温検査もなくなった。

北京市政府は今回の市内での感染拡大について、①武漢市からの感染者による感染拡大(1月)、②市内の感染者による感染拡大、③市外・国外からの感染者による感染拡大、④ウイルスの制御成功、という4段階で説明している。現在は④のウイルスの制御成功の段階にある。市内では新規感染者が 1 カ月以上発生していない。しかしながら他都市(天津市、上海市など)と異なり、未だ外国人の入国制限が続いている。

なお外国人は中国の身分証がないことから、原則として「北京健康宝」の利用ができない。そのため携帯電話番号による位置情報システムを利用したサービスで、直近 14 日間に北京市から出入りしたかどうかのチェックが行われた。

また外国人は集中隔離にかかる費用が個人負担となる。感染確定診断が出た患者と疑似患者については、中国医療保険に未加入の場合は治療完了後に治療費を徴収し、加入している場合は規定に基づき治療費の自己負担分を支払うとされた。

3. 市内のマンションの対応

北京市内のほぼすべてのマンションでは、独自の対策が取られていた。2 月から市内のマンションでは管理が厳重になり、マンション敷地内に入る際は出入り口で体温チェックが義務付けられた。

また住民以外の出入りが禁止され、マンションによっては出入りの際に住民証明カードの提示が必須となった。宅配、デリバリーの受け渡しも配達員がマンション敷地内に入れないため、マンション敷地外で受け渡しが行われた。

4. 市内の企業の対応

北京市内の企業は、市が通知した「ビル内のオフィス単位での予防抑制要求をさらに明確にすることに関する通告」に基づき、出勤する従業員に対して毎日体温チェックを実施し、オフィス内の人員密度を下げるため出勤時間や出勤日を制限(スプリット制出勤、在宅勤務なども活用)した。

オフィス内では毎日 3 回、各回 20~30 分の換気を行い、人と人との間隔を 1 メートル以上空け、マスクを着用しなければならない。さらに、こまめに手洗いをし、水分を多くとるよう指導がなされた。

会議の回数、時間はなるべく減らす方針となり、会議に参加する場合はマスクを着用し、会議室に入る前には手の消毒が義務づけられた。会議後は室内の消毒が行われ、コップなどは使い捨てのものが利用された。食事の際は、人と人との距離を 1m以上あけ、食後はテーブルや椅子が消毒された。食事スペースの狭いオフィスでは、従業員の食事時間をずらすなどの対策が取られた。

また出勤する社員に対して、毎週一定数のマスクと消毒液を無償で配布する企業や機関もあった。給与に関しては、出勤日数に応じた金額か、あるいは政府の定める最低額を支払うという形が多くみられた。

5. 北京市政府が行ったビジネス関連の支援策

北京市政府は、新型コロナウイルスの感染拡大によって影響の出た医療やビジネスに対しても複数の支援を行った。2 月 3 日には「新型コロナウイルス肺炎に関する予防と抑制の更なるサポートと若干の措置」が通知され、治療に使われる輸入薬品や医療機器の配送、新型肺炎感染者の治療費負担、失業保険費の返還、社会保険料の徴収延期、賃貸料減免実施企業への補助金交付、食品価格の変動状況報告、寄付金ルートの迅速な確保などを行った。

3 月 12 日には「湖北省に滞在し北京市に復帰できない人員の労働関係安定措置に関する通知」を公布した。従業員が湖北省に滞在中、雇用主は一方的に労働契約を解除してはならず、湖北省滞在従業員の労働契約が満期となる場合は、北京市への復帰が許可されるまで契約を延長し、双方が協議の上で処理しなければならないとした。正常勤務できない湖北省滞在従業員に対しては、3 月から雇用主が北京市の基本生活費の 2 倍(1,540 元×2 倍=3,080 元/月)以上を支給することとなった。雇用主に対しては、湖北省滞在従業員が北京市への復帰を許可される当月まで、1 人につき毎月 1,540 元を基準とした職場臨時補助金が支給された。

3 月 16 日には「仕事と生産の再開支援を目的としたオンライン手続きの実施やライセンスの有効期限延長を含む 19 項目の具体的措置」が発表され、食糧生産許可や食品事業許可などの許可証の有効期限が一定期間延長された。

5 月 7 日には北京市財政局より「基幹産業における中小零細企業の雇用安定を的確にする通知」が発表された。北京市の失業保険に加入しているハイテクイノベーション企業、都市の交通インフラ系企業、生活サービス系企業などの重点業種のうち、新型コロナウイルスの影響で 2020 年 2 月~4 月の生産経営収入が前年同期比 80%以上減少した企業について、従業員 1 人当たり 4,540 元まで補助金を申請できるとした。

6. まとめ

北京市では 1 月末から新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために数々のルールが発表された。これらのルールは、日本の「要請」とは異なり法的拘束力を持つため、違反者には法的処罰が課された。処罰を受けるのは外国人も例外でなく、外国人の違反者には居留許可が取り消されるといったケースも北京市では見られた。

補助金に関しては、日本のように市民に直接給付する形ではなく、家賃を免除する、給料を一定額支払うなどの条件を満たした企業に対して、北京市政府が補助金を出すといった形がほとんどであった。

現在北京市では、1 カ月以上新規の新型コロナウイルス感染者が出ていない。国外からの入国規制は解除されていないものの、市内の経済活動は徐々に回復傾向にある。北京市政府は落ち込んだ消費の回復を目的に、市内の実店舗やオンラインで使える総計122 億元(約 1,870 億円)の「北京消費クーポン券」を用意し、時期を分散してオンライン上で配布している。

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この記事を書いた人

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