多様化する中国オンライン決済サービス

目次

オンライン決済サービス市場概要

中国の第三者決済サービスには、インターネット上の決済手段として普及している「オンライン決済」のほか、実店舗での非現金支払い手段である「プリペイドカード」および「銀聯デビットカード」などがある。こうした第三者決済サービスは、ユーザーの取引情報や口座情報など多くの個人情報を扱うことから、2010年6月に中国人民銀行が発表した「非金融機関支付服務管理弁法(金融機関以外の決済サービス事業者の管理に対する規則)」に基づき、中国人民銀行が事前に審査、許可した事業者のみがサービスを運営している。2012年8月9日までに、241社が申請し197社が「支付業務許可証(第三者決済サービス取扱い資格)」を取得している。本レポートでは主に、ECでよく用いられる「オンライン決済サービス」について取り上げる。

オンライン決済サービスの取引規模は年々伸びており、中国のIT調査会社、易観国際の調べによると2012年第3四半期(7-9月)は前年同期比73%増の9764億元、12年通年では3兆5000億元を突破する見通しとなっている。

登録ユーザー数は12年3月末時点で延べ10.89億人に達しており、取引額からみた市場占有率は、阿里巴巴(アリババ)グループの支付宝(Alipay)が全体の46.9%と圧倒的シェアを持つ。続いてインスタントメッセンジャー「QQ」を運営し、多くのユーザーを抱える騰訊(テンセント)の決済サービス、財付通(TenPay)が20.4%を占めている。

主な事業者と特徴

オンライン決済サービスを扱う事業者は、その成り立ちやビジネスモデルからいくつかの類型に分けられる。ここでは市場シェアの大きな大手事業者を紹介する。

<総合型>

●支付宝(Alipay) https://www.alipay.com

中国の電子商取引最大手、阿里巴巴(アリババ)傘下のオンライン決済サービスで、2004年12月にサービスを開始。2011年末時点のユーザー数は6.5億人に上り、中国国内の130を超える金融機関と提携。同社が運営するB2BのAlibaba.com、C2Cの淘宝網(Taobao)、B2Cの天猫(Tmall)のほか、国内外の各種ECサイト、オンラインゲーム、チケット・ホテル予約サイトなど45万社以上に決済プラットフォームを提供している。

●財付通(TenPay) https://www.tenpay.com

人気インスタントメッセンジャーソフト「QQ」を運営する騰訊(テンセント)グループのオンライン決済サービスで、2005年9月にサービスを開始。同社が運営するC2Cの拍拍網やオンラインゲームプラットフォームの騰訊遊戯など、40万社以上で利用されている。QQアカウントでも登録可能で、ユーザー数は約2億人。

<銀聯型>

●銀聯在線支付(ChinaUnionPay) http://cn.unionpay.com/

中国国務院の同意の下、中国人民銀行を中心に設立された銀行カード連合、銀聯グループが運営しており、2002年3月にサービスを開始。店頭でのデビットカード決済ができる「銀聯」マークのついたキャッシュカードのうち、オンライン決済の申込み及び認証を受けたカードで利用できる。

●網付通(ChinaPay) http://www.gnete.com/

上述の銀聯電子支付の子会社で、2001年12月にサービスを開始。同じく「銀聯」マークのついたキャッシュカードのうち、オンライン決済の認証を受けたカードで利用できる。これら銀聯系のサービスは、事前に金融機関でインターネットバンキングの開設をする必要がなく、特定の決済プラットフォームに会員登録をする必要もないことから、利用者が増える傾向にある。

<先駆型>

●環迅支付(iPS) http://www.ips.com/

オンライン決済サービスの黎明期にサービスを開始した企業で、2000年7月にサービスを開始。学校向けの決済ソリューションを提供しており、復旦大学など多くの大学が授業料の納付に利用している。

●首信易支付(PayEase) http://www.beijing.com.cn/

中国初のオンライン決済サービスとして1999年3月にサービスを開始。同類のサービスでは唯一ISO 9001:2000 を取得しており、政府認定の公共決済プラットフォームとしても利用されている。

<ベンチャー型>

●快銭(99Bill) https://www.99bill.com/

ベンチャーキャピタルの投資を受け、2005年1月にサービスを開始。2011年末時点のユーザー数は8100万人で、各種ECサイトやチケット予約など139万社が利用している。新規サービスの開拓に熱心で、分割払いや宝くじの購入にも対応している。

●易宝支付(YeePay) http://www.yeepay.com/

同様にベンチャーキャピタルの投資を受けて2003年8月にサービスを開始。30万社以上にサービスを提供している。ユニセフをはじめとする国内外の公益団体への寄付を扱うサービス「易宝公益圏」には、すでに2360万元を超える寄付が集まっており、活動が高く評価されている。

<専門型>

●匯付天下(ChinaPNR) http://www.chinapnr.com/

2006年7月のサービス開始以来、個人向けオンライン決済サービスにとどまらず、大型企業やチェーン店向けの資金回収ソリューション、財務管理サービス、40社あまりのファンド会社と提携した資産運用サービスなどにもサービスを広げている。

●新生支付(HNAPay) https://www.hnapay.com/

海南省に拠点を置く航空運輸大手、海航集団傘下のオンライン決済サービスで、2008年2月にサービスを開始。自社グループの物流、旅行、ホテル、商業施設などを中心に利用されており、2011年末には単月の決済額が100億元を突破。取引の90%以上が物流と旅行関連となっている。

<海外型>

●Paypal  https://www.paypal-biz.com/

外貨決済ができる通常のサービスのほかに、人民元決済に特化した国内取引向けの中国専用サービス「Paypal貝宝」を展開している。手数料無料をアピールしているが、中国国内での知名度はまだ低い。

