岐路に立つ中国のシェアバイク

目次

1. シェアバイクが走り過ぎた 3 年

日本でも都市部を中心にようやく普及し始めたシェアバイク。中国では 2015 年の誕生から爆発的にサービスが増えたが、過当競争に資金難、放置自転車、保証金トラブル、法令による規制と次々に嵐に見舞われ、3 年経った今では急激に勢いを落としている。

現地メディアの報道によると、ある程度の規模で展開したサービスは最盛期の 2016年だけで 30 を越えていたという。主なところでは、摩拝単車(mobike)、永安行(YOUON)、小鳴単車、小藍単車(bluegogo)、智享単車、北京公共自行車、騎点、奇奇出行、CCbike、7 号電単車、黒鳥単車、哈啰出行(hellobike)、酷騎単車、1 歩単車、由你単車、踏踏、Funbike単車、悠悠単車、騎唄、熊猫単車、雲単車、ofo 小黄車、優拝単車、電電 Go 単車、小鹿単車、小白単車、快兎出行、緑遊共享単車(GreenBike)、悟空単車、3Vbike 単車、丁丁単車、閃電単車、DDbike などが知られるが、派手に問題を起こして倒産したり、いつの間にか姿を消したりで、現在も“生き残っている”のはわずかだ。

政府はシェアバイクサービスの発展を奨励する姿勢を示す一方で、市場の規範化には厳しい態度で挑んでいる。北京や上海を含む21 都市では車両の新規投入が禁止され、都市ごとに自転車の総数をコントロールする方針がとられている。また、それぞれの都市でシェアバイクサービスの管理規定が出されており、駐輪禁止エリアの設定に加えて、なかには車両を管理するスタッフの人数から迷惑駐輪への対応方法、メンテナンスの間隔、デポジットの取り扱い、駐輪エリアの管理に至るまで詳細なルールが設けられているケースもあり、運営コストに大きく影響している。

このような環境で更にサービスを拡大するには、規制がなくライバルもいない地方の小規模都市に進出するか、海外進出を模索するしかない。だがシェアバイクサービスは利益モデルが確立しておらず、VC 等からの投資に頼らざるを得ない。特に最近は、資金不足が自転車のメンテナンスに影響しているようで、大量に並ぶ自転車の中から故障していない自転車を探す方がたいへんといった声も聞かれるようになった。

2. それでも拡大が期待される市場

いっときに比べてブームが落ち着いたのは確かだが、それでも市場は 2020 年にかけて成長が続く見通しだ。

中国の大手 IT 調査会社、易観(Analysys)のまとめによれば、2017 年の市場規模は 90.24億元だったのに対し、2018 年は 132.96 億元と前年比 46.7%の伸びが期待される。2020年にはさらに市場が拡大し、169.9 億元に達すると予想する。

一方でシェアバイクアプリのアクティブユーザー数は、各社がユーザー獲得キャンペーンを展開した 2017 年夏にピークを迎え、一時は 2 社で延べ 7,000 万人が利用していたが、7 月ごろから大都市を中心に自転車の新規投入が制限されるようになると横ばいに落ち着いた。また季節とも関係しており、冬の訪れとともに利用が減り、また春になると利用が回復する傾向がみてとれる。

2018 年 4 月時点の調査では、主要 3 社のユーザーの男女比は概ね同程度で、やや男性が多い。またユーザーの中心は各社とも 24 歳から 40 歳となっている。

ユーザーの居住地別では、サービス開始直後から自転車を大量投入し、利益度外視のキャンペーンを繰り広げた ofo と mobike が北京や上海といった超 1 級都市でそれぞれ3 割近いシェアを持ち、1 級都市とあわせて 90%近いシェアを握る。逆に後発の hellobikeは ofo と mobike が参入していない地方都市を中心にサービスを展開したことから、1級都市と 2 級都市であわせて 7 割を越えるシェアを獲得している。

サービス別にユーザーの多い都市をみると、ofo は上位 5 都市で全体の 47%を占めており、天津だけで 15.00%のユーザーを抱えている。mobike も上位 5 都市で全体の 45%を占める。しかし hellobike は上位 5 都市で 25%のユーザーしかなく、最も多い武漢でも 6.67%となっている。

ちなみにofoとmobikeを両方使っているユーザーは17.86%いるが、ofoとhellobike、mobike と hellobike を両方使っているユーザーはそれぞれ 3.59%と 4.21%しかいない。3 社とも使っているユーザーは 1.18%だ。

3. 投資意欲減るも買収のうわさは絶えず

シェアバイクサービスが抱える問題は少なくないが、2017 年から 2018 年春にかけては各社とも巨額の資金調達に成功している。2018 年に入ってからは ofo が阿里巴巴(アリババ)等から 8.66 億ドル、hellobike が阿里巴巴グループの金融会社、螞蟻金服(AntFinancial)等から 7 億ドルをそれぞれ調達している。