支払い方法

中国のオンライン決済サービスは、日本で一般的なクレジットカードによる一括払いのほか、様々な支払い方法に対応している。ここでは代表的な支払い方法について解説する。

●クイック支払い

銀聯カード(デビットカード)の仕組みを利用したもので、自分のアカウントに金融機関のキャッシュカード番号と携帯電話番号を登録しておけば、パスワードと携帯電話に送られてきた認証コードを入力するだけで支払い手続きが完了する。代金は銀行口座から即時引き落とされる。決済の都度キャッシュカードの番号を入力する必要はなく、インターネットバンキングの契約も不要であることから、現在急速に利用者が増えているが、セキュリティが心配だという声も聞かれる。

<クイック支払いの購入手順>


支付宝を例に、初めてクイック支払いを利用する場合の手順を紹介する。


クレジットカード又はキャッシュカードが選択できる。クレジットカードの場合はカード発行元が定める日に、キャッシュカードの場合は決済手続きが完了次第すぐに、それぞれ代金が口座から引き落とされる。

●チャージ支払い

決済サービスのプラットフォーム上に個人のバーチャル口座を開設し、インターネットバンキングなどを通じてある程度の金額をチャージした後、その残高の範囲内で決済する方法。オンライン決済サービスの黎明期には主流だったが、事前にインターネットバンキングの契約が必要な上、一度チャージすると残高の引き出しに手数料がかかることから、最近は利用者が減っている。

●ネットバンキング支払い

決済手続きの途中で、いったん金融機関のインターネットバンキング画面に移って支払い手続きを行う。インターネットバンキングの契約が必要で、毎回ログインする手間はかかるが、決済時にワンタイムパスワードなど金融機関のセキュリティ対策を利用するため安全性が高い。

●電話カード支払い

携帯電話の通話料をチャージするカードを利用して支払う方法。街頭の新聞スタンドなどで事前にカードを入手しておく必要があり、サービスによってはバーチャル口座にいったん全額をチャージする必要がある。決済額に応じた手数料がかかるが、カードは額面より大幅に値引きして販売されることが多いため、最終的に安く買い物ができる場合もあるようだ。

●店頭支払い

決済画面に表示された支払い番号や二次元バーコードをコンビニ、郵便局、スーパーなどに持って行き代金を支払う方法で、店頭での支払い時に手数料が上乗せされる。一部の提携店舗では、マルチメディア端末を使って支払うこともできる。

●代理支払い

決済手続き時に友人など支払いを依頼したい人のアカウントを入力すると、依頼された本人へ通知が届く仕組みで、プレゼントの購入によく利用される。このほか未成年で銀行口座が無い場合や口座残高が足りない場合に利用されている。

ビジネスモデル

 中国のオンライン決済サービスは、売り手と買い手の間に立って取引の安全性を保証するエスクロー機能を備えているため、購入者の支払った代金はいったん決済サービス事業者が預かり、商品の到着が確認できた後に、週に1~2回まとめてマーチャント(出店者、売り手)側に送金される仕組みとなっている。

また収益モデルは取引手数料及び加盟料を軸としたもので、ECの場合はマーチャントから年額あるいは月額の基本利用料金と売上に応じた手数料を徴収し、購入者側の手数料は無料とする場合が多い。支付宝の場合、マーチャントから徴収する手数料は決済額の0.003~0.004%ほどと聞かれる。2012年11月11日の「光棍節(独身者の日)」には、グループのECサイト淘宝網と天猫で販促イベントが行われたこともあり、当日の取引回数は1.058億回、取引額は191億元に上り、手数料収入が5730万元を超えたと伝えられる。

このほか、銀行への振込みや決済サービス上のバーチャル口座間での振込みには、ユーザーの会員ランクや振込み金額に応じた手数料を徴収するのが一般的だ。支付宝の普通会員の場合、手数料は1件につき送金額の0.5%(最低1元、最高50元、2時間以内の着金)で、これを支付宝と金融機関が分け合う形となっている。クレジットカードの返済の場合、ユーザーから2元程度の手数料を徴収すると同時に、クレジットカード発行元の金融機関からも手数料を得ていることが多い。

今後の見通し

オンライン決済サービスは、これまでECをはじめとするオンラインサービスに対する決済手段として成長を続けてきたが、近年は大都市を中心に光熱費など公共料金の支払い、クレジットカードの返済、宝くじの購入や交通違反の反則金納付にまでサービス範囲を拡大している。今後もEC以外の市場を積極的に開拓する動きが続くと見られ、教育、保険、ファンドといった分野での利用が進みそうだ。

また携帯電話向けオンラインゲームのユーザーが増え、ECサイトのモバイル対応も進んでいることから、携帯電話を使ったオンライン決済の利用はさらに広まる見通しであるが、より簡単でセキュリティ性の高いサービスの提供が急務となっている。さらに、決済サービスのグローバル化が強まっていることから、銀聯や支付宝のように日本の決済サービスと提携して海外展開に乗り出す事業者が増えることも予想される。

現在オンライン決済サービスの許可証を持つ企業は197社に上り、競争は年々激しさを増している。モバイル決済サービス「掌中付」の張紹尭総裁が、新華網のインタビューに対し「市場規模に対してプレーヤーが多すぎる。今後2年の間に淘汰が進み、十数社ほどに絞られるだろう」と答えているように、各社とも利益率は大変低く、取引量の多さでコストをカバーしている状況だ。新たな市場を開拓すると共に、安全で付加価値のあるサービスを創出できるかが、生き残りのカギを握ると考えられる。

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この記事を書いた人

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