そして 2018 年 4 月には、フードデリバリー等の生活関連サービスを展開する美団点評が mobike を 27 億ドルで買収した。美団点評によると 4 月末時点の mobike のアクティブユーザー数は 4,810 万人で、利用可能な自転車は 710 万台、サービス開始からの利用回数は累計 10 億回を越えたという。ただし買収時点で毎日 1,570 万元の赤字が発生している状態だったといい、その後も状況が好転してはいないようだ。

ofo については、7 月末に配車アプリ等を運営する滴滴出行が 15 億ドルでの買収を提案したと報じているが、合意に至ったという話はついに聞かれなかった。その後、9 月には E2-2 ラウンドとして螞蟻金服から新たに数百万ドルの調達に成功している。しかし 10 月 19 日には hellobike が ofo を買収する計画が水面下で進んでいるとの報道が流れた。これについて ofo は、協業の可能性を示唆しつつも買収については否定するコメントを発表している。

4. 岐路に立つシェアバイク各社

mobike は 2018 年 7 月に全国で完全デポジット免除を宣言した。これまでもデポジットの免除は行われていたが、対象都市や個人信用スコア等の条件があり、対象となるのは一部のユーザーに限られていた。現時点でデポジットを預けているユーザーは、アプリで返金手続きをすれば 2-7 営業日で返金されるという。また 7 月 5 日からは、買収元の美団のアプリトップページからもmobike の利用手続きができるようになっている。

車両に関しては、同じく 7 月に同社初の電動アシスト車「mobike E-bike」がお披露目された。最高時速は 20km で、車体は 25.5kg と軽量だ。当面は四川省広漢地区で試験運用を行うとしている。廃棄車両の扱いについては、搭載したチップを頼りに車両は 100%回収し、スマートロックや太陽光パネル等の一部の部品については検査して再利用しているといい、実際 2 年前のサービス初期に投入した自転車は交換時期を迎えており、順次車両の入れ替えが進められている。例えば深センでは 10.3 万台を新品に入れ替える計画で、今年 4 月から半年をかけてすでに 6 万台の交換を済ませたところだ。

海外展開の面では、9 月に英マンチェスターからの撤退を決めている。マンチェスターは同社にとって初の欧州市場進出の地だったが、2017 年 7 月にサービスを開始して1 カ月足らずで全体の 10%にあたる 200 台余りが盗難に遭ったり、故意に破壊されたりしたといい、その後も被害が減らなかったためサービス終了に至ったと説明している。

一方、買収のうわさが絶えない ofo は、協力会社への未払いに関わる訴訟を複数抱えている状況だ。今年 8 月末には、鳳凰自行車が ofo を運営する東峡大通(北京)管理咨詢公司を 6851.11 万元の未払いで訴え、翌 9 月には百世物流科技が運送サービス費およそ 1,400 万元の未払いで訴えている。9 月に E2-2 ラウンドで調達した資金はもっぱら給与支払いに使われるといい、戦略的投資どころか、未払い金の支払いにも充てられないと聞く。10 月には ofo の創業者である戴威 CEO(最高経営責任者)が東峡大通の代表を退いているが、これは多忙な戴威 CEO が裁判に時間を割けないためだとの見方が強い。

車両に関しては、「ofo が 10 台あれば 9 台が壊れていて、残り 1 台は乗れるがスピードが出ない」と揶揄され、メンテナンスが追い付いていない状況が伺える。それでも深センでは毎日約 1,600 台を回収し、必要に応じて修理をしているという。もちろん ofoも電動自転車の投入を計画しているようで、10 月 19 日付けで特許も取得済みだ。車両もお披露目されているが、ほとんどの都市で電動シェアバイクを禁止していることから、どうサービス化するのか注目される。

海外展開では ofo も撤退が続いている。7 月にはドイツのベルリンに約 3,000 台を投入したが、3 カ月の試験期間を経てサービス終了を決定。イスラエルからも撤退し、オーストラリアでも 9 月までにサービスを終了すると伝えられている。つい先週には、滋賀県大津市、和歌山県和歌山市、福岡県北九州市からの撤退が報道されたばかりだ。

hellobike は全国 16 都市に 70 万台余りを投入しているが、9 月には創業者の楊磊 CEO(最高経営責任者)が直近の利用回数データを元に「業界ナンバーワン」を宣言した。

mobike や ofo が苦戦しているようにシェアバイクだけで採算を取るのが難しいためか、今後は移動手段全般にビジネスを拡大していく方針で、会社名も“哈啰単車(hellobike)”から“哈啰出行”へと変更した。新エネルギー車メーカー・威馬汽車(WM Motor)と“シェアバイク+カーシェアリング”のビジネスモデルを模索しているほか、10 月からは上海、成都、南京で配車予約サービスもスタートしている。生活サービスや金融サービスも展開する計画があるといい、依然として成功モデルが見つからないシェアバイク業界で頭一つ抜きんでることができるのか、同社のビジネス展開に投資市場も注目している。

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